ZOOM UP!

チョークアーティスト 栗田貴子さん (2)

わたしの原動力

自分は楽しくて役に立つものを作っているという信念がある。
だからへこんでも立ち上がれるんです。

 

門前払いの日々の末、ついに扉が開いた!

――オーストラリアには、チョークアートを教える教室があったのですか。

いえ、わたしもあると思って行ったのですが、ないんです。
そこで電話帳に載っている看板屋さんに片っ端から電話して、教えてほしいと頼んだのですが、全滅。でも何とか職業訓練校で教えている先生を見つけ、電話で頼み込みました。何度も電話を切られてしまったのですが、ストーカーのように繰り返し頼み込み(笑)、最後は作文を書いて訴え、ブリスベンで看板屋さんを営んでいるお弟子さんを紹介してもらいました。ようやく修行できることになるまで、3カ月間、断られっぱなしでした。

――心が折れそうですね。でも帰国後は引っ張りだこだったのでは?

それが、なかなか仕事にはなりませんでした。
当時、一人暮らしをしながら午前中は派遣の仕事をし、午後からサンプル作品やホームページをつくり、夜またバイトに行くという生活をしていたのですが、なかなか依頼は来ない。2年ほど経ち、このままでは事態は進まないと思い、思い切って派遣の仕事を辞めて、カフェやレストランに飛び込み営業を始めたんです。もちろん断られっぱなし。へこみました。
でも自分を鼓舞し続け、「こちらのお店のために無料で看板をつくります。1カ月間置いてみて、気に入ったら買ってください」とお願いするようにしました。それでも売れずに引き取る日々が続きましたが、ついに買い取ってくれる店が現れたんです。うれしかったですね。
お客さんがお客さんを紹介してくれて、それからは何とか仕事が増えました。

苦労も失敗も無駄ではない。学ぶことが多いから

――チョークアートの指導を始められたのは?

サイトを見て教えてほしいという連絡が入るようになったので、出張教室に出かけるようになったんです。最初は1回きりの個人授業でしたが、そのうちもっと上達したいという声が出てきたので、カリキュラムをつくりました。その卒業生が増えたので、協会をつくったという経緯です。

――それにしても、ご苦労の連続でしたね。やめようと思ったことは?

ありません。やっぱり作ることが好きだし、自分が作っているのは、楽しくて人の役に立つものなんだと信じているから、やめるなんて考えなかった。これがわたしの原動力でもあります。

――ずっと信じ続けられること自体、栗田さんの強みですね。

失敗とわかっていても飛び込むタイプなんです(笑)。必ず得るものがあるから失敗してもいいと思っている。
オーストラリアでも、指導者を探す一方で、各都市の通りをくまなく歩き、勉強のためにチョークアート看板の写真を撮りだめました。おかげで36枚撮りフイルム30本分のストックができた。飛び込み営業をしたことも、相手のニーズを読み取る力、説得する力を磨く機会になった。無駄ではありませんでした。
実はチョークアートのプロコースの卒業試験として、当初は飛び込み営業で1件成約すること、というのがありました。それは飛び込み営業で学べることが多いという、わたし自身の実感によるものです。
それに、飛び込み営業をすることで、「いい作品にしなくては」と、責任感が強固になる。

――そこが、一般的なアートと違う点ですね。

チョークアートは、あくまでも実用的なアートです。お客さまがいて納期がある。だから作り甲斐があるんです。

海外に日本人のチョークアートを広めたい!

――栗田さんのおかげで、日本でもあちこちでチョークアートを見ることができます。

最近は肖像画の依頼や、印刷物にしようという話もいただきます。日本で初めてチョークアート専門の看板屋を開業したのはわたしですが、教室を展開するとか動画にするとか肖像画をえがくとか、いろいろな人がチョークアートの世界を広げてくれました。次にどんな仕事が来るのか楽しみです。

――今も作っていて楽しいですか。

楽しいですよ。完成すると何ともいえない満足感を覚えます。でも同時に、自分の力不足も感じます。もっと知識を吸収したい。今も、何かを見るごとに、どんな色を組み合わせればこれを表現できるのかな、と考えてしまいます。クセですね。先日、転んで膝から血が出たときも、思わず「オイルパステルの何番と何番を混ぜて・・・」と色を考えてしまった(笑)。

――では、今後の目標は?

海外のお店の看板を作りたい。日本のチョークアート文化を確立し、海外の人に見てほしいと思います。

――最後になりますが、小学生のお子さまを持つ保護者の方々にメッセージをお願いします。

子どもが「好き」といったものを、信じてほしいと思います。そして、苦手なものを平均まで持ち上げるより、得意なものを伸ばしてあげるほうが、子どもはきっと夢に向かって進める。わたしは、そういう生き方って幸せだと思います。

――ありがとうございました。

次回の「ZOOM UP!」は3月9日(木)更新。歌手の高橋みなみさんにお話をうかがいます。お楽しみに!

プロフィール

チョークアーティスト

栗田 貴子 (Takako Kurita)

1971年、神奈川県生まれ。絵画、洋裁が大好きな子ども時代を経て、アメリカの雑貨に惹かれ海外留学を志す。短大卒業後、企業に就職し資金を貯めて95年、単身でオーストラリアに語学留学。チョークアートに出合う。99年、再渡豪しブリスベンの看板屋に弟子入り。チョークアートを学ぶ。2000年、日本初のチョークアート専門看板屋として事業を開始。徐々に注目が集まり出張教室も開催。03年日本チョークアート協会を設立。通信講座を開講。以降、著書「はじめてのチョークアート」(MPC刊)が韓国語に翻訳されるなど活動が広がる。07年に株式会社アーティチョークへ法人化し、代表取締役社長に。11年に拠点を沖縄に移すも、全国からの注文や講義の要望に応え飛び回る日々。

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