小田先生のさんすうお悩み相談室(3~6年生)

応用問題の取り組み方

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどくかつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

 こんにちは、もうすぐ誕生日を迎える小田です。この年になると、誕生日を迎えてもとくに何かが変わるということはありませんが、また新しい一年の中で、何かいいことがいろいろあればいいな、とは思ったりもします。
 さて、初めましての方は初めまして。昨年度から引き続きの方はいつもありがとうございます。このコーナーは、読者の皆さまからお子さまの算数の学習に関する“お悩み”を募集し、それに答えていく、というコーナーです。お子さまの算数の学習を見守る中で、いろいろと困っていらっしゃる方も多いと思いますので、そういった方々のお役に立てればいいな、と思います。
 それでは早速行ってみましょう。

お悩み13:応用問題の取り組み方

 たとえば「100から200までのなかに、4の倍数は何個あるか。4の倍数でもあり9の倍数でもある数は何個あるか」というような、習ったことを応用して考えれば解ける問題でも、解き方がわからないと粘り強く考えずに「知らない、できない」と放り投げてしまいます。初めて見る問題にも試行錯誤してほしい気持ちはありますが、そういう気持ちがわかない場合は、答えを見て「考え方」をたくさん覚えていくやり方でもよいものでしょうか。

(小学6年生・保護者)

さんすう力UPのポイント

子どもが“解けない”問題に出あったとき

 子どもが難しい問題に出あったとき、「粘り強く取り組み、一生懸命考えて、正解にたどりつく」という姿が、親御さんの思い描く理想でしょう。しかし実際には、そういった場面はめったに見られるものではありません。多くの場合、今回のお悩みにもあるように「途中で諦めてしまう」ということになってしまうでしょう。そういった様子を何度も見てしまうと、親御さんとしては「もっと“考えて”ほしいのに」ともやもやしたり、とか「うちの子は“考える”力が足りていないようだけど、大丈夫なのだろうか」と心配になったりしてしまいますね。そうやって不安になる気持ちはわからないわけではないですが、ただここで、冷静になって一度考えてほしいことがあります。それは、「本当にその問題は“考え”れば解けるのか」ということです。

 大人(というより、解ける人)が「考えれば解ける」と思っている問題のほとんどは、子ども(というより、解けない人)にとっては「考えても解けない」問題です。たとえば、最難関と言われる灘中入試の問題や、もっと月並みな例としては東京大学の入試問題などを見せられて、「この問題も考えれば解けるはず」と言われたら、納得しますか。いやいや、それは無理でしょう、と思いませんか。しかし、実際には灘中入試や東大入試であっても、ほとんどは「習ったことをうまく応用すれば解ける」ように作られています。だから解けるはず、と言われたら、どう思いますか。やはり納得はできませんよね。それが現実的な感覚であり、そしてそれは「問題を解けない」子どもたちも感じていることなのです。

 子どもは子どもなりに、いろんなことを考えています。それでも「考えても解けない」ことはたくさんあるのです。そんなとき、「考えれば解けるはず」と周りが思ってしまうと、子どもは「自分には考える力がない」と思い込んでしまい、算数への苦手意識だけ募らせてしまうでしょう。子どもが“解けない”問題に困っているときにまず大事なことは、周りの大人が「考えればわかるはず」という視点を捨てることです。そして、子どもが子どもなりに考えていることを信頼し、それでも難しさを感じていることに対して、「難しいね」と共感してあげることが、実は「難しい問題に立ち向かえる」ようになるための第一歩なのです。

考えれば解ける問題と解けない問題の違い

 さて、そうは言っても、難しい入試問題は無理でも、学校で出される問題くらい“考え”れば解けるのでは、と思う人もいるかもしれません。そこまで思わなくても、難しい問題の中には「考えても解けない問題」ばかりではなく、少しくらいは「考えれば解ける問題」もあるのでは、というのは自然な感想です。もちろん、すべての応用問題が「考えても解けない問題」ではないでしょう。それでは、「考えれば解ける問題」とそうではない問題は、どこが違うのでしょうか。

 その基準は、問題そのものにあるのではなく、問題を解く人が「その問題を解くために理解していなければならないことが、きちんと理解できているか」で決まります。たとえば、“お悩み”で挙げられた問題を分析してみましょう。

100から200までのなかに、
(1)4の倍数は何個あるか。
(2)4の倍数でもあり9の倍数でもある数は何個あるか。

 (1)の問題は、たとえばそれ以前に「1~100までに4の倍数は何個あるか」のような問題を習っていることを想定しているはずです。その問題の解き方としては、「100÷4=25」と習うのでしょう。しかし、この「解き方」を“知っている”だけでは、(1)の問題を解くことはできません。200÷4をしても、100÷4をしても“正解”にはならないからです。「なぜ÷4をするのか」「÷4をすることで何がわかるのか」を理解していないと、それを「応用」することはできないのです。

 「なぜ÷4をするのか」という背景には、まず「倍数」の定義があります。倍数とは「4×□(□は整数)と表せる数」です。その定義を理解していれば、「1~100までの中には、4×1~4×25まで入る」とわかります(この「25」を求めるために、「100÷4」をするわけですね)。同じように考えれば「100~200までの中には、4×25~4×50まで入る」とわかるでしょう。

 また「□÷4をすることで、“1~□までの”4の倍数の個数が分かる」と理解していれば、「1~200までの4の倍数の個数は200÷4=50個。1~99までの4の倍数の個数は99÷4=24余り3、つまり24個だから、100~200までのなかにある4の倍数は50-24=26個」と考えることもできます。(ただ、この解き方をする場合は、「多めに数えておいて、あとでいらないものを引く」という別のアイディアが必要になるので、そういったアイディアを使ったことがない子が初見で思いつくのはなかなか難しい部分もあります。)

 (2)の問題は、まず「4の倍数でもあり9の倍数でもある数」が「4と9の公倍数」であることを理解しておく必要があるでしょう。さらに言えば、「4と9の公倍数」は「4と9の最小公倍数(36)の倍数」であることも理解しておかなければなりません。そこまで理解できていれば、あとは(1)と同じ「100から200までに36の倍数は何個あるか」という問題になるわけですが、その“そこまで”は実際には高いハードルです。もちろん、そういったことも一通り“習って”はいるでしょう。しかし、問題で使えるほど深く理解し、“身について”いるかどうか、というのは、また別の話なのです。

 知識や方法を習うことと、それらを自分のものにするくらい深く理解することとの間には、とても大きなギャップがあります。いわゆる「応用問題」には、その「習ったこと」をどれだけ深く理解しているか、を測る道具としての側面があるでしょう。しかし、逆に言えば、理解が深まっていない状態で無理に取り組んだところで、解けるものではないのです。応用問題で行き詰ったときには、まず、習ったことに立ち返り、もっと理解を深めていくことが大事です。

試行錯誤も万能な手段ではない

 問題を解くために必要な“理解”が足りていなくても、正解にたどりつくことができないわけではありません。そのための方法が“やってみる”、すなわち、“試行錯誤する”ということですが、これも万能な手段ではない、ということには気をつける必要があるでしょう。試行錯誤するためには、まず具体的に「何をやってみるか」がわかっていなければならないからです。そしてその「やってみること」は、実際に実行に移せるものでなければなりません。今回の問題で有効な方法としては、「4の倍数を実際に書きだしていく」というものがあるでしょう。(2)では「4と9の倍数をそれぞれ書いていく」という方法があります。全部書いてしまえば、正解にひねり出すことはできますね。

 もちろん、テスト中ならばいざ知らず、それ以外の普段の学習の場面では、とにかく答えを出して終わり、というわけにはいきません。やはり大事なことは理解を深めることで、“やってみる”にしても、その過程の中で理解を深めていこうという意識は、持っておいた方がいいでしょう。

「勉強」の本質とは

 問題を解くために必要な理解が足りておらず、試行錯誤する方法もいまいち見えてこないとき、「答えを見る」というのも一つの大事な手段です。「答えを見る」ことは、なぜだか“悪いこと”のような印象があるようですが、ここでもう一度考えてほしいのは、そもそも「勉強する」とは何なのか、ということです。授業を聞くことが「勉強」なのでしょうか。宿題をすることが「勉強」なのでしょうか。問題集を解き進めることが「勉強」なのでしょうか。

 「勉強」とは本来、「新しいことを身につける」ということのはずです。授業を受けたり宿題をしたり、問題集を解き進めたり、というのは、あくまでそのための手段のひとつであって、それそのものが「勉強」なわけではありません。問題を解いても、新しいことが身につかなければ「勉強」したうちに入りませんし、逆に解けなかったとしても何か新しいことが身につけば、それは十分「勉強」したことになるのです。

 解けない問題があったとき、答えを見て、そこから自分に足りなかったアイディアを得たり、理解を深めたりできれば、それは立派な「勉強」です。もちろん、答えを見て、解き方を確認して、「わかったわかった」と軽く流してしまうと、新しいものはなかなか身につかないでしょう。答えを見たあとに、自分には何が足りなかったのか、アイディアなのか理解なのか技術なのか、そういったところをしっかり分析する必要はあります。しかし、そういったことをきちんと積み重ねていくのであれば、「答えを見る」こともやはり大事な「勉強」の一環なのです。

 いずれにしても、難しい問題に対して無理に「考える」ことにこだわるのは、あまりいいことではありません。大事なことは、何ができていて何ができていないかを分析し、できていないことをできるようにする、ということです。お子さまが“難しい問題”に困っているときは、ぜひそういった「勉強」の本質を、再度確認してあげてください。


  いかがでしょうか。

 そんなこんなで、いよいよ新年度がスタートしますね。さらに言えば、もうすぐ元号も新しくなるということで、わたし自身もいろいろと新しい事に挑戦できたらいいな、と思っています。わたしには「数学博物館」を作る、という夢があるのですが、そちらも何かしら進められたらいいですよね。ちなみに、先日行った確定申告の結果、昨年度の本代・資料代は前年比の1.5倍以上になっていました。そのおかげで収入自体は減ってしまったわけですが、それはそれ、夢の「博物館(+図書館)」に一歩近づいた、ということで。今年度も頑張りたいと思います。

 ついでに宣伝で恐縮ですが、以前からご好評いただいていた『東大脳さんすうドリル』、このたび『東大脳さんすうドリル 計算編』としてリニューアルいたしました! さまざまな迷路やパズルを解きながら、数と仲良くなり、数や計算に対するセンスをみがいていく、というドリルですので、興味のある方はぜひよろしくお願いいたします。

 それではまた来月!

保護者の皆さまから算数のお悩みを募集します!

お子さまの算数の学習に関して、悩んでいることやお困りのことはありませんか。もしございましたら投稿フォームからお送りください。どのような内容でも大歓迎です!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

主な著書

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