親と子の本棚

勇敢な女の子と、やさしいライオン

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

帰り道の友だち

『いっしょにかえろう』より

「いっしょに うちに かえってくれる?」――少女がライオンに話しかける。少女は、右肩にバッグをかけているから、学校から帰るところだろうか。黄色い花を差し出して、たのんだ相手は、少女の何倍も大きいライオンなのである。ハイロ・ブイトラゴラファエル・ジョクテングの絵本『いっしょにかえろう』のはじまりだ。
女の子は、「おしゃべりしてたら とちゅうで たいくつしないから。」ともいう。ライオンを見て、町の人たちは、びっくりする。悲鳴をあげる女の人、気をうしなってしまう男の人、子どもをかばおうとする、おとうさん、泣きわめく女の子……。ライオンにカメラをむける男の子もいる。それでも、少女は、のんびりと、ライオンといっしょに歩き出す。――「うちまでは だいぶ あるくんだ。」ライオンと少女を見て、道ばたの人びとは立ちつくし、走るバスのなかの乗客も、おどろいて見ている。「みんなを おいこしちゃえ。」――少女はライオンの背にのり、走り出したライオンはバスを追いこそうとする。
「そこで まってて。」――少女は、保育園に立ちよって、小さな弟を受け取る。ライオンは、木の下で待っている。やがて、ライオンは、少女と弟をのせて、また走り出す。――「このへんは もう うちの きんじょだよ。」

雪と風のなかへ

『いっしょにかえろう』の少女は、買い物をして、夕ごはんも作る。ママが工場から帰ってくるまで、ライオンも、いっしょにいてくれる。
ウィリアム・スタイグの絵本『ゆうかんなアイリーン』のアイリーンも一生懸命だ。

「すてき!」
アイリーンが おもわず さけびました。おやしきのおくさまに たのまれた ドレスが、きれいに できあがったのです。
「でも、おかあさん げんきがない。どうしたの?」
「かぜ ひいたらしいの。こんやのパーティーに まにあうように おとどけしなくちゃ ならないのに」

アイリーンは、「わたしが とどけてあげる」といい、おかあさんに薬をのませて、ベッドに寝かせる。アイリーンは、赤いぼうしに赤いマフラー、コートを着て、ブーツをはいて、手袋もして、おかあさんのおでこに7回キスをして、ドレスを入れた箱をもって、雪のなかへと出ていく。
「風ったらあ、もっと やさしくふいてよ!」「まけるもんか」――アイリーンは、雪と風のなかを歩く。短い冬の日が暮れていく。彼女には、『いっしょにかえろう』のライオンのような、たのもしい道づれはいない。それでも、たどり着いたお屋敷では、奥様や大人たちが、あたたかくむかえてくれる。アイリーンは、お屋敷のパーティーにも混ぜてもらったのだ。

ライオンはつまらない

岸田衿子・中谷千代子の絵本『ジオジオの かんむり』のジオジオは、ライオンのなかでも一番強かったから、みんなにおそれられている。遠くでジオジオのかんむりが、ちかっと光っただけで、だれもが逃げ出す。でも……。

ほんとうは、ジオジオは つまらなかったのです。
きりんを おいかけるのも、しまうまをおいかけるのも、いやになって、ジオジオは みずの なかを のぞいて みました。
だれかと、ゆっくり はなして みたくなりました。
「おや、しらがが はえてきた。おや、めが よく みえなくなってきた」

「ジオジオの おうさま、つまらなそうですね。わたしも つまんないんです」と話しかけてきたのは、灰色の鳥だ。六つもあった、たまごが、みんな無くなったという。三つはヒョウが盗み、二つはヘビが呑んだ。あとの一つは、川に落ちた。
ジオジオがいう。――「そうかい、そりゃ つまらないだろうな。うむ……、あーっと、いいこと かんがえた。たまごを うみたいなら、いいところが あるぞ。(中略)ほーら、おれの あたまの うえの かんむりの なかなら、どうおもう?」鳥は、ジオジオの頭の上に巣を作り、たまごを生む。ジオジオは、鳥を頭にのせて、のっそりのっそり歩く。

今月ご紹介した本

『いっしょにかえろう』
文 ハイロ・ブイトラゴ、絵 ラファエル・ジョクテング、訳 宇野和美
岩崎書店、2018年
メキシコで刊行された絵本だ。2007年にメキシコで「風の川辺賞」を受賞。
ブイトラゴはコロンビア生まれ、ジョクテングはペルー生まれ。ふたりで作った絵本に『エロイーサと虫たち』(宇野和美訳、さ・え・ら書房、2011年)などがある。

『ゆうかんなアイリーン』
ウィリアム・スタイグ作、おがわえつこ訳
セーラー出版、1988年
版元のセーラー出版は、いまは、らんか社という名前になっている。この本は、現在、品切れ。図書館でさがしてください。

『ジオジオのかんむり』
岸田 衿子さく、中谷千代子え
福音館書店、1960年
同じ作者と画家のコンビで、あかね書房から、『ジオジオのたんじょうび』(1970年)、『ジオジオのパンやさん』(1975年)も刊行されている。世界中で一番好きなものがお菓子だったり、パンやさんを開いたり、年とったライオンのジオジオは、意外なふるまいをする。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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