親と子の本棚

空を見上げて

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

古いアルバム

『そらは あおくて』より

シャーロット・ゾロトウの絵本『そらは あおくて』のとびらには、女の子が古いアルバムを広げている絵が描かれている。女の子は、おかあさんにたずねる。――「このこ、おかあさんなの?」おかあさんは、「そうよ。おかあさんが、いまの あなたと おなじころ」とこたえる。
アルバムには、小さかったおかあさんが人形であそんでいる写真や、おかあさんのおかあさんと店で買い物をしている写真がある。住んでいた家のようすもわかる。女の子は、「ふうん。へんな ふく」といったり、「おかあさんが こどものころって、いまと なんだか ちがうのね」といったりする。ところが、おかあさんはいう。

「そんなこと ないわ。
たいせつなことは すこしも かわっていない。
そらは あおくて、くさは みどり。
ゆきは しろくて つめたくて、おひさまは まぶしく あたたかい。
いまと おんなじだったのよ」

おかあさんは、「ねるまえには、おかあさんの おかあさんが あかりを けしに きてくれた。おやすみ、って だきしめてもらったわ」「ほら、いまの あなたと いっしょでしょう」ともいう。
女の子は、つぎのアルバムを開く。おかあさんのおかあさん、つまり、おばあちゃんの子どものころの写真だ。おかあさんの写真はカラーだったけれど、おばあちゃんの写真はモノクロだ。女の子は、「おばあちゃんが こどものころって いまと ずいぶん ちがうのね」という。それでも、おかあさんはいう。――「そんなこと ないわ。そらは やっぱり あおくて、くさは みどり。ゆきは しろくて つめたくて、おひさまは まぶしく あたたかい。いまと おんなじだったのよ」
女の子は、また、つぎのアルバムを開く。おばあちゃんのおかあさん、つまり、ひいおばあちゃんの写真だ。

見上げるまなざし

女の子のおかあさんは、「たいせつなことは すこしも かわっていない。そらは あおくて、くさは みどり。……いまと おんなじだったのよ」というけれど、おばあちゃんやひいおばあちゃんの時代には戦争だって起こり、たいへんな経験をしたかもしれない。しかし、それは、あくまで地上のことで、空を見上げれば、やはり、大切なことは一つもかわっていないのだろうか。
石井桃子・清水崑の絵本『ふしぎなたいこ』には、空を見上げるまなざしが描かれている。
話の主人公は、げんごろうさん。げんごろうさんは、ふしぎなたいこをもっている。たいこの片方をたたいて、「はな たかくなれ、はな たかくなれ」というと鼻が高くなる。たいこの反対側をたたいて、「はな ひくくなれ、はな ひくくなれ」といえば、ひくくなる。げんごろうさんは、そのたいこで、よその人の鼻を高くしたり、ひくくしたりして、よろこばれていた。ある日、げんごろうさんは、ためしてみたくなった。人間の鼻は、どれくらいのびるものか。
天気のよい日で、げんごろうさんは、野原に出かけた。「おれの はな たかくなれ、おれの はな たかくなれ」といって、どんどこどんどこ、たいこをたたく。どんどこ、どんどこ。げんごろうさんの鼻は、手の長さくらいになり、天秤棒くらいになり、電信柱の長さくらいになる。鼻が重くなって、たおれそうになったから、げんごろうさんは、野原に横になって、空を見上げる。どんどこ、どんどこ。鼻は、にょきにょきのびて、木よりも山よりも高くなって、やがて、白い雲のなかに入っていく。

星の役目

夜になれば、空には星がまたたく。

天の川の西の岸にすぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます。あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでいる小さな水精のお宮です。
このすきとおる二つのお宮は、まっすぐに向かい合っています。夜は二人とも、きっとお宮に帰って、きちんと座り、空の星めぐりの歌に合わせて、一晩銀笛を吹くのです。それがこの双子のお星様の役目でした。

宮沢賢治「双子の星」の書き出しだ。童子たちは、たたかって傷ついた大ガラスとサソリを助けたり、乱暴者のほうき星につきあって、星空の旅にでたところ、ほうき星のしっぽに振り落とされて、海に落ちたりする。海の底で出会ったヒトデは、もとは、空の星だったという。

今月ご紹介した本

『そらは あおくて』
シャーロット・ゾロトウ/文、なかがわ ちひろ/訳、杉浦 さやか/絵
あすなろ書房、2018年
シャーロット・ゾロトウ(1915~2013年)は、アメリカの児童文学作家、詩人。『そらは あおくて』の原本は、1963年に刊行され、絵は、絵本『しろいうさぎとくろいうさぎ』(1958年)などで知られる画家、ガース・ウィリアムスが描いた。日本版は、杉浦さやかが新しく絵を描いている。

岩波の子どもの本『ふしぎなたいこ』
ぶん 石井桃子、え 清水 崑
岩波書店、1953年
げんごろうさんが野原にねころんで鼻をどんどこ長くしているとき、天国では、大工さんが天の川に橋をかけていた。大工さんの手もとに鼻がにょきにょきのびてきたものだから、鼻を棒とまちがえて、橋のらんかんに、しっかりしばりつけてしまう。
この1冊は、日本の昔話の本で、「かえるのえんそく」「にげたにおうさん」の二話も収録されている。

『双子の星』
宮沢 賢治・作、遠山 繁年・絵
偕成社、1987年
宮沢賢治の童話のなかでも、もっとも早く、1918年の夏に書かれ、妹や弟に読み聞かせたといわれている。今回は、遠山繁年の絵の絵本で紹介する。
双子の星とは、双子座のことではなく、さそり座の毒針の位置にある二つの星のこと。
「双子の星」の話は、のちに、「銀河鉄道の夜」にも生かされることになる。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。武蔵野大学文学部教授をへて、現在、大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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