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絵本作家 宮西達也さん(1)

『おまえうまそうだな』(ポプラ社)、『ちゅーちゅー』(鈴木出版)、『おかあさんだいすきだよ』(金の星社)、『シニガミさん』(えほんの杜)など、心温まる作品を多数生み出していらっしゃる宮西達也さん。「想像力をかきたてるから、絵本は楽しい」と話す宮西さんの、絵本に込めた思いやご自身の子育てのポリシー、今を生きる子どもたちや保護者の方へのメッセージなどをうかがいました。
(取材・文=浅田 夕香)

わたしの原動力

「絵を描く仕事に就きたい」「絵本を作りたい」
「地元に恩返しをする場をつくりたい」……。
抱いてきたたくさんの「夢」への情熱が原動力です。

絵本との出合いは、大学時代のアルバイト

――宮西さんは、どのような経緯で絵本作家を目指されたのですか?

幼いころから絵を描くのが好きで、小学校高学年ごろから、絵を描く仕事につきたいと思っていました。それで、高校生のときに「美術の大学に入りたい」と思い、学校の先生からアドバイスを受けて美術研究所にデッサンを習いに行きました。

で、無事に大学に入学したあと、いろんなアルバイトをしたんですが、そのうちの一つが、NHKの人形劇などを作っていた会社でした(人形企画岡崎事務所)。そこで、人形を作ったり、人形劇の背景の絵を描いたりしていたところ、大学2年生のとき、ある出版社から事務所あてに絵本の制作依頼が来たんです。

絵本の絵はアートディレクターの方が描かれたんですが、アシスタントとしてぼくが色をすべて塗らせてもらって。このときに「こんなにたくさんのページに絵が描けるなんて、絵本っていいな」と思ったのが絵本との出合いです。

 

――大学卒業後はグラフィックデザイナーの仕事に就かれました。その後どのようにして絵本作家に?

デザインの仕事は楽しかったけど、やっぱり「絵を描く仕事に就きたい」と思い、26歳のときに会社を辞めたんです。アルバイトをしながらイラストカットを描いて広告代理店に持ち込んでいたんですが、そのときに、大学時代に絵本を描いたことを思い出して。独学で1冊描いて、出版社への持ち込みを始めました。

――出版社の反応はいかがでしたか?

もう、かなりひどく言われましたよ。「こんなものなんだ!」とか「基本がなってない!」とか。原画を持って新宿の街で泣いたこともあります。でも、持ち込みを続けて1年くらい経ったところで、フレーベル館の編集者の方が「おもしろいかもしれないから、絵本にしようか」と言ってくれたんです。もう絶版になりましたが、『あるひおねえちゃんは』(1983年)という作品です。

――書店に並んだときのお気持ちはいかがでしたか?

見に行きましたよ、住んでいた池袋の本屋さんに。子どもや大人が手にとって、ニコニコしながら見ていたり、「はぁ〜〜」と感動した声をもらしたりするのを見て、「本っていいな。人のことを笑わせたり、感動させたり、びっくりさせたりできる」と思いました。そのときです、イラストレーターじゃなくて絵本作家をやろうと決めたのは。

それから、2冊目、3冊目、4冊目、5冊目と、全部持ち込みです。でも、全然売れなくて。

みやにし たつや 作・絵/鈴木出版/本体価格1,200円(税別)

――10年間くらいはご苦労された時期があったとか。どこで転機が訪れたのでしょうか?

『おっぱい』(鈴木出版、1990年)です。『おっぱい』がぼくを救ってくれました。絵本研究家の故・高山智津子先生が日本全国での講演会で「『おっぱい』はいい本だよ」と言ってくださって。すると売れて、うちの食卓が少しにぎやかになりました。

ほかにも、静岡県出身の絵本作家・清水達也先生にもお世話になりました。ごあいさつのために手紙を書いてぼくの本を送って以来、ぼくが本を出すたびに静岡新聞に書評を書いてくださっています。

初めての講演のお誘いも清水先生からでした。そうやって、先生方が盛り上げてくださって、だんだん売れるようになってきました。

「やさしさと思いやり」をテーマに、すべての作品を描く

――宮西さんの絵本には、ホロリとさせられる作品が多いように思います。絵本を通してどんなことを伝えたいと考えていらっしゃいますか? 

ぼくは、絵本を読む子どもたちを意識して作品を描いたことは一度もないんですよ。自分が幼いころに感動したことやうれしかったこと、大人になってニュースを見て「これってひどいな」とか「なんでこんなことするんだろう」と感じたことを、絵本を通して描いています。絵日記のようなものですね。ほかにも、お母さんに向けて伝えたいことを込めたり、お父さんへの応援歌として作ったり。

ただ、一つ大事にしているのは、どの作品も必ず「やさしさと思いやり」というテーマで描くこと。売れるためなら何でも描くというのではなく、このテーマありきで描きます。じゃないと、自分があとから読んだときに「なんだ? この本」とがっかりしてしまいますからね。

取材を行った宮西さんのギャラリー(TATSU’S GALLERY/静岡県三島市)にあるウマソウのオブジェ

――『おまえうまそうだな』などの、「ティラノサウルス」シリーズにもやさしさや思いやりが感じられますね。

そうですね。「ティラノサウルス」シリーズは、恐竜で愛を描こう、と。兄弟の愛とか夫婦の愛とか、友情とか……で、今のところ15冊です。

ご覧になってわかるとおり、山と星と川と恐竜しか出てこないし、恐竜同士が闘う場面もあまり出さないし、別の恐竜を食べる場面も作っていない。劇的なことがなんにもないなか作るのは、本当に難しいです。

でも、そういう縛りがありながらも、人を感動させたり、笑わせたり、想像力をかきたてたりする絵本がすごい絵本だとぼくは思ってるので、がんばっています。たとえば、絵は闘っていないんだけど、読んだ人は「あ、これ闘ってる」と想像できるような描き方をするとか。

アニメーションは動くけれど、絵本の絵は動きません。だからこそ、読んだ人一人ひとりが、ティラノの歩き方や吠え方を想像する。その想像力が、読む人の感性を豊かにしてくれるんですよね。感性が豊かになるというのは、想像するからこそだと思うんですよ。

ただ、読者の方は作り手の思いまで考えなくていいとぼくは思っているんですよ。さきほど、ぼくは「やさしさと思いやり」をテーマに描いていると言ったけれど、だからといって、ぼくの作品を読んだ方が皆、「これは、やさしさが描かれてるんだ」「思いやりが描かれてるんだ」などと思わなくていいです。ただ最後に、「はぁ〜〜、すてきだったなぁ」って思ってもらえれば。

⇒次のページに続く 宮西さんの子育てと、これからの夢に迫ります!

プロフィール

絵本作家

宮西 達也 さん (Tatsuya Miyanishi)

1956年、静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。グラフィックデザイナーを経て絵本作家に。作品に、『きょうはなんてうんがいいんだろう』(鈴木出版、講談社出版文化賞絵本賞)、『ふしぎなキャンディーやさん』(金の星社、日本絵本賞読者賞)、「おとうさんはウルトラマン」シリーズなど多数。『おまえうまそうだな』をはじめとする「ティラノサウルス」シリーズ(ポプラ社)は2018年で15周年を迎え、2度にわたり映画化された。4男2女の父。

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