親と子の本棚

農場はゆかいだ

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

詩の絵本

『うし』より

内田麟太郎詩・高畠純絵の絵本『うし』の表紙には、白黒のもようの牛がおしりを向け、首だけでふりかえっている絵が描かれている。
表紙をめくった扉には、やはり、おしりを向けている牛が描かれているが、ここでは、ふりかえっていない。
その扉をめくった、最初の見開きでは、「うし うしろをふりかえった」。おしりを向けた牛が首だけでふりかえる。この場面には、緑の草原と青空も描かれているから、牛は、牧場にいるのだろうか。
ページをめくった、つぎの見開きは、「うしがいた」。正面を向いた牛が描かれている。前の場面の牛が後ろをふりかえったら、この場面の牛がいたのだ。
ページをめくった第三の見開きは、「そのうしろのうしもうしろをふりかえった」。最初の牛とつぎの牛の2頭が後ろをふりかえる絵だ。
ページをめくった、つぎの見開きは、「うしがいた」。正面を向いた牛が描かれている。
……さて、この絵本は、どうなっていくのだろう。
絵本の帯には、詩人と画家がことばを寄せている。

ふりかえると きみがいた。詩のような奇跡。笑うな!――内田麟太郎
うししか でてきません。うししか……。しかはでません。――高畠純

先月、詩の絵本をいくつか紹介したけれど、これも、詩の絵本だ。奥付のある見開きに、あらためて、詩「うし」の全行がかかげられている。

ゾウになっためんどり

マルセル・エーメ『ゆかいな農場』は、デルフィーヌとマリネットという姉妹と農場の動物たちとの、いわば、すったもんだが描かれる連作集である。全7話のうちの第1話が「変身しためんどり」だ。
よそいきの服を着た、おとうさんとおかあさんが、デルフィーヌとマリネットにいう。――「わたしらは、これからアルフレッドおじさんのうちに出かけるよ。だけど今日は大雨だから、子どもはおるすばんのほうがいいね。おまえたちは、家でちゃんとお勉強していなさい」でも、ふたりとも、勉強なんか、もう終わっているのだ。

「それなら、いい子で仲よく遊んでいなさい。それから、何があっても、だれかをうちの中に入れたりしてはいけないよ。わかったね」

ところが、窓ガラスごしに、どしゃぶりの雨を見ていた女の子たちは、ノアの箱舟ごっこを思いつく。「何があっても、だれかをうちの中に入れたりしたらいけないよ。」といわれたのに、台所に、農場の動物たちを招き込むことになるのだ。
しかし、どの動物も雄と雌のひとつがいずつしか入れない。何しろ、それは、ノアの箱舟なのだから。もう、めんどりが1羽いるのに、もう1羽が入りたがったので、デルフィーヌは、そのめんどりにゾウになるように言い聞かせる。――「箱舟にはゾウがいなくちゃね……」
台所のとなりの寝室で、絵本のゾウを見せられた、めんどりは、ゾウになろうと必死に思いつめる。そして、とうとう、長い鼻と立派なきばと4本の太い足のすばらしいゾウになったのだ。でも、ゾウになった、めんどりは、ドアが小さくて、台所には入ってこられない。さあ、ノアの箱舟ごっこは、どうなっただろう。

まず、牛になること

みやこうせいの写真絵本『乳牛とともに』の主人公にあたるのは、北海道東部の中標津町(なかしべつちょう)で牧場を経営する三友盛行さんだ。三友さんは、原野を開墾して、牧場をつくり、いまは、広い草地に60頭ほどの牛を飼っている。「牛飼いの仕事は、まず牛になること。」――これが、三友さんの口ぐせだという。

 牛は、乳を人間のためにだすわけじゃない。子牛を産んだ母牛が、子牛を育てるために乳をだす。その乳を分けてもらうのが酪農だ。

だから、牛の気もちになって草地を歩き、牛たちが気もちよくすごせる、牛にはずかしくない牧場にしなければならないというのだ。

今月ご紹介した本

『うし』
内田麟太郎/詩、高畠純/絵
アリス館、2017年
これまでに、内田麟太郎・高畠純のコンビで刊行された本には、『ワニぼうのこいのぼり』(文溪堂、2002年)や『ふしぎの森のヤーヤー』(金の星社、2004年)のシリーズがある。

『ゆかいな農場』
マルセル・エーメ 作、さくま ゆみこ 訳、さとう あや 画
福音館書店、2010年
箱舟ごっこの台所で、ブタは、しくしく泣き出す。もし、大洪水が長くつづいたら、食料が底をついて、まるまる太ったブタは、食べられてしまうかもしれないと思ったからだ。こんなふうに、この本に登場する動物たちは、自分が食べられてしまうかもしれないという恐れを深くいだいていて、それが物語の展開にもかかわってくる。
このほかに、「ニワトリの家出」など6話をおさめる。

農家になろう①『乳牛とともに 〔酪農家 三友盛行〕』
写真・みやこうせい、農文協編
農山漁村文化協会、2012年
写真と文で酪農家の生活と仕事が描かれる。
1945年に東京・浅草で生まれた三友さんが、この仕事に出会ったのは、高校卒業後、車で日本一周の旅をしていたときの開拓酪農家での実習体験だった。――「自分で一日をつくるおもしろさをはじめて知ったんだ。」牧場からの帰り道、荷馬車から見上げる満天の星空にプラウ(犂=すき)の星座を見つけたとき、牛飼いになろうと決心したという。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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