親と子の本棚

なまけものと働きもの

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

小さな壺の小さな男

『なんにもせんにん』より

「むかし、あるむらに しごともせず、あそんでばかりいる わかものが すんでいたと。」――これは、唯野元弘・石川えりこの絵本『なんにもせんにん』の語り出しだ。
その若者が、あるとき、道ばたにころがっている小さな壺を見つける。その朝も、ただぶらぶらしていたから、そんな壺が目に入ったのだ。
壺のなかには、小さな小さな男が入っていた。小さな男は、小さな声で話す。――「わしゃあ、なんにもせんで、いつも あそんでるもんが すきなんじゃ。おまえさんちに つれてって、いっしょに くらしてくれんか?」
おもしろがって、壺をもち帰った若者は、小さな男を壺の外に出してやる。そしてまた、若者が、つりをしたり、とんぼをとったり、一日あそんで帰ってくると、太った男がねころんでいた。――「おまえは だれじゃ?」それは、壺の男だった。

「えー、どうして こんなに おおきくなったんじゃ?」
「わしゃあ、いっしょに くらしとるもんが あそべば あそぶほど おおきくなるんじゃ」
おとこは おおきくなったぶん こえも でかくなっていた。

つぎの日もまた、若者があそんで帰ってくると、男は、もっと大きくなって、大口をあけてねている。家がせまくなって、若者のねる場所もないほどだ。
そのまたつぎの日、男は、もっともっと大きくなって、手も足も家からはみ出してねていた。――「これじゃ なかに はいれん。それに これいじょう おおきくなったら いえが ぶっこわれてしまう。どうしたら いいものか…」

意地っぱりの子リス

『なんにもせんにん』は、はたらかない若者の話だけれど、J・ロッシュ=マゾン『おそうじを おぼえたがらない リスのゲルランゲ』のゲルランゲは、そうじが大きらいだ。
ゲルランゲは、11ぴきの子リスの兄弟の末っ子で、夕ごはんのお皿の片づけはするのに、そうじからは何とかのがれようとする。子リスたちのおばあさんがいう。――「なぜおまえが、おそうじをおぼえたがらないか、わたしにはわかってますよ。おまえのそのりっぱなあか毛のしっぽは、秋のナナカマドのようにつやがよくて、うっとりするほどふさふさしていて、長いんだから。そのしっぽをいためやしないかと、しんぱいなんでしょ。」
おばあさんは「でもね、おそうじは、しっぽをいためるものじゃありません。」ともいうのだが、ゲルランゲは、そうじをしようとしない。とうとう、おばあさんが「おそうじをおぼえるのがいやだったら、ここからでていってもらいましょう。」といい出す。意地っぱりの子リスは、ふろしきづつみを肩にかついで出て行ってしまう。――「ぼく、ごはんなんかいらない。野宿をしたっていい。オオカミにたべられたっていい。でも、ぼく、おそうじはおぼえたくないや」そして、ゲルランゲが枝から足をふみはずして落ちたのは、ねむっているオオカミの背中だった。

ネコの猛勉強

南部和也『ネコの家庭教師』の白ネコのベスは、ずいぶん働きものだ。
市場で暮らしていたベスがたまたま乗りこんだ馬車がたどり着いたのは、宮廷だった。宮廷の庭で、ベスは、女王の孫むすめのトリア姫にひろわれる。ところが、宮廷の取り決めで、姫は、10歳になるまで自分の意志でイヌやネコを飼うことはできない。トリア姫は、まだ9歳だった。ベスは、いったん、メルバーン卿のあずかりものになる。メルバーン卿から、トリア姫に何度家庭教師をつけてもうまくいかないと聞いたベスは決心する。――「私がトリア姫の家庭教師になります。そうすれば、いつだっていっしょにいることができますから」メルバーン卿も、「それはよい考えかもしれんぞ。たしか宮廷のとり決めには、家庭教師は人間でなくてはならないとは、どこにも書いていないはずだ。」という。よい家庭教師になるために、ベスの猛勉強がはじまるのだ。

今月ご紹介した本

『なんにもせんにん』
日本民話 唯野元弘/文、石川えりこ/絵、鈴木出版、2017年
大男に家をのっとられて、外でねていた若者に、近所の人が「いねかりが いそがしくて てが たりん。たのむから てつだってくれ」という。若者は、しぶしぶ手伝ったのだけれど、手間賃をもらって、なぜかうれしくなる。これが、大男がちぢみはじめるきっかけになった。
「なんにもせんにん」は、山口県の昔話で、紙芝居にもなっている(原作 巌谷小波、脚本 川崎大治、画 佐藤わき子、童心社、2001年)。あわせて楽しみたい。

『おそうじを おぼえたがらない リスのゲルランゲ』
J・ロッシュ=マゾン 作、山口智子 訳、堀内誠一 画、福音館書店、1973年
ゲルランゲは、目をさましたオオカミに「ぼく、たべられてもいいんです、オオカミさん。でも、おそうじはおぼえたくありません」と強情な声でいう。びっくりしたオオカミは、「このはなしは、わしにはややこしすぎる」といって、ゲルランゲを口にくわえ、キツネのところに相談に行く。さて、ゲルランゲの家出は、どうなっていくのだろう。

『ネコの家庭教師』
南部和也 さく、さとうあや え、福音館書店、2017年
勉強をはじめたベスに、メルバーン卿がいう。――「これらの本に書いてあることは知識なのだ。そなたが教養を得たければ、まずは知識を頭にいれなければならない。ただ知識はレンガのようなもので、それだけでは教養という家を作ることはできんのだ。つねに『なぜ』『どうして』という疑問をもち、好奇心という漆喰でレンガを塗り固めていかなくてはならない」
作者は獣医師だというが、作者の描くネコは、いつだって働きものだ。『ネコのタクシー』(福音館書店、2001年)のトムは、ネコなのに、タクシーの運転手になる。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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