小田先生のさんすうお悩み相談室(3~6年生)

算数との向き合い方

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどく、かつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

 こんにちは、もうすぐ誕生日をむかえる小田です。毎年誕生日が来るたび、生まれた日のことを思い出す……わけもなく。まあ当然というかなんというか、生まれた日の記憶はまったくないのですが、それはそれとして、またこれから1年もいろいろと何かいいことあればいいな、と思います。

 さて、初めての方は初めまして、昨年度から引き続きの方はいつもありがとうございます。本連載についてですが、昨年度までは、「わたしがふだん子どもたちに解いてもらっている問題を紹介し、それらを通してどういう力を身につけてほしいのかなど、その問題のねらいを説明していく」小田先生のさんすう力UP教室というコーナーだったのですが、今年度からは内容を一新し、「読者の皆さまから“お悩み”を募集し、それに答えていく」というコーナーにしていきたいと思います(1・2年生向けの記事では、従来通り問題の紹介をしておりますので、問題を解きたい、という方はぜひそちらもご覧ください)。

 それでは早速行ってみましょう。

お悩み1:算数との向き合い方

 学校の授業や宿題にまじめに取り組んでいるのですが、効率が悪いのか、勉強量に対して成績の伸びがついてきません。学年が上がると算数も難しくなってくるので、さらに負担が増えそうで不安です。まじめに取り組んでいるのに成績が伸びないとき、子どもにどうアドバイスしたらいいでしょうか。

(小3保護者)

さんすう力UPのポイント

 今回はまず初回ということで、カテゴリの大きな“お悩み”から答えていきたいと思います。

算数・数学はそもそも難しい

 “さんすうお悩み相談室”を始めるにあたって、ひとまず身近な保護者の皆さまから“お悩み”を集めてみたのですが、やはりその根っこは多くの場合「うちの子は算数が苦手なんですが、どうしたらいいでしょうか」ということなんですよね(まあ、当然と言えば当然なんですけども)。

 次回からはもう少し細かく答えていこうと思いますが、今回ざっくり方向性を一言で示しておくと、この手の“お悩み”に対するお答えは、基本的に「心配しなくてもだいじょうぶ」ということです。

 子どもが算数が苦手だと、確かにいろいろと心配ですよね。そうやって不安になってしまうことは仕方がないのですが、そんななかにあっても、絶対に忘れてほしくないことが一つあります。それは、「算数・数学は、そもそもとても難しい」ということです。算数ができない・わからないのは、子どもの能力やセンスが足りないからではなく、単に「やっていることが難しいから」という、いわば「あたりまえ」の話なのです。

 そうは言っても、ほかの子は「わかっている・できている」んじゃないか、と思うかもしれません。確かに、学校や塾のテストで「点数が取れている」子はそれなりにいますね。ただ実際のところ、そういった子たちが本当に「できている・わかっている」かと言われると、正直、かなり怪しいのではないかと思っています。たとえば、自分の身の回りの“学校のテストでそこそこ点数が取れていた人”を思い浮かべてみてください。その人たちは、大人になってから学校を離れたあとも、日常生活でxやyを使いこなしていますか。わたしの感覚では、そういう人はそれほどたくさんいるわけではないと思います。むしろ、日常生活でxやyを使っている人がいたら、「この人、よっぽど数学が好きなんだな」と思ってしまうのが一般的な空気ではないでしょうか。数学の基礎の基礎の基礎である、「文字を使って問題を解決する」ということでさえ、自然に浸透しているとは言い難いのが、現在の算数・数学教育の実情なのです。

がんばっていることを認めて、支える

 算数・数学を学ぶ、というのは、本当はとても難しいことです。だからこそ、お子さまが算数の学習で困っているときには、それが一見どんな簡単に見えることであっても、「どうしてできない・わからないんだろう」と思うのではなく、「やっぱり難しいんだなあ」と思ってあげてください。そして、「そんな難しいのによくがんばっているな」という目線で温かく見守ってあげてください。

 そうはいってもお子さま本人が、テストの点が取れなかったり授業の内容が分からないことに、悩んだり気にしたりすることはあるでしょう。そこで保護者の方の役割として大事なことは、心の支えになってあげることです。お子さまが「難しい」と感じている気持ちをまずは受け止めてあげて、「難しいよね」と共感してあげること、そして「そのなかでもがんばっている」と認めてあげること、そういったことが大事です。さらに、できる・わかるようになったことがあれば、些細なことでも一緒に喜んであげること、本人が「できる・わかるようになった」ことに気づいていなければ、それを指摘してあげること。そうやって“暗闇”のなかを進んでいくための“拠り所”になってあげることが、お子さんが本当の意味で算数の学習を進めていけるようになるためにいちばん重要なことなのです。

さかのぼって「できる」ところからやってみよう

 さて、せっかくなので、ほかにもいくつか似たような“お悩み”にも触れておきましょう。

  • いつのまにか算数が苦手になってしまって、中学に入ってからが不安です。どこから復習させればよいのでしょうか。(小6保護者)
  • 算数が苦手のようで、集中して勉強できない様子です。どのように学習を進めていけばよいでしょうか。
  • 算数が苦手で、やる気が出ないのですが、どうしたら好きになれますか。

 いずれも、「苦手な子の勉強法」ということですね。こちらに対するお答えは、「苦手なことは無理してやらない」が原則です。「復習する」というと、「わからないところをもう一度やる」というイメージがありますが、その方法が有効なのは、本人にある程度学習と向き合う精神的な余裕があるときだけです。すでに苦手意識がかたまっている子にとっては、結局やり直したけれどわからなかった、となって、より苦手意識が強まるだけです。算数が苦手だと感じている子がさかのぼって「復習」する場合は、まず自分が「できる・わかる」と思っているところを再度やってみるのがいいでしょう。「すでにできているところをよりうまく」「すでにわかっているところをより深く」学習するのです(たとえば、足し算ならできる、というのであれば、その“足し算”をより速くより正確にやる練習をする、といった感じです)。そうして、自分なりに「成長している感じ」を実際に体験することが、難しいと感じながらも前に進んでいくための第一歩です。

 日々の学習についても、そうですね、苦手なことに集中できないのはあたりまえのことですから、短く時間を区切り、細かく具体的にその日の学習内容を定めるのがいいでしょう。「今日はこれだけやってみよう」という感じです。いずれにしても、無理はしない、自分のペースで、というのが大原則です。

算数・数学は、世界のしくみを理解するための道具の一つ

 算数や数学を学んだことは、将来どんな役に立つのか教えてほしいです。

 最後にもう一つ、“お悩み”を紹介させてください。この“お悩み”は皆さんやはり気になるところだと思います。しかしこちらに答える前に、まず一度考えてほしいことがあります。それは、「テスト」や「学校」がなくなってしまったとき、「算数・数学」はどうなってしまうのか、ということです。少し考えてみればあたりまえの話ですが、算数・数学は、「学校」というシステムが存在するよりもはるか昔から存在しています。逆に言えば、学校やテストがなくなったとしても、算数・数学も一緒になくなってしまうというわけではないでしょう。つまり算数・数学は、「学校」とは別に存在しているものなのです。

 それではそもそも、算数・数学とは何でしょうか。それは、自分たちの取り巻く世界を「もっと知りたい」「もっとわかりたい」と思った人たちがいろいろと考えてきた、いわば人類の英知の結晶です。算数・数学を学ぶのは、“将来”のためではありません。身の回りのこと、“今”“自分が”見ている世界を、より深く知りたい・理解したい、と思ったとき、そのヒントになるのが算数・数学なのです。

 現実的に「学校」というシステムがある以上、テストで点数を取る、ということや、学校の授業についていく、ということも重要な関心事かもしれません。しかし、それだけではなく、“学校”を出たあとにも残るものとして、本当の意味で“算数・数学を身につける”という視点も、忘れないであげてください。


 いかがでしょうか。
 今年も花粉症の季節がやってきましたね。わたしも、いつもこの時期は鼻の調子が悪くなります。昨年くらいまでは「花粉症じゃない、ただの風邪だ」と言い張っていたのですが、昨年、杉のたくさん生えたお城に遊びに行ったとき、くしゃみが止まらなくなってしまったので、「花粉症じゃない」と言い張るのは諦めました。今年も、少しくしゃみの量が増えてきた気がします。何かしら対策を立てたほうがよいのかもしれませんね。認めることは敗北ではなく、次のステージへ進むための第一歩です。まあ、そんな大げさな話でもないですけども。

 それではまた来月!

保護者の皆さまから算数のお悩みを募集します!

お子さまの算数の学習に関して、悩んでいることやお困りのことはありませんか。もしございましたら投稿フォームからお送りください。どのような内容でも大歓迎です!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

主な著書

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