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プラネタリウム・クリエーター 大平貴之さん(2)
2017.9.14
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就職と大きな転機
――プラネタリウムが趣味から仕事になりそうだ、という意識はいつぐらいからおもちになりましたか?
最初にその印象をもったのは国際会議で作品を発表したときです。
大学の時に製作したプラネタリウム「アストロライナー」は専門メーカー顔負け、とか言われましたけど、プラネタリウムは公共施設に入るもので、それって役所向けの商売じゃないですか。いろんな世の中のことを知らなくても、個人が作ったものをそんなに簡単に、公共施設で何千万円もかけて導入するようなものにいきなり選んでもらえるなんて思わないわけです。
ソニー株式会社に就職したその年に、国際プラネタリウム協会の大阪大会が開催されるというので、過去の自分の作品を発表してみたんですね。そしたら海外の参加者からの反響がちょっと予想外だったんですよ。アメリカの会社から「これを製品化したい」という話も来て、心底びっくりしました。
そこで発表したぼくの作品は過去のものですから、次は会社の休暇を充ててもっと性能のいいものを製作して、もっとびっくりさせてやろう、と思って2年後のロンドン大会で発表することにしたんです。そのころから少しずつ事業になるかもしれないな、と考えるようになりました。
ロンドン大会で「MEGASTAR」を発表したあとは、反響は大きかったのですが、そもそも個人で製作したもので実績もなかったので、科学館などの公共施設に設置するにはそれなりのハードルがありました。その壁をぶち破るきっかけとなったのが、日本科学未来館だったんです。館長で宇宙飛行士の毛利衛さんが「MEGASTARの星空は、まるで宇宙空間で見た星空そのものだった」と言ってくれ、常設が決まった。これがいろんな意味で大きなステップになりました。個人で作ったプラネタリウムが、お台場の先端科学の殿堂と言われる場所に採用されたのですから。そこにドーンと置かれた、ということはいろんな意味でぼくにとって大きな出来事でした。「MEGASTAR」がいろんな人に知ってもらえるようになって、こうしてソニーから独立して会社を設立できるまでになった、大きな契機でしたね。
――大平さんの活動の原動力とは?
プラネタリウムって電気・機械・光学・化学・数学・天文学……そういったテクノロジーの集大成であるとともに、できあがったプラネタリウムは、コンテンツ・音楽などと合わさって表現の世界でもある。このような世界を構築し、多くの人々に見てもらえることに魅せられています。
ぼくがプラネタリウムというテーマを選んだのは、いろいろな人々を繋いでくれる、ということにとても期待したんだと思います。科学技術って世の中でマイナスの面も取りざたされるようになって、社会のなかでは対立の種にもなっているところがある。そういうなかで、どうやって人々がコミュニケーションを図っていくかは、これから重要になってくると思います。プラネタリウムは産業としては小さいんですけど、宇宙をテーマにして、社会の未来を考えるきっかけを作ることができる。これが、ぼくの個人的な充足感にもつながっていて、ぼくの原動力になっているのかなと思います。
小学生の子どもをもつ方へ
――話は変わりますが、自分の子どもが大平さんのようにどこか尖っているなと感じたら、親はどうすればいいとお考えですか?
へんな話ですけど、大人はなるべく子どものやりたいことを邪魔しない。世間にはいろいろなルールがあるじゃないですか。でも、それをあてはめていくと、あれやっちゃいけない、これやっちゃいけない、ってなってしまう。その壁にどれだけ立ち向かえるか。すごく難しいことですけど、親子で負える範囲でリスクをとって、“何をどこまでならやってもだいじょうぶか”についての感覚を子どもにつかませることって大切だと思います。
一方で、大人があんまりものわかりがよすぎても、逆に子どもは何でも自由になっちゃうんで、ある意味で真逆のようですが、“これを越えてはダメ、という境界線を威厳をもってきちんと教えられる大人である”というのも大事で必要だなと思いますね。
――つまり一本芯の通った大人であることが大切なんですね。それでは最後に小学生のお子さまをもつ読者の方にメッセージをお願いします。
子どもにいろんな経験をさせてやってほしいと思いますね。それが、子ども本人が思ってもいないところからの刺激になると思います。夢がある子はまだいいんですけど、とくに、まだ夢が見つからない子や何が好きかわからない子には、スポーツをやらせてみたり、音楽を聴かせてみたり、絵を描かせてみたり……、いろいろな経験をすることで何か心の中に引っかかることがあったらいいと思います。
プロフィール
プラネタリウム・クリエーター
大平貴之 (Takayuki Ohira)
1970年、川崎生まれ。小学生の頃からプラネタリウムを自作し、1998年、従来の100倍以上の星を映すMEGASTARを発表。2004年、MEGASTAR-II cosmosがギネスワールドレコーズに認定。ネスカフェ・ゴールドブレンドのTVCMにも出演。セガトイズと共同開発した家庭用プラネタリウム「HOMESTAR」は累計115万台を突破。国内外施設への設置のほか、イベントプロデュースや音楽、アートとのコラボなど多方面で活躍。
受賞歴:日本大学優秀賞、川崎アゼリア輝賞、日本イノベーター大賞優秀賞(日経BP社)、BVLGARIブリリアント・ドリーム・アワード2006、文部科学大臣表彰(科学技術賞)
著書:「プラネタリウム男」(講談社現代新書)、「プラネタリウムを作りました。~7畳間で生まれた410万の星、そしてその後」(エクスナレッジ)