ブックトーク

『へびのクリクター』

世代を超えて読み継ぎたい、心に届く選りすぐりの子どもの本をご紹介いたします。

ナンセンスがおもしろい『へびのクリクター』

トミー・ウンゲラー作/中野完二訳/文化出版局/本体価格1,000円(税別)

 以前動物園で、この物語の主人公クリクタ―と同種のへび「ボア・コンストリクター」の実物を見て、昔馴染みに再会したような親しみを覚えました。どちらかといえば、へびには好意を持てない私でも、薄暗い湿った室内でわだかまるほかのへびたちに比べれば、「ボア・コンストリクター」とはいくぶん心安く向き合えそうです。この絵本の効果は、大人の私にとっても覿面(てきめん)だったのでしょう。

 フランスのある小さな町に住むボドおばさんの家に、ドーナツ型の大きな箱が届けられます。送り主は、ブラジルで爬虫類を研究しているおばさんのひとりむすこ。箱をあけたボドおばさんは悲鳴をあげて身を反らせます。中に納まっていたのは、ボドさんの誕生祝いにむすこが送ってくれたへび。毒の無い「ボア・コンストリクタ―」という大蛇の仲間だということをすぐさま確認したボドさんは、そのへびを「クリクタ―」と名付け、安心してかわいがります。

ボドさんは、やしのきを なんぼんも かいました。
へびの うまれこきょうの かんじを だそう という わけでした。
クリクタ―は よろこんで、いぬの ように しっぽを ふりました。

 トミー・ウンゲラ―の絵本は子どもたちに人気がありますが、そのなかで、この作品は最も軽やかで、安全な・ ・ ・ユーモアに護られた一冊だといえるかもしれません。作品年表を確かめると、初期作のようです。ほかのウンゲラ―の絵本に比べると、余白が大きく、色数も抑えてありますが、そのぶん、ファンタジーらしい楽観的な雰囲気が強まっているのもおもしろいところです。この作品を発表した1958年以降、60年代に入ると、ヒールとして登場してもおかしくない動物や異形のものたち(人食い鬼やコウモリ、月からやってきた男など)を主人公に、アイロニーを効かせた変わり種を次々と創作したウンゲラ―。子どもたちからの絶大な支持を背景に、1998年、国際アンデルセン賞画家賞を受賞しています。

 人間社会を揶揄(やゆ)する、ちょっぴりグロテスクなお話もあるなか、『へびのクリクタ―』は、基軸となる健全なストーリーから、くすりと笑える上等なナンセンスが沁みだす作品となっています。なにしろ、クリクタ―は大捕物の後、その功績を称えられ銅像にまでなってしまうのですから。そして、「まちじゅうから あいされ、そんけいされて、クリクタ―は ながく しあわせに くらしました。」と物語は、あっさりと、しかし和やかに閉じられます。

 郵送されてきたへび、その寝床として用意された細長いベッド、へびを抱いて哺乳瓶でミルクを飲ませるおばあさんなど、論理的には決してまちがいでないけれど実現は難しそうないろいろ。そして、送られてきたへびに毒がないかどうか動物園へ出向いてちゃんと調べたり、定規をつかってきっちりへびの寸法を測ったりといった細かいリアル。その巧みなとり合わせが、整理された画面に、のどかにおさまっています。若草色に赤を効かせた表紙も洒落た一冊です。

プロフィール

吉田 真澄 (よしだ ますみ)

長年、東京の国語教室で講師として勤務。現在はフリー。読書指導を行いながら、読む本の質と国語力の関係を追究。児童書評を連載するなどの執筆活動に加え、子どもと本に関する講演会なども行う。著書に『子どもファンタジー作家になる! ファンタジーはこうつくる』(合同出版)など。

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