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メタンハイドレートで日本の未来が変わるかも

日本のすぐ近くに「メタンハイドレート」というエネルギー資源が存在することがわかりました。夢の国産エネルギーともいわれますが、どのようなものなのでしょう。

夢が実現? 夢のまま?

「メタンハイドレート」という物質が、日本のエネルギー源になるのではないかと注目されています。2013年3月には、日本の近海の地下にあるメタンハイドレートから、燃料にもなるガスが採り出されました。海底のメタンハイドレートからガスを採り出したのは世界初のことです。今回は、注目されるメタンハイドレートを巡る数々の疑問を取り上げてみましょう。

地下に眠る“シャーベット”から 燃料となるガスを採り出す

白いシャーベット状の物質に火をつけると、青や赤の炎を出して燃えます。メタンハイドレートは、「燃える氷」とも呼ばれています。どのような物質なのでしょう。
「メタンハイドレート」は、「メタン」と「ハイドレート」というそれぞれの言葉を組み合わせた名前です。メタンは、ガスつまり気体の一つで、炭素の元素1個と水素の元素4個から成り立っています。火をつけると、青い炎を出して燃えます。メタンは多くの家で都市ガスとして使われているので、身近なガスといえます。一方、ハイドレートは、水の分子がほかの物質と結びついてできた化合物のこと。「水和物」とも呼ばれます。メタンハイドレートの場合、水の分子がメタンの分子を包み込むように結びついて化合物になっています。まとめると、メタンハイドレートは、「メタンと結びついた水和物」ということになります。

炎が青いのは、酸素がメタンと反応するとき出てくるラジカルという不安定な分子のエネルギーの状態によるもの。

地下にあるメタンハイドレートは、氷点下80℃以下と23気圧以上とか、氷点下30℃以下と10気圧以上といった、低温・高圧の組み合わせの条件で存在しています。テレビのスタジオなどで紹介されるメタンハイドレートは「パチパチ」と音を立てますが、地下にあるときよりはるかに高温で低圧のため、分解が起きてメタンガスが出ているのです。
では、メタンハイドレートはどうやってできるのでしょう。まだ解き明かされているわけではありませんが、有力な説に「生物起源説」という次のようなものがあります。
地球上では、海洋プレートという巨大な岩盤が、ベルトコンベアのようにゆっくりと移動しては地球内部へと沈み込んでいます。この“ベルトコンベア”に、長い距離を乗ってきた岩石などは、小さな粒々として“ベルトコンベア”が沈み込むところの海底に堆積していきます。実は、そのような環境を好んで生きている菌類が何種類かいます。メタンをつくり出す「メタン生成菌」という菌類もその一つで、ここでメタンをせっせとつくっているといいます。地下深くでメタン生成菌がつくったメタンは、地下深くならではの圧力を受けて上へ上へと移動していき、海底近くの地下で水分子に取り囲まれ、メタンハイドレートが生まれる……。この有力な説では、そのようにいわれています。
これまで日本が行ってきた調査によって、南海トラフと呼ばれる太平洋の海底の地下にメタンハイドレートが大量に存在していることがわかっていました。南海トラフを含め、日本の近海には、日本で消費される天然ガス100年分のメタンハイドレートが存在すると考えられています。日本列島は、北米大陸から始まる“ベルトコンベア”の終着地。長い距離を運ばれた岩石が粒々になり、堆積しやすい条件があります。
2013年3月に日本の資源エネルギー庁が行った海底のメタンハイドレートからのメタンガス採り出しでは、「減圧法」と呼ばれる採り出し法が使われました。次のような方法です。

①ポンプで地下水をくみ上げて、地下の圧力を減らす。②メタンハイドレートが分解されてガスが生じる。③ガスを引き上げる。 (出典:メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム)

プロジェクトに協力した海洋研究開発機構の「ちきゅう」という調査船から、ストローが二重になったような細長い管を、メタンハイドレートの存在する海底に突き刺します。そして、突き刺したところの地下水をポンプで管の内側から「ちきゅう」までくみ上げます。すると、そのあたりの地下の圧力が減っていきます。これで高圧の地中に閉じ込められていたメタンハイドレートが圧力から解き放たれて分解し、ガスとしてのメタンが発生します。このメタンを、同じ二重の管の外側の通り道から引き上げて、「ちきゅう」で回収するのです。
その後も資源エネルギー庁はどのくらいの量のメタンハイドレートが日本の近海にあるのかを把握するための調査を行っています。厚さ数m以上の柱状のメタンハイドレートが採れた場所もあれば、泥が混ざった大きさ1cmの粒として採れた場所もあり、場所によって状態や量が大きく違ってくることなどがわかってきました。

課題は費用面や環境面

日本は、石油や天然ガスがほとんど採れず、これまで多くのエネルギー源を輸入に頼ってきました。メタンハイドレートからメタンをたくさん採れるようになれば、エネルギーの乏しい状況から抜け出すことができます。しかし、メタンハイドレートが見つかって、採り出しに成功したからといって、簡単に日本がエネルギー大国になれるかというとそうとはいえません。乗り越えなければならない課題があるからです。
これまでの採り出しは調査目的であるため、費用のことはあまり考えず「とにかく採ってみる」ということで行われました。しかし、メタンハイドレートを資源として使うことを考えるとそうはいきません。石油の価格に採掘のための費用などが反映されるのと同じく、メタンハイドレートからガスを採り出すのにも費用がかかります。液体の石油を地下からくみ上げるのと違って、ガスを採り出す技術は難しく、今のところとても高くつきます。石油、天然ガス、原子力などのエネルギー資源がライバルになりますから、これらのライバルより安く、少なくとも同じくらいの費用で、メタンハイドレートからがガスを採り出す技術を開発することが大切になってきます。
併せて、環境面への影響が出ない採り出し方を開発するのも課題です。生態系への影響を防ぐため、メタンを海中や海上に漏らさないようにしなければなりません。また、メタンは、地球温暖化に寄与する温室効果ガスの一つです。実用化に近づけば、環境面は問題ないかという議論も高まってくるでしょう。
日本を支えるエネルギー資源となるか、日本の近くに眠ったままの物質として忘れられていくか。国や研究機関や企業のがんばり次第で、エネルギーを巡る日本の将来像は変わっていきそうです。

プロフィール

漆原 次郎 (うるしはら・じろう)

1975年生まれ。出版社で8年にわたり科学書の編集をした後、物書きに。小難しいけれど魅力的な科学・技術の世界を伝えています。
小話ブログ「科学技術のアネクドート」(http://sci-tech.jugem.jp)日々更新中。

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