小田先生のさんすうお悩み相談室(3~6年生)

「わからない問題」を「考える」のは難しい

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどくかつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

 こんにちは、物が捨てられないタイプの小田です。さんすう力UP教室(1・2年生)の記事では紙袋が捨てられない、という話をしましたが、あとほかに捨てられないのは“箱”の類ですね。仕事柄、いただきものも少なくないのですが、そういったものが入っている箱って、だいたい素敵な容れ物だったりするじゃないですか。そうすると、やっぱりなかなか捨てられないですよね。捨てられない理由の1つに、何かに使えそう、というのがありますが、実際に使えてしまうこともちょくちょくある(ので、余計捨てづらい)、というのも困ったところです。

 さて、今回は「考える」ことについてのお悩みです。最近は、「考える」力が大事、ということがよく言われています。保護者の皆さまとしても、やはりお子さまに「考える」ようになってほしい、という思いはあるでしょう。しかし、「考える」とは一体どういうことなのでしょうか。そのあたりを一度しっかり“考えて”ほしい、というのが今回のテーマです。

 それでは早速行ってみましょう。

お悩み7:「わからない問題」を「考える」のは難しい

問題で見慣れないものがあったり、少しひねりがあるような問題に直面すると、考えずに「わからない……」と思考停止してしまいます。図をかいてみるよう勧めるのですが、それもどのようにかいたらよいかわからず、毎回助けを求めてきます。自分なりに少しでもまずは考える癖をつけてほしいのですが、どのように促せばよいのかわかりません。

(小4保護者・teco)

さんすう力UPのポイント

「考える」にもいろんな種類がある

 冒頭でも書いた通り、最近は「考える力が大事だ」ということがよく言われます。そういった風潮は、一見すると“正論”であり、“いいこと”のように見えます。しかし、安易にその流れに乗ってしまうのは、少し危ないところもあるのではないか、というのが、わたしの個人的な感覚です。なぜなら、「考える」という日本語は、とても漠然とした言葉だからです。

 たとえば、「晩御飯のことを考える」と言ったとき、どういうことを考えますか。「今日の晩御飯は何かな」と考えることもあれば、「今日の晩御飯は何にしようかな」と考えることもあるでしょう。これらはともに「晩御飯のことを考えて」はいますが、思考の際の負担は大きく違いますよね。前者はある意味では無責任な“予想”で済みますが、後者は何らかの行動が伴う(はずの)“意思決定”です。しかしどちらも、「考える」という言葉で表現することが可能です。さらに言えば、「今日の晩御飯は何かな、と考える」というのであっても、とくに根拠もない単なる“予想”から、持っている情報から晩御飯のメニューを当てる“推理”まで、いろんなレベルの「考える」を想定することができます。

 算数教育における「考える」も同じです。一口に「考える」ことが大事だ、と言ってもそこにはいろんな種類の「考える」があります。「何をどう考えるのか」を大人たちがきちんと考えず、「考える」という言葉で思考停止してしまえば、結局そのしわ寄せは子どもたちにくるのです。だからこそ、子どもに対して「考えてほしい」と思う前に、まずは大人が「考える」とはどういうことなのか、ということについて、しっかり考えてほしいと思います。

子どもが「考える」ようになるために、大人が心がけたいこと

 さて、そんな感じで、昨今の「考える」ことを持ち上げすぎる風潮に対する、わたしの思いのたけをぶちまけたところで、そろそろ“お悩み”へのお返事を書いていきたいと思います。

 「考えていない(ように見える)」子どもと向き合うとき、一番大切なことは、まず「考えればわかるはず」という意識を捨てることです。問題がなかなか解けない子どもを見ていると、少し考えればわかるはずなのに……と、もどかしく感じることもあるでしょう。しかしその、大人が「考えればわかるはず」と感じることの多くは、子どもにとっては「考えているけれどなかなかわからない」ことです。大人が「考えればわかる」と思うのは、単に結論を知っているから、というだけのことがほとんどなのです。

 このギャップは、子どもを「考えない」ようにしていく一つの大きな要因になってしまいます。「考えればわかるはず」という思い込みは、「わからないのは考えていないからだ」という意識につながります。しかし実際には、子どもは子どもなりに何かを“考えて”います。そして、それでもわからないから困っているのです。子どもの視点から見て、「考えているのに、考えていないと思われている」ことが繰り返されれば、そのうち「どうせ自分は“考える”ことができない」と思ってしまうようになり、「考える」ことを諦めるようになるでしょう。それを防ぐためにも、まずは「子どもは子どもなりに何かを考えているし、それでもわからないから困っているんだ」という目で子どもを見てあげることが重要なのです。逆に、そうやって「(下手であっても・正解にたどりつかなくても)子どもなりに何かを考えている」ということを認めてあげることで、子どもも「もっと考えてみよう」と思えるようになるでしょう。

「考える」力を伸ばす算数の声かけ例

 子どもは子どもなりに考えていますが、それでも問題が解けないことが多々あります。それは単に、考え方がまだあまり上手くないからです。「考える」というのは、単に姿勢の問題だけではなく、技術的・能力的な要素が多分に含まれているのです。その意味で、必要なのは技術的な指導や、能力的なトレーニングでしょう。ただ、どういう問題・どういう場面で実際に子どもにどういうふうに声をかけていくか、というのは、個々の場面やその子の状態に応じていろいろと違います。それぞれのシチュエーションで、適切な指導をしていくためには、やはり「算数・数学」や「教育」に関してある程度の専門性が必要になるでしょう(だからこそ、“算数の先生”という職業があるわけですが)。

 身もふたもない話をすれば、そのあたりはプロを頼るのが一番、という話になってしまうのですが、せっかく“お悩み”としてご相談いただいたので、いくつか「わたしならこういう場面でこう声をかける」という、具体的な声の例を紹介していきたいと思います。

「どこで困っている?」「どこまでわかった?」「どういうふうにやってみようとした?」

 まず大事なことは、子どもがどう考えてどこで行き詰まっているか、を知ることです。手が止まっている子がいたとき、いきなり解説を始めるのではなく、必ず“子どもが今どこにいるのか”を確認するようにしています。ここで大事にしていることは、「子どもなりに何かを考えているはず」という前提に立つことです。上に挙げた“声のかけ方”は、いずれも「子どもが何かしらやろうとしている」という立場に立っているのがわかりますか。そういう、ある意味では信頼のもとに声をかけてあげることで、子どものほうも、「自分がやっていること・やろうとしたこと」を話しやすくなるのです。
 そして、子どもが話してくれたら、「なるほど」と一度受け入れてあげることが重要です。そのあと、その“考え”の間違っているところや足りないところがあれば、そこを具体的に指摘します。そうすることで、子どもは自分の“考え”を修正し、より正解に近づくことができるでしょう。あとは、その繰り返しです。

「この問題と、どこが同じ? どこが違う?」

 “お悩み”にもあるように、「少しひねるとわからなくなる」という状況も、よくありますね。そういった様子を見ていると、「さっきの問題と同じでしょ!」と思ったりもするわけですが、これもやはり“大人の勘違い”です。大人にとって同じに見える問題でも、子どもにとっては違うように見えていることが多々あるからです。そういう場合は、まず具体的にその「同じ」問題を「ひねった」問題と並べて、「この問題と、どこが同じ? どこが違う?」と聞くのがいいでしょう。ここで気を付けたいのは、「正解を求める」スタンスでは聞かない、ということです。あくまで、その子にとって「どこが同じでどこが違う」ように見えているのか、を聞き出したいのです。そのため、どういう返答が返ってきても、これもやはり「なるほどね」と受け入れてあげましょう。そして、「そこが同じだと、解き方のどの部分がそのまま使える?」「そこが違うと、解き方のどの部分をどういうふうに変えなきゃいけない?」と聞いてあげてください。
 表面的には違う問題に対して“同じ部分”を探し出し、“違う部分”を調整して対応する力、というのは、具体的な“考える力”の中身のひとつです(よく「応用力」と呼ばれているものの正体も、だいたい同じです)。そういったことを“考える”方向にもっていくのも、「考える」力を伸ばす指導のひとつです。

「何がわかればこの答えがわかる?」「問題文に書かれていることからわかることは何?」「この問題では何の数について考えている?」

 この文章の最初のほうで、「考える」といってもいろいろな「考える」がある、という話をしました。「考える」力をつけていくうえでまず大事なことは、「何を考えるのか」をはっきりさせることです。「考える」のがうまくない子は、この「何を考えるのか」を設定する、つまり「問いを立てる」のがうまくありません。そこで、そういう子に対しては、代わりにこちらから「何を考えるのか」を具体的に提示してあげることが大事でしょう。そうやって、「こういう問いを立てるといいんだよ」ということを具体的に繰り返し伝えることで、問いの立て方を学んでいってもらうのです。
 こういった声掛けをするときには、「具体的に結論を出しやすい」質問をすることが大事です。上に挙げた問いかけを見ていただくとわかる通り、「何」を聞いていることが多いですね。逆に「なぜ」や「どうやって」は聞いていません。「なぜ(why)」や「どうやって(how)」は、思考を拡げていく際の“考える”には向いていますが、問題解決のために結論を出す際の“考える”には向いていないからです。

(解答・解説を見せたあとで)「どの部分が難しかった?」

 おそらく多くの人は、「わからなくてもしばらく答えを見ずに自分で考えることが大事」と思っているでしょう。しかし、これも場合によりけりです。ある程度やってみて解けない問題は、少なくともその子にとっては「難しい問題」です。いろいろやってみてわからなかった問題について、さらにうんうんと悩んでみても、そこから解けることはめったになく、結局は苦手意識を増幅させていくだけになるでしょう。そういった場合は、さっさと解答・解説を見てしまう、というのも、実は一つの手段です。
 そんな簡単に答えを見てしまったら、“考える”力がつかないのではないか、と思いますか。もちろん、そんなことはありません。答えを見てから“考え”ればいいのです。答えのような解き方をするためには、自分にどういう発想が足りなかったか、を“考え”れば、次からその発想を使うことができるようになるかもしれません。新しい発想を身につければ、次に問題を解くときの“考える”力になります。そもそも「勉強」というのは、「新しいものを身につける」というだけのことなのですから、答えを見るにしても見ないにしても、「新しく何かを得られればそれでOK」なのです。

 ひとまず、以上のような感じでしょうか。

 いずれにしても、繰り返しにはなりますが、大人の基準による“できるはず”の押しつけはやめましょう(似たような話で言えば、今回はあまり触れることができませんでしたが、「図をかく」というのもとても難しいことです。本当の意味で「図がかける」ようになるためには、問題の構造を捉える力と、それを抽象化して図式化する力が必要です。図をかかない子は、かかないのではなく、かけないのです。図をかくようになるためには、技術的な指導とトレーニングが必要です。そのトレーニングができていないのに「図をかく」ことをさせようとすると、定型的な図をかいてそこに数値を流し込むだけになってしまいます)。

 まずは子どものことを信頼し、子どもなりに頑張っていることを認めてあげることこそ、“考える力”を含めた、様々な算数・数学的能力を伸ばすための土台を作っていくために重要なことなのです。


  いかがでしょうか。
  いつの間にか夏も終わってしまいましたが、それにしても、今年の夏は暑かったですね。子どもたちが学校に行っている日程の間は、わたしの活動時間は夕方から夜となるのですが、朝から授業がある夏休みは、生活のリズムも変わってくるので結構大変です。今年の暑さはかなり危険だな、と思ってはいましたが、昼休みを例年より長めに設定したこともあってか、無事乗り切ることができました。お昼寝、いいですよね。あと、夏休みの終わりには、自宅から徒歩20分のところに旅行に行ってみたりもしました。本当は温泉旅行にでも行きたかったのですが、準備が面倒になって、とりあえず大きなお風呂に入ってきれいな布団で寝られたらいいや、ということで、近くのビジネスホテルで一泊してきたのです。それはそれで楽しかったですけどね。

 それではまた来月!

保護者の皆さまから算数のお悩みを募集します!

お子さまの算数の学習に関して、悩んでいることやお困りのことはありませんか。もしございましたら投稿フォームからお送りください。どのような内容でも大歓迎です!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

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