親と子の本棚

「ぜったいぜつめい」を抜け出すには……

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

おなかがぺこぺこ

『かわうそモグ』より

「おなかがすいた! かわうそのモグは、いつものようにそう思って目をさましました。」――小森香折・長谷川義史の絵本『かわうそモグ』のはじまりだ。
目の前の、かわうそのしっぽを、にいちゃんのアオメをおどろかせてやろう思って、かみついたら、それは、自分のしっぽだった。名前のとおり青い目のアオメが川からあらわれて、口には、太ったフナをくわえている。モグは、フナを横取りしようとするが、うまくいかない。――「食べたかったら、じぶんでとれよ」「へん。フナなんか、いらないもんね。ぼくはこれから、ぶっといウナギをつかまえるんだ」「おまえにつかまるような、まぬけなウナギは、いないだろうね」
モグは、川をくだっていくけれど、いくらさがしてもウナギは見つからない。気がついたらもう、人里に近づいていた。川面から頭を出すと、人間の話し声が聞こえる。

「いやあ、きょうの山越えはきつかったな」
「町についたら、ウナギでも食べてせいをつけましょうや。うまい店があるんですよ」

モグは、ひげをぴくりとさせる。――「そっか。ウナギがいないと思ったら、人間のやつが、よこどりしてるんだ」「人間に化ければ、ウナギが食べられる。アオメは「ぜったいぜつめい」でなきゃ化けるなっていったけど、もうおなかがぺこぺこで「ぜったいぜつめい」だもんね」
 岸にあがったモグは、ササユリの花を頭にのせる。花をのせると人間の女に、葉っぱをのせると男に化けられるのだ。――「つるっとすべって、かめかんだ!」川の水面にうつったのは、かわいい人間のむすめだった。

50ドルの賞金

ラッセル・ホーバン『エミットとかあさんの歌』は、クリスマスの物語だ。8月号なのに、季節はずれで、ごめんなさい。でも、これは、やっぱり、かわうその話だし、やっぱり絶体絶命の話なのだ。
クリスマスが近いのに、かわうそのエミットとかあさんは、とても貧乏だ。とうさんはもう死んでしまって、かあさんが洗濯板とたらいで洗濯屋をしている。エミットは、毎日ボートをこいで、あちこちの船着き場に置いてある、お得意さんの洗濯物を集めている。エミットは、とうさんののこした道具箱をもって、となり近所をまわり、ちょっとした仕事もこなしている。谷合のカエル村で、親子は、何とか暮らしていたのだ。
ところが、ことしは、景気が思わしくない。小麦や野菜の出来が悪いし、川下の製材所も仕事がへった。エミットのかあさんに洗濯物をたのんでいた、おかみさんたちは、みんな自分で洗濯をするようになった。エミットの頼まれ仕事も、めっきりへってしまった。ふたりとも、クリスマスプレゼントも用意できそうにない。エミットとかあさんは、絶体絶命だ。
クリスマスまで、あと2週間というとき、耳よりな話が聞こえてくる。かあさんはジャコウネズミのヘティから聞いたし、エミットはヘティのむすこのハービーから聞いたのだが、「水の町」の商店会がタレント・ショーを開くというのだ。「五十ドルだぞ。すごい しょう金だろう!」とハービーはいった。みんなの前で、何かの芸を披露するショーだ。
ハービーは、「カエル村がらくたバンド」の結成を構想していた。ハービーは、笛がふける。アライグマのウェンデルは、水差しをうまく吹いて音が出せる。ビーバーのチャーリーは、たばこ入れのバンジョーをひく。足りないのは、たらいのベースだ。ハービーがいう。――「たらいを ふせて、その ふちに ほうきの えを 立てて、の 上から、たらいの まん中に あけた あなまで 糸を はるんだ。その 糸を はじくと、ちゃんと ベースのような 音が でるのさ。」エミットは、かあさんの洗濯屋のたらいを持ち出す決心をする。
エミットのかあさんも、タレント・ショーのことを考えていた。――「五十ドル あれば、どれだけ たすかるか しれないわ。」

きれい好きなしずく

マリア・テルリコフスカボフダン・ブテンコの絵本『しずくのぼうけん』には、かわうそは出てこない。でも、洗濯屋さんは、ちょっと出てくる。

ある すいようびの ことだった
むらの おばさんの バケツから
ぴしゃんと みずが ひとしずく
とびだして ながい たびに でた
ひとりぼっちで たびに でた

はじめ、しずくは、裏庭に出て、ほこりだらけになってしまう。――「なんて わたしは きたないの/あんなに きらきら してたのに/せんたくやさんに いってみよう」
こんなふうに、しずくの旅は、はじまるのだけれど……。

今月ご紹介した本

『かわうそモグ』
文 小森香折、絵 長谷川義史
BL出版、2019年
むすめに化けたモグは、町の「うまいウナギ屋」という店をのぞく。そこでまた、「ぜったいぜつめい」の窮地におちいるのだが……。

『エミットとかあさんの歌』
ラッセル・ホーバン 作、谷口由美子 訳、リリアン・ホーバン 絵
文研出版、1977年
バンドにくわわったエミットは、仕事をほうり出してきたことを気にして、たらいのベースをはじきながら小声で歌う。――「かあさんが せんたくしなけりゃ、/家ちんが はらえない。/たらいに あなが あいてちゃ、/家ちんが はらえない。」
この本は、現在、品切れ。図書館でさがしてください。

『しずくのぼうけん』
マリア・テルリコフスカ  さく、うちだ りさこ やく、ボフダン・ブテンコ え
福音館書店、1969年
洗濯屋はドライクリーニングで、しずくは、かわいたらこまるから行かれない。きれいになりたい、しずくは、お医者さんに行くけれど、そこも抜け出し、やがて、お日さまに照らされて、空の雲にのぼっていく。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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