親と子の本棚

月へのあこがれ

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

長い長いはしご

『ぬすまれた月』より

「空をみあげよう。ほら 月がでている。」――和田誠の絵本『ぬすまれた月』は、こう語り出される。夜空の月を世界中の人びとが見上げる。どこの国でも、「月」はきれいなことばで呼ばれ、たくさんの伝説や物語をもっている。
月が大好きな男がいた。

やがて 男は決心をする。月をとってこようと。
男はつくった。長い長いはしご。
はしごは ついに月にとどき 男は 月をもって帰った。
男は月を箱にかくして ときどきとりだしては ながめていた。

男は、箱のなかの月が毎日かたちを変えるのを見るのが楽しみだった。ある晩、それをのぞき見ていた、どろぼうが、月の入った箱を大事なものらしいと思って盗み出す。人のいないところまで来て、箱をあけると、中はからっぽだった。どろぼうは、箱をすてていく。その日は、新月だったのだ。
やがて、女の人が箱の外に落ちていた三日月を見つける。彼女は、月で竪琴をこしらえて、竪琴を鳴らしながら歌う。だれも聞いたことのないような音楽だった。ところが、三日月は、少しずつ大きくなる……。

天の神様に祈る

『ぬすまれた月』は、空にはしごをかけた男がもって帰った月のゆくえを語るあいまに、太陽と月と地球の関係を語る。太陽の光を受けてかがやいている月が、地球から見て太陽の反対側に来ると、まんまるに照らされて満月になる。それなら、新月は? 日食や月食も、太陽と月と地球の位置関係によるものだ。地球の海の潮の満ち引きは、月の引力によって起こる。
地球は1日に1回、自分でまわっているわけだけれど、安野光雅『天動説の絵本』には、「てんがうごいていたころのはなし」という副題がある。天動説の時代の人びとの暮らしと世界観が描かれた絵本だ。
そのころの人びとは、しずむ太陽に祈った。――「日でりがつづいたり、じしんがおこったり、おそろしい病気がはやったりしませんよう、にんげんの力では、どうにもならないことを、人びとは天の神さまにおねがいしたのです。」

夜の空には月がのぼりました。
まんまるになったかとおもうと、夜ごとそれはかけていって、しばらくみえなくなることもあります。
どうして月は、大きくなったり、小さくなったりするのか。どこからきて、どこへかえるのか、どうしてもわかりませんでした。

星うらない師でもある天文学者は、太陽や月や星は、別々の丸天井にはりついていると人びとに語った。丸天井は、それぞれ、すきとおっていて、重なっている。丸天井を動かしているのは神様だ。「天は動かない、じぶんの立っている地めんのほうが動くのだ」といった学者もいたのだが、だれも信じなかった。

九日の月

「ある晩、恭一はぞうりをはいて、すたすた鉄道線路の横の平らなところをあるいて居りました。」――宮沢賢治・竹内通雅の絵本『月夜のでんしんばしら』の書き出しだ。

九日の月がそらにかかっていました。そしてうろこ雲が空いっぱいでした。うろこぐもはみんな、もう月のひかりがはらわたの底までもしみとおってよろよろするというふうでした。その雲のすきまからときどき冷たい星がぴっかりぴっかり顔をだしました。

九日の月というから、半月(弓張り月)より少しふくらんでいるはずだ。月の晩には、何かが起こる。シグナルががたんと横木をななめに下にぶらさげると、線路の左側のでんしんばしらの列がいっぺんに北のほうへ歩きはじめる。「ドッテテドッテテ、ドッテテド、/でんしんばしらのぐんたいは/はやさ せかいにたぐいなし……」と立派な軍歌まで歌って。

今月ご紹介した本

ポニーブックス(復刻版)『ぬすまれた月』
和田誠
岩崎書店、2017年
1963年に刊行された絵本の復刻版だ。
カバーのそでに、作者が「読者のみなさんへ」として、ことばを寄せている。――「空にむかって、たくさんのロケットが うちあげられています。ぼくたちが 月に旅行に行くことも、夢では なくなりました。/けれども、月はやっぱり たかいところでかがやいていて、ぼくたちに いろんな、たのしい夢を みせてくれます。この本は、ぼくたちの手が 月にとどくより前の、そういう〈おとぎばなし〉の一つです。」

『天動説の絵本――てんがうごいていたころのはなし――』
安野光雅
福音館書店、1979年
作者による「解説とあとがき」には、こうある。――「大地が丸くて動いていて、太陽のほうがじっとしている、という今日の常識に到達するまで……いいかえれば、迷信に埋まっていた古い時代から新しい科学の時代をむかえるまで……それは文字通り天と地がひっくりかえるほどのはげしい変りようであったことを、ぜひ子どもたちに伝えたいのです。」

『月夜のでんしんばしら』
宮沢賢治・作、竹内通雅・絵
ミキハウス、2009年
現代の絵本作家たちが賢治童話の絵本化にいどむシリーズの1冊だ。月夜の線路での恭一の冒険を竹内通雅が描く。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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