親と子の本棚

宇宙にのがれる

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

庭の宇宙船

『スタンリーとちいさな火星人』より

 かあさんが とまりがけで でかけることになった。
 そのひ、スタンリーは ちきゅうを はなれることにした。
 「しごとなの。あした かえってくるから。いいこに しててね」かあさんは いった。

サイモン・ジェームズの絵本『スタンリーとちいさな火星人』の最初の見開きだ。ドアを出たおかあさんは、ふりかえって手をあげ、おとうさんとおにいちゃんは、手をふって見送る。でも、絵のなかのスタンリーは、肩をすくめて、手もふらない。
つぎの見開き。「スタンリーは にわにでて、うちゅうせんに のりこむと、ちきゅうを とびたって…… かせいに むかった。」
つぎのつぎの見開き。「しばらくすると、うちゅうせんが スタンリーの いえの にわに もどってきた。でてきたのは、ちいさな かせいじんだ。」
絵のなかの宇宙船は、何だか大きなダンボール箱のように見える。ただ、箱には、「UFO」と書いてある。庭にもどってきたダンボール箱から出てきたのは、スタンリーに見える。ただ、彼は、ヘルメットのような、帽子のようなものをかぶっている。ウィルにいさんがいう。――「やあ、スタンリー」「どうして、おかしなぼうしを かぶってるんだ?」ところが、彼はいう。――「ボクは スタンリーじゃない。カセイジンだ」

弟のいない世界へ

 食料品のお金をはらってから、ママが店長さんに、ダンボール箱はもらえますかってきいてくれた。
「この子がつかうんですけど」
 すると、店長さんがいった。
「いつも、箱はすぐにつぶしてしまうんだ。でも、ぼうや、きみはついてるぞ。さっき、ちょうど荷物がついたところでね。で、いくつほしいのかな?」
「宇宙船をつくるのに、十こくらいいるんです」

フランク・アッシュ『天才少年ダンボール博士の日記 宇宙船をつくれ!』の「ぼく」は、こうしてダンボール箱を手に入れる。ダンボール箱をはこぶ車のなかで、「ぼく」は、宇宙船の設計図を書きあげてしまう。「ぼく」の秘密の宇宙旅行計画は、世界を救うためというような、立派なかっこいい目的のためではない。「ぼく」は、弟のいない「宇宙のはて」に行ってしまいたいのだ。――「弟の名前はジョナサン。いやなやつなんだよ、これが。」
弟は、ひどいおしゃべりで、一日中、「ぼく」に質問してくる。「どろにもおへそがあるの?」「なんで、赤ちゃんって、はだかでうまれてくるの?」……。弟は、信じられないほど不器用で、じっとしていないし、泣き虫だし、そのくせ生意気なのだ。
「ぼく」は、弟のいる暮らしから脱出するために宇宙船の製造にとりかかるが、それも、弟にじゃまされる。――「ねえ、おにいちゃん、ぼくになにかつくってくれるの?」そして、「ぼく」のジーパンのベルト通しに指をひっかけて、ぐいぐいひっぱってくる。

どこからかの声

『天才少年ダンボール博士の日記』の「ぼく」の宇宙旅行は、この弟からのがれるためだけれど、『スタンリーとちいさな火星人』で、おかあさんが出かけてしまったあと、スタンリーが庭の宇宙船にのりこんだのも、何かから、のがれるためにちがいない。それは、かあさんがいなくなった、さびしさか、つまらなさか。
火星まで行ってもどってきた宇宙船から、おりてきた火星人は、「おとうとの スタンリーに そっくりなんだけどな」という、にいさんに、「おまえたちの ほしを しらべにきた。リーダーに あわせろ」と要求する。にいさんは、火星人をおとうさんのところに連れていく。おとうさんは、晩ごはんの支度をしていた。火星人は、「カセイジンは、てを あらわない」といい、「カセイジンは、チキュウの たべものが すきじゃない。」という。火星人は、結局、さびしさや、つまらなさの中にいるようだ。あのスタンリーと同じように。
「ぼく」やスタンリーが宇宙にのがれようとしたのとは逆に、宇宙からやってきたものの話が、佐藤さとる『宇宙からきたかんづめ』だ。

 ぼくが、そいつを見つけたのは、スーパーマーケットのたなの上でした。
 (中略)
 (おや?)
 ぼくは、ちょっとおどろきました。手に取ったパイナップルのかんづめが、思ったより、軽かったのです。

「ぼく」が、その大きなかんづめを力いっぱいふってみると、どこからか、「ふってはいかん!」という声がする。

今月ご紹介した本

『スタンリーとちいさな火星人』
サイモン・ジェームズ 作、千葉茂樹 訳
あすなろ書房、2018年
翌日の夜、ようやく、かあさんが帰ってくる。ウィルは、「かあさん!」「さびしかったよ」といい、「かせいじんと いっしょに くらしはじめたんだ。」ともいう。さて、その火星人は、どうしただろう。

『天才少年ダンボール博士の日記 宇宙船をつくれ!』
フランク・アッシュ 作、白井澄子 訳、矢島眞澄 絵
ポプラ社、2009年
「ぼく」の宇宙船の名前は、「スター・ジャンパー」。真夜中に出発する前、「ぼく」は、パパとママに手紙を書く。――「パパとママが、この手紙を読むころには、ぼくはもう、銀河のむこうにいます。」

『宇宙からきたかんづめ』
佐藤さとる 作、岡本 順 絵
ゴブリン書房、2011年
宇宙からきたかんづめから聞いた話六つが収められている。
盛光社版(村上勉絵、1967年)、童心社版(村上勉画、1978年)の再々刊。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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