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料理研究家 枝元 なほみさん(2)

目の前の課題を1つずつクリアしていったことで今がある

――枝元さんは、どんな小学生だったんですか?

すごく頑固で、親が「やれ」と言ったことは絶対にやりたくないみたいな子でした。父が会社員で、母が小学校の教員だったんですが、ほっといてくれるし、好きなことをやってよしという考えだったので、本当に好きなことばかりやってました。ものを作ることが好きで。

――食べることや料理への興味はありましたか?

それが、食には全然興味がなかったんです。ただ、両親が家にいないときに自分がごはんを作ってあげることはやりたくてやっていました。一度、母の誕生日に、料理本を見ながら「はんぺんのカニ肉詰めフライ」を作ったことを覚えています。なぜそれを選んだかというとわたしがはんぺんを好きだったから。でも、手順がものすごく複雑で、台所がぐちゃぐちゃになってしまって二度とやらないと思いました(笑)。完成したかどうかも覚えていないです。

ただ、そのときにホワイトソースを作ったからか、高校生になると、おいしいホワイトソースを食べたくなってしょっちゅう作ってましたね。おかげで今は、絶対に失敗しないホワイトソースの作り方を得意にしてます(笑)。

――そこからどのようにして料理の道に?

大学に進んで、在学中に演劇専攻の人たちの劇団の手伝いをするようになって、卒業後は別の劇団に入ったのと同時に無国籍レストランでも働き始めました。その数年後に、お店で一緒に働いていた人から雑誌でレシピを披露する仕事をやってみないかと誘われたんです。芝居も、アルバイトも、料理の仕事も、全部、誘われたから。偶然なんですよ。

 

「塩レモン、少し味見してみる?」そう言ってインタビューのあとキッチンへ。

でも、わたしにはそれがよかった。芝居も料理も、できないことやわからないことがあったとき、「何がわからないんだろう」「どうすればできるんだろう」と考え、試行錯誤するんです。そのうち、1〜2個できるようになり、「よし、1段上に行けた」と思うと、またできないことやわからないことが出てきて、試行錯誤する。その繰り返しで今があります。

「芝居をやりたい」「料理の仕事をしたい」と大きな理想を掲げて入っていたら、理想と現実のギャップに挫折していたかもしれない。たとえば料理の仕事だと、「カメラの前でニコニコ笑いながら素敵な料理を作る人」というイメージだけをもって始めると、それは仕事のごく一部で、大部分は食材の買い出しや皿洗いという現実に打ちのめされる。そうやって辞めていった人はたくさんいます。遠くの大きな目標を掲げてその間の道筋を想像できないでいるよりも、目の前の課題を1つずつクリアしていくほうが力もついていくし、途中で「やっぱりこっちの方向に行きたいな」と変わっていける力も培われるように思います。

子どもたちの食事から、生きる力を培うために

――子どもたちが食事を楽しむうえで大事なことは何だと思われますか?

 

今、食育の重要性なども言われていますが、わたしは、「何食べたい?」と子どもたちに聞くところから食育を始めるといいんじゃないかなと思います。子どもたちが食べたいものをはっきりと言えるようになれば、もっともっと生きる力が育まれる気がして。

というのは、イベントや料理教室などで子どもたちに接していると、「何食べたい?」と聞かれたときに「なんでもいい」と答える子どもが多いんです。「何を食べたいか」を考えて人に伝えることって、頭の中にこれまで自分が食べたことのあるものを探しに行って、お腹のすき具合や体調など自分の状態も把握して、食べたいものを言語化するということ。それができない子は、明日何がしたいかを言えないんじゃないかなあ。自分に必要なものを探し出して、次にやるべきことを考える力に通じるんですよね。

自分の欲するものを見つける食生活ができれば、より自分の力で歩んでいくことができるんじゃないかな、そうなるといいなと思いますね。

ちゃちゃっと作ってくださった、カブのスープとオープンサンド。
スープは塩レモンの酸味がきいていて、疲れた身体を癒してくれるようなほっとできる味。オープンサンドは上にのった塩レモンがアクセントになっていて、これも美味でした!

――そのためには、保護者は何に気をつけたり、子どもたちに食事を通じてどのような働きかけをしたりするとよいでしょうか?

1つは、保護者の方が率先して食べて「おいしい!!」と言うことじゃないかな。つい、「これは栄養があるから食べた方がいい」「栄養が偏るから食べなさい」などと言ってしまいがちだけど、子どもにとっては嫌なものは嫌。ましてや、親に言われたら余計に食べたくないと思ってたのが、やんちゃな子どもの頃のわたし。だからもし、子どもが食べ渋っているものがあれば、保護者の方は「それ、わたしが食べていい?」ともらって食べちゃえばいい。そして、「おいしい! 得しちゃった!」と声に出せば、子どもは「え!? 待って。食べてみる!」となるかもなあって。

もしならなかったとしても、大人がおいしそうに食べている様子を見ていると、もう少し成長したり、大人になったりしたときに「ちょっと食べてみようかな」と思う日がくるはず。まずは親自身が、笑顔で食べる。それがおいしい食事だと子どもに気づいてもらえるような食生活をするのがいいと思います。

あとは、一緒に料理を作ったり、そばで見せてあげたりするのもいいと思う。わたしが子ども向けに料理教室をするときは、材料が生のとき、調理の途中、完成後、と段階をふんで数回、かじってもらったり、においを嗅いでもらったりしています。そうすると、おいしくなる過程を感じてもらえるし、一人ひとり、好みのにおいや味、音が出てくるんですよね。たとえば、ある男の子は、味噌のカスが残った味噌こしを浸けていた水を「最高にうまい!」と言っていました。本人以外はわけがわからないけれど、その笑顔がすごくよかったです。自分で「これがうまい!」と見つけた経験が「食べたい」「生きたい」というものすごい意欲につながっていくんだろうなと思います。

――ありがとうございました。

プロフィール

料理研究家

枝元 なほみ さん (Nahomi Edamoto)

神奈川県生まれ。明治大学文学部卒業。卒業後、26歳で劇団「転形劇場」の研究生となるとともに、無国籍レストランにシェフとして勤務。劇団では、スタジオ併設のロビーで提供する料理や、海外公演でのまかないなども担当した。1987年、女性週刊誌の料理コーナーで料理家としてデビュー。以来、テレビ、雑誌などで活躍中。『エダモンの今日から子どもおかず名人』(白泉社)、『おかん飯』シリーズ(毎日新聞社、西原理恵子さんと共著)、『取り分けスタイルで超簡単!大皿おかずの本』(枻出版社)など著書多数。

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