親と子の本棚

庭に広がる夢

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

未来をつくる仕事

『ほんのにわ』より

『ほんのにわ』は、みやざき ひろかずの新作絵本だ。
絵本の表紙のなかに深緑色の本の表紙が描かれている。本の題は『ほんのにわ』で、表紙のわきから茎がのび出て、その先に、大きなピンクの丸い固いつぼみがついている。絵本の背表紙は、その本の背表紙でもあり、絵本の裏表紙のなかには、その本の裏表紙が描かれている。
2冊の本の表紙がかさなっている表紙をあけて、とびらもあけると、最初の見開きの左のページには、男がスコップで地面を掘っている絵が描かれている。

ぼくは にわし。
にわのていれを したり、あたらしい にわを つくったりするのが しごとだ。

右のページには……。

にわを つくるのは、えを かくのに すこし にている。
きや はなや いしで いちまいの えを かくように にわを つくる。
なんねんかさき、きや はなが そだった すがたも かんがえながら。

なるほど。ここには、男が絵筆をもって木を描いている絵が描かれている。このページから思い出すのは、表紙にかかっている帯に引かれていたカレル・チャペック『園芸家の一年』のことばだ。――「わたしたち「庭師」は未来に生きている。/バラが咲くのを見れば、つぎの年にはいっそううつくしく咲くことを、小さなトウヒを見れば、幾年かのちにりっぱな木となることを思いえがく。……/もっともよいものは、わたしたちの行く先にある。」

となりの家の庭

バルト・ムイヤールト文、アンナ・ヘグルンド絵の絵本『かきねのむこうはアフリカ』は、スウェーデンで刊行された絵本だ。絵本のなかの「ぼく」は、日本でいうと「棟割り長屋」のような家に住んでいる。――「ぼくの家は、ドアが左に、まどが右についていた。おとなりもおなじような家だ。そのおとなりも、そのおとなりも、そのまたおとなりも、さらに三げんさきまでおなじような家だった。」そして、それぞれの家の裏には、テラスと細長い庭がついている。
「ぼく」の家のとなりには、フランス語を話す男の人と奥さんと4人の子どもたちが暮らしている。奥さんは、きれいな茶色のはだの人で、デジレーさんというのだ。フランス語のおじさんは出張ばかりで、ほとんど家にいないのだけれど、デジレーさんが、ひとりで庭に何かをつくりはじめる。デジレーさんは、まず、どの庭にもある物置をこわして、その場所に粘土の小屋をつくっていく。粘土をこねるときには、4人の子どもたちも、はだしでどろんこを踏みつける。
「ぼく」は、家の窓から作業をながめ、雨のなか、外で仕事をつづけるデジレーさんに熱いお茶をもって行ってあげたりする。
「ぼく」は、垣根のそばで何日もながめ、どろの家ができると、デジレーさんが「ぼく」にいう。――「そのかきね、こえておいでよ」「ようこそ」――「ぼく」は、家に入ってみる。アフリカのカメルーンにいるデジレーさんのおばあちゃんも、生まれてからずっと、こんな土の家に住んでいるという。「じゃ、ここで暮らすつもり?」と「ぼく」がたずねると、デジレーさんは、笑っていう。

「そういうわけじゃないわよ。たまにきて、のんびりしようとおもって。あっちの家にあきたときとか、国がこいしくなったときとかね。ときどき、自分の家にかえりたくなるのよ。」

とうさんの写真

『ほんのにわ』の男の亡くなったとうさんも、庭師だった。ずっと通っている庭で、「あなたの おとうさまが うえてくださった はな、ことしも さきましたよ」といわれる。咲いた花は、未来を描く画家だった、とうさんが絵に記したサインのようなものだ。
ある晩、男が、とうさんの残した庭の本を読んでいると、「ほんのにわ」という、ふしぎな庭を見つける。そこには、見たことのない草や花ばかり……。本からすべり落ちた写真には、とうさんが写っていて、裏には、「ほんのにわにて」と書かれている。――「ほんのにわって ほんとうに あるのか!」
「ぼくは まだ とうさんのようには にわを つくれていない きが する。」と考える男にとって、とうさんは、ずいぶん大切なものだ。それなら、ユードリイ『あのね、わたしのたからものはね』のメアリィ=ジョーの大切なものは何だろう。

今月ご紹介した本

『ほんのにわ』
みやざき ひろかず
偕成社、2018年
本の帯に引用されているのは、チェコの劇作家・小説家、カレル・チャペック(1890~1938年)の著書『園芸家の一年』(1929年?)のしめくくりのことばだ。トウヒは、マツ科の常緑高木。

『かきねのむこうはアフリカ』
バルト・ムイヤールト文、アンナ・へグルンド絵、佐伯愛子訳
ほるぷ出版、2001年
奥付のページの〈作者・訳者紹介〉によれば、文のバルト・ムイヤールトはベルギーの作家、絵のアンナ・へグルンドはスウェーデンの絵本作家、訳者は、イギリスやスウェーデンの大学で学び、アメリカのボストン在住だという。おたがいの距離をこえて、できた絵本だ。
絵本の「ぼく」のとなりの家の庭で小屋をつくるのは、カメルーン生まれの女性だが、そのとなり、そのまたとなりには、どんな人たちが暮らしているのか。

『あのね、わたしのたからものはね』
ユードリイさく/ミルえ、かわい ともこやく
偕成社、1983年
メアリィ=ジョーは、小学1年生。1年生のクラスでは、毎朝、だれかが自分のたからものの話をすることになっているのだけれど、はずかしがりやの彼女は、話ができない。メアリィ=ジョーのたからものは、いったい何だろう。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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