親と子の本棚

つながっている道、つながっている川

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

つながる絵の絵本

『トマとエマのとどけもの みちをたどるはなし』より

大庭賢哉の絵本『トマとエマのとどけもの みちをたどるはなし』の表紙を開くと、断り書きがある。――「このえほんをよむ みなさまへ このえほんは ぜんぶのページのえが つながっています。 トマとエマといっしょに みちを たどってみてください。」
本のとびらには、家の入口のドアをあけて、おかあさんと小さな男の子が手をふっている絵。――「きをつけて いってらっしゃい。よりみち しちゃだめよ」
そのとびらをあけると、見開きの画面の左はじに、家の入口をふりかえって、やはり、手をふっている女の子が描かれている。女の子は、右手で手をふり、左手は、前を歩き出した男の子の背中のリュックサックにかかっている。

「うん、だいじょうぶ。いってきます!」
トマとエマは これから となりのくにの おじいさんと おばあさんへ、とどけものに いくところです。
みてください、おにいちゃんのリュックが はちきれそうですね。

 女の子はエマ、おにいちゃんはトマだ。
 この見開きの右ページには、カエルのおばさんの家が半分描かれ、ページをめくった、つぎの見開きの左ページには、家の残り半分が描かれている。家の屋根の窓から、そのカエルのおばさんが顔を出している。こんなふうに、ページをめくっても、絵がつながっていく。トマはもう、エマの少し先を歩き、川にかかる石橋をわたっている。――「エマ みてごらん。とおくまで みちが つづいているだろ。このみちが おじいさんと おばあさんのいえまで ずーっとずーっと つながっているんだよ」

流れ出す川

 たかい やまに つもった ゆきが とけて ながれます。やまに ふった あめも ながれます。みんな あつまってきて、ちいさい ながれを つくります。

加古里子(かこさとし)作/画『かわ』の最初の見開きだ。連なる山のあいだから、雪どけ水や雨を集めた小さな流れがはじまっている。右はしに描かれた流れは、ページをめくると、つぎの見開きにそのままつながり、岩からしみ出た水や、泉の水、湖から流れ出した水といっしょになる。岩にぶつかって滝になり、谷川になって山をくだる。
またページをめくると、川は、いったんダムにせき止められる。さらにめくっていけば、やがて、川は、山から平野に出る。ゆるやかになった流れは、人里に近づき、田んぼをうるおす。
 絵本のなかで、道も川も、つながっていくのだ。

届け物と買い物

『トマとエマのとどけもの』は、つながっている道でいろいろなものに出会いながら、おじいさんとおばあさんに届け物をする物語だけれど、中川ひろたか・岡本よしろうの絵本『100円たんけん』は、買い物の話だ。
おかあさんとコンビニに行った「ぼく」は、「おかし かって」と、ねだる。おかあさんが100円までといったのに、100円をこえてしまいそうだ。しかたなく、「ぼく」は、チョコ一つを棚にもどす。
「おふろの スポンジ、そろそろ かえないとね」「100円ショップに ありそうね」――そういったおかあさんと「ぼく」は、コンビニを出て、100円ショップへむかう。100円ショップで売っているものは、何もかも100円だ。
「ねえ、おかあさん。ちょっと たんけんしてみない?」「よその おみせに いって 100円が なにと こうかんできるか しらべるの」――「ぼく」の提案に「はーん、それおもしろそうね。」といった、おかあさんとふたりで、商店街へ行く。
肉屋さんの量り売り。100円分は、牛肉だと、豚肉よりずっと少ない。――「ぎゅうは ぶたより こうきゅうっていうこと?」
魚屋さん。タコ100円分といったら、おじさんは、「それは ムリ」「でも このわかめ 1さらか、このさんま 1ぴきだったら いいよ」という。
やおやさん、ケーキやさん……絵本の世界は、さらに広がっていく。

今月ご紹介した本

『トマとエマのとどけもの みちをたどるおはなし』
大庭賢哉
ほるぷ出版、2016年
おじいさんの家まで道はつながっているはずだけれど、トマとエマは、ふしぎな家に入り込んだり、大きな町を歩いたり、雨にふられたり……大冒険がつづく。ふたりの届け物は、何だったのか。

《こどものとも》傑作集『かわ』
加古里子作/画
福音館書店、1962年
山の高さや形をはかる測量をする人、材木を運ぶ森林軌道、炭焼きをする人、つりばし……川が流れていく、そのまわりには、人々のさまざまな暮らしや仕事がある。この絵本をもとにして、『絵巻じたて ひろがるえほん かわ』も刊行された(2016年)。折りたたまれたページを広げると、7メートルほどにもなる。

『100円たんけん』
ぶん・中川ひろたか、え・岡本よしろう
くもん出版、2016年
おかあさんは、「ぼく」に物物交換の話をする。――「でも そのあと、おかねと いうものが はつめいされて いちいち ものを みせあわなくても すむようになったの。ほしいものは おかねと こうかんすれば よくなったのね」

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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