親と子の本棚

「つながる」ための発明

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

「音」に魅せられた少年

『ぼくは 発明家 アレクサンダー・グラハム・ベル』より

メアリー・アン・フレイザー『ぼくは 発明家』は、電話を発明したアレクサンダー・グラハム・ベル(1847~1922年)の伝記絵本だ。
ベルは、スコットランドのエジンバラで生まれた。父は、うまく声が出せない人たちに話し方を教える仕事をしていた。母は、子どものころから、あまり耳が聞こえなかったという。でも、母は、ピアノが上手だった。母は、自分がひくピアノの音を聞くときは、耳につけたホースのような道具をピアノの上に置いた。
ベルは、家族からアレックと呼ばれていた。

アレックは、どんな音も聞かずにはいられない子どもでした。
畑のまんなかで、小麦がのびる音を聞こうとしたこともあります。
いろんな音を聞けば聞くほど、ふしぎに思うことばかり。
どうして、ぼくの耳には、音が聞こえるんだろう?

あるとき、父が教えてくれた。――「音は、振動なのだよ。つまり、ぶるぶるふるえることだ。おまえの耳は、そういった振動をあつめて、脳にさまざまなことをつたえている。だが、お母さんの耳は、それができないのだ」アレックは、耳がだめなら、ほかのところで振動を集められないかと考える。
アレックは、ふだんは母の「ホースの耳」に話しかけていたのだけれど、ある実験をしてみた。

アレックは、なるべくひくい声を出し、お母さんのひたいに話しかけました。すると、お母さんは、アレックの息づかいと音のふるえを、かんじたのでしょう。『ホースの耳』なしでも、アレックのいったことを、わかってくれました。

アレックの実験は、成功したのだ。

妹とのつながり

「わたしには、妹がいます。妹は、耳がきこえません。」――ジーン・W・ピーターソンデボラ・レイの絵本『わたしの妹は 耳が きこえません』は、こう語りはじめられる。
「わたし」の妹は、ゴーンと低い音を鳴らして、体にピアノのひびきを感じるのが大好きだ。でも、歌うことはできない。メロディーを聞きとることができないからだ。
「わたし」が妹を呼ぶときは、足で地面をトントンたたいたり、むこうにいる妹に手をふったりする。そばに行って腕に手をかけて呼ぶこともある。妹は、すぐに気がつく。でも、妹の後ろに行って、名前を呼んでも、気がつかない。
「わたしには、妹がいます。」――「わたし」は、繰り返しそういって、妹とのつながりを確かめていく。
ものすごいカミナリの夜、風で窓のよろい戸が鳴りつづけても、妹は、目をさまさない。ぐっすり眠っている妹は、かわいい。「わたし」は、こわくて眠れない。

友だちにきかれると、わたしは、妹のことを こんなふうに はなします。
わたしには、音をださないでテレビをみる 妹がいるのよ。
妹は、お人形をねんねさせるとき、子守歌をうたわないの。
妹は、ゆびではなしをするのよ。それから、すこしかすれた やさしい声で はなすこともできるの。
でも 妹は、たまに とても大声でさけぶことがあるの。

夢を見る薬

アレックことアレクサンダー・グラハム・ベルは、のちに「電話の父」といわれるようになるが、そのほかにも様々な発明を試みている。ガーフィールド大統領が銃でうたれたとき、体内の銃弾を見つける金属探知機を発明したり、レコード盤とレコード針を発明したり。有人飛行の実験もしたし、水中翼船の第1号も作った。
星新一「薬と夢」のエフ博士は、いろいろな夢を見られる薬の発明家だ。植物の夢、山や海などの景色のあらわれる夢、動物の夢……。博士の話を聞いているうちに、アール氏は、ためしてみたくなる。――「1粒でいいから、飲ませて下さい」「いいですとも。家へ帰ってから、ベッドに入るまえに飲んでごらんなさい。少しわけてあげますから」

今月ご紹介した本

『ぼくは 発明家 アレクサンダー・グラハム・ベル』
メアリー・アン・フレイザー作、おびかゆうこ訳
廣済堂あかつき、2017年
アレックは、母の「ホースの耳」に話しかけるが、あまり大きくは聞こえない。アレックは願う。――「ぼくの声やピアノや、世界中のいろんな音が、お母さんの耳に、もっと大きく、もっとはっきり、とどくようにしたい!」お母さんとはっきりつながりたいという、この願いが、アメリカに渡ったあとの電話の発明にも発展していくのだ。

『わたしの妹は耳がきこえません』
ジーン・W・ピーターソン 作、デボラ・レイ 絵、土井美代子 訳
偕成社、1982年
原著は、1977年に刊行されたアメリカの絵本。鉛筆で描かれたのだろうか、モノクロの絵がやさしい。

星新一 ショートショートえほんシリーズ『サーカスの旅/薬と夢』
ももろ・絵
ミキハウス、2017年
「薬と夢」のアール氏は、寝る前に、わけてもらった薬を1粒飲む。すると、夢にクマがあらわれて、いっしょにあそんでくれる。薬のききめは確かだ。つぎの晩は……。
星新一 ショートショートえほんシリーズは、現在、このほか『おーい でてこい/鏡のなかの犬』(中島梨絵・絵)、『友を失った夜/とりひき』(田中六大・絵)が刊行されている。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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