「居場所」をもとめて : さぽナビ | Z会

親と子の本棚

「居場所」をもとめて

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

よそ者の「ぼく」

『空の王さま』より

雨が、何日もふりつづいていた。
こんもりとした丘に、小さな家がいくつもへばりついている。
えんとつからはけむりがのぼり、金属のやぐらがガチャガチャ音を立てている。
町は、ヒツジのスープと石炭の粉のにおいがしていた。
みんな、ぼくの知らないことばで話していた。

ニコラ・デイビスローラ・カーリンの絵本『空の王さま』は、こう語り出される。「ぼく」は、さらにいう。――「何もかもが、つげていた。ぼくがよそ者だということを。」
「ぼく」のふるさとは、「お日さまが明るくて、噴水がたくさんあって、おばあちゃんの店のバニラアイスのにおいがしていた」。ふるさとはイタリアのローマだが、そこを思い出させるのがエバンズさんのハトだ。ローマのサンピエトロ広場では、ハトが気取ってあるいている。
エバンズさんは、ハトを飼っている。「ぼく」は、毎日ハトを見に行く。「あの子たちがとぶのを見るのが、すきなんだよ。長いこと地下ですごしていたからな」――エバンズさんは、ずっと鉱山ではたらいていたのだ。
エバンズさんは、「ぼく」の手にレース用に訓練している1羽をのせてくれる。「ぼく」の指に心臓の鼓動が伝わり、つばさに力が入る。とぼうとしているのだ。

「名前をつけてごらん。そしたら、おまえさんのハトにしていいぞ」エバンズさんが言った。
ぼくは、すぐに言った。
「レ・デル・チエーロ! イタリア語で空の王さまっていういみだよ」

「ぼく」の背景にあるもの

「ぼく」は、エバンズさんといっしょに鉄道で遠い駅までハトたちをつれていっては放してくる。そして、ハト小屋にもどって、ハトたちが帰ってくるのを待つのだ。「空の王さま」は、レースでチャンピオンになれるのか。エバンズさんやハトとつきあうなかで、「ここ」が「ぼく」の居場所になっていく。
『空の王さま』はロンドンで刊行された絵本だけれど、「ぼく」は、イタリアからの移民の子どもなのだろうか。
セリ・ロバーツハナネ・カイの絵本『今、世界はあぶないのか? 難民と移民』の最初の見出しは「難民、移民って、どんな人たち?」だ。

戦争や自然災害、テロ行為などで危険が大きくなり、自分の家や国をはなれなければならない人たちがいます。この人たちが難民とよばれます。
そして、自分の意志で住んでいた国をはなれたのが移民とよばれる人たちです。

つぎの「こどもたちも旅をする」では、難民、移民のなかには、毎年、孤児たちや大人にはぐれてしまった子どもたちが何十万人もいることが書かれている。
さらに、「この人たちはどこからやってきた?」「自分の国をはなれる」「どんな旅をしてきたのだろう」「目指すのはどんなところ?」といった見出しがつづく。難民、移民としての旅がどうしてはじまったのか、移動した先ではどんな生活をおくるのかなどが絵と文で語られる。私たちは、絵本『空の王さま』の「ぼく」の背景にあるものを知ることにもなるのだ。

少しおくれる鳩時計

『空の王さま』はハトをとばす物語だけれど、これは、鳩時計の話。
ルイス・スロボドキンの絵本『ねぼすけ はとどけい』の舞台は、スイスの山奥の小さな村の小さな時計屋だ。店には、百二十三の鳩時計がかかっている。毎時間、鳩時計のなかからハトがとびだして、「ポッポー」と声をはりあげる。ところが、一つの鳩時計のハトだけが、少しおくれて出てきて鳴くのだ。
ある日、ガラビアの国の王様が小さな村にやってきて、おみやげをもとめて、時計屋に立ちよったのだが……。

今月ご紹介した本

『空の王さま』
文 ニコラ・デイビス、絵 ローラ・カーリン、訳 さくま ゆみこ
BL出版、2017年
「ぼく」の「空の王さま」は、遠距離レースに出ることになる。汽車にのってローマまで行き、1600キロむこうからもどってくるのだ。――「ぼくの心も、このハトといっしょに旅をする。」ところが、二日二晩たっても、ハトは、もどらない。ようやくハトがもどってきたとき、「ぼく」の心も、「ここ」にもどる。「ここ」が「ぼく」の居場所になるのだ。

『今、世界はあぶないのか? 難民と移民』
セリ・ロバーツ 文、ハナネ・カイ 絵、大山 泉 訳、佐藤 学 解説
評論社、2017年
絵本『今、世界はあぶないのか?』のシリーズは、全4冊。ほかに『争いと戦争』『貧困と飢餓』『差別と偏見』の巻がある。

『ねぼすけ はとどけい』
ルイス・スロボドキン 作、くりやがわ けいこ 訳
偕成社、2007年
ガラビアの王様は、少しおくれる鳩時計を見て、「おまえの とけいは ぜんぶ せいかくじゃないな。」といい出す。こまった時計屋のおじいさんは、どうしただろう。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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