子どもと楽しむ料理の科学

浸透圧で春キャベツをおいしく!

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

コールスローサラダを作るとき、キャベツに塩をふる理由

 酢のものやコールスローサラダを作るとき、切った野菜に塩をふってもんでおくのはなぜでしょうか? そうですね、水分を出すためです。では、なぜ水分を出す必要があるのでしょうか? また、野菜に塩をふると水分が出てくるのはなぜでしょうか?
 今回は、野菜の塩もみについて、科学の視点から解説していこうと思います。味をつけるだけではない、塩の役割や効果について押さえておくと、日々の料理がワンランクアップしますよ。

水が出るのは「浸透圧」がはたらくから

 切った野菜に塩をふると水がしみ出してくるのには、「浸透圧」という力と、生き物の体を構成している細胞の性質が関係しています。
 植物も動物も、生き物の体はたくさんの細胞によって形作られています。細胞は、様々な成分が溶け込んだ水分と、生きるために必要なパーツを閉じ込めた水風船のようなもので、この外側を包み込んでいる風船部分を「細胞膜」といいます。この細胞膜は「水は通すが、水に溶けているものは通さない」という性質があるため、例えば細胞を食塩水に浸した場合、水は細胞膜を通り抜けることができますが、そこに溶けている食塩は膜を通って細胞の中に入ることができません。

 このような膜では、膜の内側と外側とで溶けている成分の濃度が異なる場合、薄い方から濃い方へと水が移動し、両方の濃さを揃えようとする力がはたらきます。この力のことを「浸透圧」といいます。
 細胞の浸透圧が0.85%の食塩水とほぼ等しい場合、これよりも濃度の低い水、たとえば水道水に野菜を浸しておくと、水が細胞内に吸収されパンパンに膨れるのでハリが生まれ、みずみずしい状態になります。サラダ用のレタスなどを切った後、しばらく水にひたしておくと見た目や食感がよくなるのはこのためです(※細胞の浸透圧は生物種によって異なります)。

 一方、野菜に塩をふると、表面についた水分に塩が溶け濃い塩水ができます。これにより野菜の外側の塩分濃度が高くなるため、これを調整しようと浸透圧がはたらき、野菜の内側から外側へと水分がしみ出してきます。したがって、切った野菜にそのまま調味料を加えたり、ドレッシングをかけてしばらく放置したりすると、浸透圧によって水分が出てきてびちゃびちゃになり、見た目が悪くなったり、和え衣が薄まって味が悪くなったりします。
 サラダのドレッシングはなるべく食べる直前にかけ、酢の物やコールスローサラダのように、生野菜に調味料を加えてなじませる料理では、あらかじめ野菜を塩もみして水分を出してから和えるようにすると、見た目も味も良い状態で食べられます。

コールスローサラダを作るとき、キャベツに塩をふるのは……

浸透圧の差を利用してあらかじめキャベツの水分を出しておくことで、味つけのときに水分が出てびちゃびちゃになったり、味が薄まったりするのを防ぐため!

 水分の出入りによる変化には細胞膜以外の部分も関係しています。植物では、細胞膜の外側にさらに「細胞壁」という硬い壁があります。水風船(細胞)を紙の箱(細胞壁)の中にぴったりと詰めて、それをきっちりと積み上げている様子を想像していただくと良いでしょう。細胞内に水分が多いと水風船が膨らんで、箱を内側から圧迫するので、野菜にハリが出てシャキッとします。逆に水分が抜けると、箱を押す力がなくなるため野菜はしんなりとしぼんでやわらかい状態になります。

 野菜から水分が出てしんなりするのは悪いことばかりではありません。かさが減ってたくさん食べられるようになりますし、箱と風船の間に隙間ができ、そこに調味料がしみこんで味がなじみやすくなるという効果もあります。
 塩もみをする際の塩分は、野菜の重さの1〜2%程度が目安です。100gの野菜に対して1〜2g(ひとつまみ〜小さじ1/3程度)、300gの野菜に対して3〜6g(小さじ1/2〜1程度)を加えて混ぜ合わせましょう。最初の数分で急速に水分が出て、そのあとはそれほど変化がないので、5分程度置けば十分です。

作り方/レシピ

コールスローサラダ

材料(4人分)
キャベツ …… 5〜6枚(200g)
黄パプリカ 1/2個
ハム 4枚
塩 …… 小さじ2/3 
*マヨネーズ …… 大さじ2
*砂糖 …… 小さじ1/2
*お酢 …… 小さじ1.5

 

1.材料を切る

キャベツを3mm幅程度の千切りにします。黄パプリカは種を取って、薄切りにします。
ハムは半分に切って、4mm幅程度の短冊状に切ります。

2.塩もみする

ボウルにキャベツと黄パプリカを入れて塩を振り、軽くもんだら、5分ほど置いておきましょう。

絞るとこんなに水分が!

3.和える

野菜をしっかりと絞って出てきた水分を捨て、ハムと*の調味料を加えて和え合わせます。

プラス知識! 浸透圧について

 塩をふると細胞内から水分が出てくるのは野菜だけではありません。肉や魚も、同様に細胞が集まってできています(動物の場合、細胞壁はありません)。魚料理のレシピにはしばしば「塩をふってしばらく置き、出てきた水分を拭き取る」という下ごしらえの手順が入りますが、これも浸透圧が関係しています。
 また、塩以外にも砂糖やお酢でも浸透圧がはたらくため、ジャムを作るときに果物と砂糖を一緒に鍋に入れてしばらくおいて置くと、果物から水分が出てきて、水を加えずに煮ることができます。
 なお、生の野菜に塩を振ると、水分が出ますが、加熱済みの野菜に塩を振っても水分は出てきません。これは、加熱によって細胞膜が壊れ、塩分が自由に行き来できるようになるためです。したがって、ゆでたり蒸したりした野菜の場合は、塩もみをせず、そのまま調味料をかけても水分が出てベチャベチャになったり、しおれてしまったりすることはありません。興味がある方は、生のにんじんと茹でにんじんにそれぞれ塩を振って変化を比べてみると良いでしょう。
 煮物のように、野菜を加熱して調味料にひたしておくと、中まで味がしみるのも、細胞の膜が壊れて、調味料の成分が自由に出入りできるようになるためなのです。

4/25(木)更新の次回では「お弁当に鶏の照り焼きがピッタリな理由」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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