親と子の本棚

詩って何だろう

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

公園のポスター

『詩って なあに?』より

ミーシャ・アーチャーの絵本『詩って なあに?』のダニエルは、公園が大好きだ。公園のことなら、何でも知っているという。

げつようびの あさ、ダニエルが こうえんに いくと、こんな ポスターが はってあった。
  こうえんにて
  詩の はっぴょうかい
  にちようび ごご 3じ
  さんかしゃ ぼしゅうちゅう
「うーん…… 詩って なんだろう?」
ダニエルは くびを かしげた。

ポスターは、公園の入口のレンガの柱に貼ってある。
ポスターを見て、首をかしげたダニエルに、大きなクモの巣にいるクモのささやきが聞こえてくる。――「詩って いうのはね、あさつゆの きらめき のことなの」
火曜日のダニエルは、オークの木の上のハイイロリスに「詩って いったい なあに?」という。――「そうだなあ……おちばの かさこそと なる おと が、詩だと おもうよ」
水曜日も木曜日も、ダニエルは、公園で暮らす動物たちに、詩とは何かをたずねる。動物たちは、みな詩人で、それぞれにとっての詩を語るのだ。

『詩の絵本』の試み

最近、私の監修・解説で『詩の絵本 教科書にでてくる詩人たち』全5巻を刊行した。
ダニエルが主人公の『詩って なあに?』は詩とは何かというテーマの絵本だけれど、『詩の絵本』のシリーズでは、1編の詩が1冊の絵本になっている。
各巻のおしまいには少し長い解説を書いたが、つぎは、シリーズ第3巻、金子みすゞ・詩、松成真理子・絵『竹とんぼ』の解説のはじまり。「詩って何だろう」という見出しで書いた節である。

詩とは何でしょうか。
童話や小説と、どうちがうのでしょうか。
童話や小説は、ひとつづきの文章で書かれます。句点(。)までつづく文をつぎつぎと重ねていくことによって、作品世界が描かれていきます。
詩は、句点(。)までつづく文で書かれるわけではありません。そういう文が使われることもありますが、たいていは、文の途中で区切って、行をかえながら書かれていきます。詩では、どこで、どんなふうに行が分けられるかが大事です。行がかわって、つぎの行になったとき、それは、前の行に書かれたことの付け足しの説明ではありません。改行のたびに、前の行とはちがった世界がつぎつぎと開かれる……これが、詩の表現の特徴です。
詩のことを「韻文」ともいいます。詩では、ことばの響きやリズムが大切にされます。詩をつくっている、それぞれのことばには、意味やイメージがぎゅーっと詰め込まれますから、小説などのように長くはなりません。
  (中略)
改行のたびに、前の行とはちがった世界がつぎつぎと開かれる……それが詩です。

  キリリ、キリリ、竹とんぼ、
  あがれ、あがれ、竹とんぼ。

この絵本では、金子みすゞの童謡「竹とんぼ」の行がかわるたびに、絵本のページをめくっていくことになります。行がかわるたびに新しく開かれる世界を画家が描いてくれました。

改行のたびにページをめくる

詩の行がかわるたびに、絵本のページをめくっていく――これが『詩の絵本』のシリーズに共通の仕組みだ。第4巻の小泉周二・詩、市居みか・絵『朝の歌』なら、最初の見開きは「おはよう まつ毛」。ページをめくると、「おはよう あくび」。ページをめくると、「おはよう 手のひら」。ページをめくると、「おはよう からだ」。ページをめくると、「きょう また ぼくは 生まれた」。さらに、絵本のページをめくって、詩が展開していく。
詩の行がかわるたびに、絵本のページをめくっていくという仕組みは、これまでにない新しいものだと思っていたのだが、もしかしたら、そうとはいえないかもしれない。そう考えたのは、『詩の絵本』より少しだけ前に刊行された、まど・みちお 詩、にしまき かやこ 絵の絵本『ぞうさん』を見たからだ。『ぞうさん』の最初の見開きは、「ぞうさん」。ページをめくると、「ぞうさん」。ページをめくると、「おはなが ながいのね」というふうに展開するのだ。

今月ご紹介した本

『詩って なあに?』
ミーシャ・アーチャー、石津ちひろ 訳
BL出版、2017年
絵本に描かれた公園の木の葉は色づき、コオロギが鳴き、夕日にそまる池の上をトンボがわたる。『詩って なあに?』は、秋の絵本だ。
作者のミーシャ・アーチャーは、アメリカのイラストレーター、絵本作家。

詩の絵本 教科書にでてくる詩人たち3『竹とんぼ』
金子みすゞ・詩、松成真理子・絵、宮川健郎・監修
岩崎書店、2017年
本文で紹介した『竹とんぼ』『朝の歌』の2巻にくわえて、弟1巻の川崎洋・詩、久住卓也・絵『かん字のうた』、第2巻の阪田寛夫・詩、田中六大・絵『わかれのことば』、第5巻の谷川俊太郎・詩、山口マオ・絵『だいち』の全5巻で『詩の絵本』のシリーズは構成されている。

『ぞうさん』
まど・みちお 詩、にしまき かやこ 絵
こぐま社、2016年
まど・みちおの詩「ぞうさん」1編を絵本化した、にしまき かやこ(西巻茅子)は、『わたしのワンピース』(こぐま社、1969年)などで知られる絵本作家だ。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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