ブックトーク

『わたしのすきなもの』

世代を超えて読み継ぎたい、心に届く選りすぐりの子どもの本をご紹介いたします。

好きなものを数えよう『わたしのすきなもの』

フランソワーズ・セニョーボ作/なかがわ ちひろ訳/偕成社/1,200円(本体価格)

 

 

 

 

 

 

 

わたし クリスマスが すき

プレゼントは なんだろう
じてんしゃ? ミニカー?
おにんぎょう?
クリスマスツリーも かざったよ

サンタの おじいさん
はやく きて

 

『わたしの すきなもの』を紹介していく絵本です。もちろん、「すきなもの」は、クリスマスやプレゼントだけではありません。

 

わたし いきものが すき

けの ふわふわした いきものも
はねの はえた いきものも
けも はねも ない いきものも
みんな だいすき

「おいしいもの」「ピクニック」または「なつやすみ」etc……。「すきなもの」は多岐にわたり、幼い女の子の素直な語りを聞いて(読んで)いくうちにすがすがしく心地好くなっていきます。好きなものがたくさんあることは、すなわち幸福に直結するから、という原則はもとより、ひとつずつ「すきなもの」を示し確認していく行為そのものに希望を感じるからです。語り手である彼女の世界が静かに膨らんでいくのを想像しながら、重ねられる日常の断片にいとおしさがあり、過ぎ去って行く時間はいつも大切だったと再認識させられます。

 フランソワ―ズ・セニョ―ボは、「岩波子どもの本」シリーズ『まりーちゃんとひつじ』の作者として、日本でも古くから親しまれています。こひつじの誕生を心待ちにするまりーちゃんが思い描く(生まれる予定の)こひつじの数は一匹ずつ増えていくのですが、そんな彼女と掛け合う母親ひつじのぱたぽんの応えとは一向にかみあいません。お互いに同じ調子で同じ言葉を何度も繰り返すやりとりには、のんびりとしたユーモアがただよいます。この本が日本で出版されたのは1956年。それから半世紀以上、おっとりとした明るさに満ちたこの本は、どれだけの子どもたちの心を誘い、温かく包みこんできたことでしょう。
 1897年に南フランスで生まれたフランソワ―ズは、大学を出たあと、パリの出版社で働きます。その数年後アメリカに渡り、“Jeanne-Marie(まりーちゃん)”シリーズをはじめとする数多くの絵本を創作しました。当時の女性としてはアクティブで先進的ともいえる経歴を知ると、その作風の屈託の無い長閑(のどか)さは、作家の生地であったのだなぁと新たな興味も引かれます。大都会ニューヨークで、故郷の南仏を思い出しながら、創作に励んでいたのかもしれません。

 この作家の手にかかれば、私たちの周囲はなんと寛容でチャーミングなことでしょう。単純な線で柔らかく描かれた輪郭も、中間色で塗られた可憐な生きものたちも、生まれたてのような初々しい愛らしさに満ちています。そのひとつひとつが、この作家にしか創りだせない無敵のオリジナリティーです。50年以上も前に創られた作品とはとても思えない新しさ。彼女の絵本が古びないのは、人間と人間をとりまく自然、楽しませてくれる事柄や行事の数々を、取り繕わない素直な視点で賞賛しているからに他なりません。
 「すきなこと」を積み上げていく喜びは、心身を丈夫にし、現実の歪みを矯正する手立てにさえなるはずです。大人の私たちにとっては、ひととき浮世のストレスを忘れ、こびりついた(心の)贅肉を削ぎ落してくれる効能もあるかもしれません。幼い人たちとぜひ声に出して読んで頂きたい一冊です。

 

ほらね
わたし すきなものが
こんなに いっぱい あるの

あなたの すきなものは なあに?

プロフィール

吉田 真澄 (よしだ ますみ)

長年、東京の国語教室で講師として勤務。現在はフリー。読書指導を行いながら、読む本の質と国語力の関係を追究。児童書評を連載するなどの執筆活動に加え、子どもと本に関する講演会なども行う。著書に『子どもファンタジー作家になる! ファンタジーはこうつくる』(合同出版)など。

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