小田先生のさんすうお悩み相談室(3~6年生)

新しい世界と出会うとき

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどくかつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

 こんにちは、餃子が好きな小田です。餃子と数学には少し似ているところがあるような気もしています。数学の公式は、決まった形に様々な値を入れていきますよね。そして、いろいろな値を入れても正しく成り立つ、というのが「公式」の魅力です。一方、餃子も、皮で包むという形にいろいろな餡を入れていくことができます。様々な餡を入れてもやはり餃子は餃子、ということで、そのあたり少し似ているかな、と思ったりするのですが、いかがでしょうか。
 さて、今回のお悩みは“正しい理解”についてです。算数の学習を進めていくと、「できていたはずのことができなくなる」場面がよくあります。その様子を傍で見ていると、学習が後退したように見えて、不安になりますよね。しかし、それは心配する必要はない、というよりむしろ、それは学習を進めるうえで重要なステップですよ、というのが今回のお話です。
 それでは早速行ってみましょう。

お悩み14:新しい世界と出会うとき

 娘は、以前から10の構成、構造が理解できているようで、計算ミスがありませんでした。しかしここ最近、分数の足し算、引き算、かけ算、割り算をする際、-9の計算で一の位の数に+1するときに-1をしてしまう、計算まちがいをよくします。四則計算が一度に現れると、子どもの頭は混乱するのでしょうか? それとも、-9の誤った考え方の癖がついてしまったのでしょうか? -9の計算の時に、娘本人が気をつけるようにすると、以前のように、きちんと-9の計算ができるようになるでしょうか?

(小学3年生・保護者)

さんすう力UPのポイント

算数の学習は「限定された世界での特殊な理解」から始まる

 冒頭でもお伝えしたように、算数の学習を進めていくと、「できていたはずのことができなくなる」ように見える場面としばしば出くわします。お子さまがそういった状況に陥っているのを見てしまうと、「何か今までの学習がまちがっていたのではないか」と心配になってしまうでしょう。しかし、ここでご理解いただきたいことがひとつあります。それは、「算数の学習を進めるうえで、最初から“正しく理解する”というのは不可能である」ということです。
 そもそも、算数に「正しい理解」というのは存在するのでしょうか。たとえば、「3の次の数は4である」について考えてみてください。この理解は、一見すると“正しい”ように見えますね。しかし、分数や小数まで考えれば、「3と4の間にも別の数がある」ということになり、「3の“次”の数は別に4ではない」ということになってしまいます(そもそも「次の数」を考えることが難しいですよね)。
 さて、この「3の次は4である」というのは、「正しい理解」なのでしょうか、それとも「まちがった理解」なのでしょうか。実際のところ、とくに分数・小数の世界に進んだとき、「3の次の数が4である」という認識は、分数・小数の理解の妨げになることが多いです。しかし、だからと言って、それを「まちがった理解」としてしまうのはどうでしょうか。実際に整数だけを考えるのであれば、「3の次は4」であり、むしろその認識が必要な場面も多くあります。
 結論を言えば、「3の次は4」というのは正しい・まちがっていると考えるのではなく、「限定された世界での特殊な理解」と捉えるのがよいでしょう。整数の世界では成り立つけれども、分数・小数の世界では成り立たないものだ、ということを受け入れられるようになれば、先に進んでいくことができるようになるはずです。
 「先に進むと正しくない理解」であっても、「限定された世界の中では重要な理解」というのはほかにもたくさんあります。だからこそ、重要になるのは「“先に進んだときにも正しい理解”を最初からしようとすること」ではなく、むしろ「自分の“理解”が通用しなくなったときに、その認識を作りかえたり深めたりすること」です。
 子どもの学習を外から見ているとき、周りで見ている大人が「まちがった理解」と心配することの中には、別に「まちがえて」いるわけではないことも多くあります。子どもは順番に学習していくわけですから、より先の、より広い世界が見えているわけではありません。自分が見えている世界の中で、自分なりに理解をしようとしています。広い世界が見えている大人が、「より深い理解」を押し付けることは、子どもにとっては大きな負担にもなり得ます。まずは子どもなりの理解を尊重すること、そして、新しい世界とのギャップに困っているときに温かくサポートすることが、周りの大人の役割なのです。

「すぐに理解できる」ことよりも大切なこと

 そもそも、算数・数学の学習に関する大きな誤解のひとつに、「算数(数学)の得意な人は、新しいことを聞いても“すぐに”“正しく”理解できるのだろう」というものがあります。逆に言うと、それは「スムーズに理解できない自分は、算数ができないのだろう」という思い込みにもつながっているのですが、これは事実ではありません。実際には、算数・数学の得意な人であっても「わからない」ことはたくさんあります。というよりも、そもそも数学は奥が深いので、「すべてわかる」というのは根本的にあり得ないのです。
 確かに、学校教育の中では、先生の説明を聞くだけですぐに理解できれば、そしてそれをテストで正しく使えれば、点数は取れるでしょう。しかし、「聞いてすぐにわかる」というのは、実は、「その話を聞く前の段階で、ほとんどわかっていたこと」でしかありません。ある程度理解の準備が整っているところに、「先生の話」で最後のピースがハマれば、「すぐに理解できる(ように見える)」というだけに過ぎないのです。もちろん、それはそれで大事なことでしょう。しかし、その「タイミングよく最後のピースがハマる」ことだけを「算数ができるようになる」と捉えてしまうと、当然どこかの段階では行き詰ってしまいます。
 算数・数学の学習は、本来、学校だけで終わるものではありません。その気になれば、一生続けていっても構わないのです。わからないことがあったとしても、長く考えていればいずれはわかるタイミングが来ることは、それほど珍しくありません。その意味では、算数ができるかできないか、の重要な要素のひとつとして、どれだけ長く学習を続けていけるか、を挙げることもできるでしょう。実際、数学のできる人は、「すぐにわかってきた人」ではなく「わからない、を乗り越えてきた人」がほとんどです。まずは自分なりに「わかる」ことを大事にし、先に進んでいく中でそれを適宜修正していく、ということができるようになることが、算数・数学を長く学習していくための秘訣なのです。
 今回のお悩みは、「分数」が入ってきたことで、今まで通りにできなくなった、ということですね。まず、「9を引くときに10を引いて1を足す」という理解を獲得したお子さんは、とても素晴らしいです。そして「分数」の世界に入ったとき、「同じようにはできない」と感じていることも、やはり鋭いセンスの持ち主であると言えるでしょう。分数、そして小数を学習し始める、というのは、算数の学習において、「新しい世界と出会う」という重要で象徴的な場面でもあります。今までの理解が通用しなくなることもたくさん出てきます。しかし、その「わからなさ」と向き合い、自分の理解を深めたり再構築したりできれば、その先の「わからない」を乗り越えていくためのひとつの原体験となるでしょう。「できていたはずのことができなくなった」というのは、その過程のひとつのステップです。新しい世界との出会いに戸惑うお子さまには、それが重要な過程であることを伝えてあげつつ、より深い理解に到達できるよう、温かく励ましてあげてください。


  いかがでしょうか。

 そういえば先日、なぜか過去にタイムスリップする夢を見ました。過去と言っても、私の記憶にあるくらいの過去なので、それほど昔ではないのですが、今では当たり前のようになっているものがなかった時期、というのを少し思い出した感じです。夢の中で印象に残ったのはなぜか電子マネーで、ピッとやろうと思ったけどできなかったんですよね。そのほかのものも含めて、思えば急速に便利な時代になったものです。いよいよ新元号となりますが、令和の時代も、また便利なものが増えて、きっといろいろと生活も変わっていくのでしょう。楽しみでもあり不安でもありますが、ほどほどに楽しみながら生きていければいいな、と思います。

 それではまた来月!

保護者の皆さまから算数のお悩みを募集します!

お子さまの算数の学習に関して、悩んでいることやお困りのことはありませんか。もしございましたら投稿フォームからお送りください。どのような内容でも大歓迎です!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

主な著書

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