小田先生のさんすうお悩み相談室(3~6年生)

図や式の書き方

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどくかつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

  こんにちは、今年の目標こそ「文化的な生活」に決めた小田です。毎年同じことを言っている気もしますが、たぶん気のせいです。去年は「100名城スタンプ」を集めるぞ! みたいなことを書いていましたが、これもどこかでお伝えした通り、さらに「続100名城」が発表されて、集めるスタンプが2倍になったんですよね。今年も頑張りたいと思います。
 さて、今回は「図」や「式」に関するお悩みです。「図をかく」ことや「式を書く」ことが大事だ、とは言われますが、実際に子どもを見ていると、なかなか書くようになってくれませんよね。その様子を見ていると、やはり歯がゆく感じると思うのですが、今回はそういったお悩みにお答えしたいと思います。
 それでは早速行ってみましょう。

お悩み11:図や式の書き方

算数で計算式を書く、図をかいて考えることの重要性はいつも伝えているのですが、なかなか自分からやってくれません。実際に図をかきながら説明をすると効果はわかるようですが、自分ではやってくれないのです。どうすれば習慣づけができるようになるでしょうか?

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図や式を書くことは本当に重要なことなのか?

 算数の問題を解くときには図や式を書くことが大事、という話は、みなさんよく聞くことでしょう。しかし一方で、冒頭でも書いた通り、実際に「図や式をきちんと書ける子」というのはなかなか見つからず、ほとんどが“図や式を書かない子”たちなわけです。そんな子たちを見た周りのオトナは、心配になってやれ「図をかけ」「式を書け」と言うわけですが、率直に言ってしまえば、それはあまり効果がないばかりか、むしろ逆効果になっているようにも感じています。
 そもそも、「図をかく」「式を書く」ということは、本当に大事なのでしょうか。そして、大事だとすれば、なぜ大事なのでしょうか。
 図や式を書くことの重要性の根拠として、「まちがえたときに見直しやすいから」や「ほかの人が見たときに、考え方がわかりやすいから」ということを挙げる人もいるでしょう。しかしこれらの説明は、まちがいではないにしても、本質の部分からはだいぶズレてしまっています。よくよく考えてみてください。そして、自分が問題を解いていたころのことを思い出してください。問題を解いている最中に、「まちがえたとき」のことや「他人に伝えるとき」のことを気にしますか。問題を解いている間は「正解を出すこと」に全エネルギーを注ぎ込んでいるはずです。「ほかの人が見ること」を考えている余裕はありませんし、「まちがえたときのこと」なんて考えたくもないでしょう。図や式を書く、というのは、それなりにエネルギーが必要な行為です。「見直し」や「ほかの人が見る」という理由では、そのエネルギーを割くにあたらない、という判断は、ごくごくあたりまえだと思いませんか。
 その意味では、そういう理由で式や図を書くことが大事だ、と子どもに伝えても、響かなくて当然です。うるさく言えば言うほど、いいところ、「表面上は素直に書いているように見えて、形だけそれっぽいものを書いている」という状態が関の山でしょう。多くの場合、「うるさいなぁ」と思って聞き流されるのがオチです。
 それでは、どのように「図や式を書くことの重要性」を伝えればいいのでしょうか。そもそも、本当に図や式を書くことは重要なのでしょうか。もったいぶった言い回しになってきましたが、図や式を書くことが重要、というのはまちがいではありません。しかしその重要性の根拠は、もっとシンプルに「正解にたどりつける可能性を広げるため」と伝えるのがいいでしょう。

情報を整理するために図や式を書く

 たとえば、複雑な問題を解くときには、やはり図や式を書くことが重要です。複雑な問題では、ヒントとなる情報が問題文中のあちこちに散らされていることがあります。そういった問題をそのまま解こうとすると、どこから手を付けていいのかなかなか見えてきません。しかし、それらの情報を上手く整理してあげれば、ヒントが見えてくることも少なくないのです。そういったときこそ、まさに「正解にたどりつく可能性を広げるため」に「図や式を書く」ことが重要になります。
 ただし、ここで気をつけなければいけないことは、それでもやはり「図をかきなさい」「式を書きなさい」とは言わないほうがいい、ということです。あくまでも目的は「情報を整理する」ことです。問題によって、図で整理したほうがいい場合もあれば、式で整理したほうがいい場合もあります。そのほかにも、表や絵などで整理していったほうがいい場合もあるでしょう。「図をかけ」「式を書け」という指示を繰り返すと、「図」や「式」という形にこだわってしまい、その判断を狭めてしまいます。実際、「式を書きなさい」と言われ続けた結果、図で整理していくのがふさわしい問題で、ちまちまと計算式を並べて情報整理ができていない、という子はよく見かけます。指導にあたっては、「式や図を書くこと」よりも、「情報を整理する」という部分を強調して伝えたほうがいいでしょう。
 そして、さらに気をつけなければいけないことは、図にしても式にしても「情報を整理する方法」を問題に応じて具体的に伝えてあげるということです。図や式を書かない子の“書かない理由”の大きなひとつの要素として、そもそも「それらが書けないから」というのもあるからです。かかれた図を見ればわかる、ということと、自分で図をかける、ということの間には、大きな隔たりもあります。完成した図を見せるだけでなく、どういう問題でどういうふうに情報を整理していけばいいか、その際には何に注意・注目すればいいか、そういったことを具体的に提示してあげなければ、「自分で図をかける」ようにはなかなかなりません。

解く手順を整理するために図や式を書く

 もうひとつ、図や式を書くことが重要になる場面として、「解いていく手順自体が複雑なとき」というのもあります。ある程度「こうやって解けば正解にたどりつけそう」と見えた問題であっても、その道のりが複雑であれば、途中で手順を飛ばしてしまったり、計算をまちがえてしまったりして答えをまちがえてしまう、ということがよくありますね。図形の面積を求める問題などは代表的でしょう。計算しているうちに「足し忘れ・引き忘れ」のようなミスが出る、というのは珍しい話ではありません。しかしそういった場面で、「これからこういう計算をする」という“式”を書いておくと、ミスを減らすことができるのです。
 「問題を解く」という作業を、「解くための計画を立てる」→「その計画を実行する」というステップに分け、各段階でそれぞれやるべきことに集中すれば、正しく最後までやりきることができる確率が上がります。その「計画」にあたるのが、“式”というわけです。先に式を書いておくと、その式の段階で「本当にその計算で答えが求められるか」というチェックをすることもできます。その時点でまちがいに気づけば、無駄な計算をすることなく、再度考え直すこともできるでしょう(余談ですが、わたしの指導の際には、子どもたちには「脳内上司にチェックしてもらう!」と伝えています。まず計画書を上司に提出して、ハンコをもらってからその計画を実行する、という話です。子どもにはもちろん上司なんていないわけですが、なんとなく意味は伝わるようです)。
 ここでは、「途中でまちがうことを防ぐ」という意味で、「式を書く」ことが重要になります。もちろん、このような場面でも「式を書く」ことそのものが重要なわけではなく、実際に解き始める前に「どう解いていくか」を整理することが大事、という話なので、やはりそちらを強調するほうがいいでしょう。

「図や式を書く」ことは問題を解くための技術

 今回のお悩みは「どうすれば習慣づけられるか」ということだったのですが、「図や式を書く」というのはそもそも“習慣”にするものではなく、ひとつの「技術」です。誤解を恐れずに言い切ってしまえば、図や式を書かなくても解けるくらいの問題であれば、別にいちいち書く必要もないのです。いちばん大事なことは、「問題が解けないときや答えがなかなか合わないとき、図や式を書くことで正解にたどりつきやすくなる」ということを理解してもらうことです。そしてそのためには、本当に子どもが困っているときに、具体的にその「図や式」の効果を提示して、その有用性を実感してもらうことが重要でしょう。その意味でも、正解できている問題に対して「図をかきなさい」「式を書きなさい」とうるさく言ってしまうことは、逆効果にしかなりません。
 子どもが“図や式を書かない”理由は、基本的には「簡単すぎて書く必要がない」か「難しすぎて書けない」かのどちらかです。「簡単すぎて書く必要がない」と子どもが思っているとき(そして実際に正解できているとき)は、とくに何かを言う必要もないでしょう。そのまま温かく見守ってあげれば大丈夫です。そして、問題が解けなくて悩んでいるとき、答えがなかなか合わなくて困っているとき、「情報の整理の仕方」や「解いていく手順の整理の仕方」を、具体的に伝えてあげてください。それを丁寧に繰り返していくのが、「図や式を“使いこなせる”人」になるための指導の第一歩です。


  いかがでしょうか。
 年末は例年通り実家に帰り、年明けにはこれまた例年通り実家の近所の神社にお参りしてきました。引いたおみくじで心に残ったのは、「古い事を改め、新しき事を初めるによし」という言葉です。思い返せば、昨年は大きな変化こそなかった代わりに、日々の「やらなければいけないこと」が以前よりも地味に増え、それらをうまく回せずにバタバタしたまま終わってしまった、という反省があります。おみくじで出たから、というわけではありませんが、今年はまずそれらをうまく回す方法を考えて、さらに新しいことにも挑戦する余裕ができたらいいな、と思っています。
 それではまた来月!

保護者の皆さまから算数のお悩みを募集します!

お子さまの算数の学習に関して、悩んでいることやお困りのことはありませんか。もしございましたら投稿フォームからお送りください。どのような内容でも大歓迎です!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

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