親と子の本棚

自転車にのって

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

町で一番のへんてこ

『うちって やっぱり なんかへん?』より

先月につづいて、まずは、ちょっとへんてこな話を紹介する。
トーリル・コーヴェ『うちって やっぱり なんかへん?』は、ノルウェーの絵本だ。
「わたし」の家族は、壁をはさんで、もう一つの家族とくっついて暮らしている。となりの家には、「わたし」と同い年の女の子、ベネディクテがいて、とても仲良しだ。
ベネディクテの家とくらべると、「わたし」のところは、だいぶ変わっている。「わたし」のパパとママは建築家で、食卓のいすには、脚が3本しかない。「わたし」やお姉ちゃんや妹は、バランスをとってすわるのがたいへんだ。そして、町で口ひげをはやしているのは、「わたし」のパパだけ。それがはずかしくて、考えはじめると、おなかがいたくなるほどだ。左目がほとんど見えないパパは、兵隊の訓練にも行かない。「わたし」は、ベネディクテの家族の「ふつう」がうらやましい。ベネディクテのお父さんは、口ひげなんて、はやしていない。
雪どけの季節になった。日が長くなり、空も心も明るくなって、家からとびだした子どもたちが通りを自転車で走っている。「わたし」は、パパとママに自転車を買って、とお願いした。
「わたし」がうらやましく思っていたベネディクテの家族に異変が起きる。お父さんが突然出て行ってしまったのだ。ベネディクテは、ただ、だまりこんでいる。「わたし」の中のうらやましさも消えて、もう一度、「わたし」の家族を見直すことになる。
パパとママは、わざわざイギリスに自転車を注文する。とどいた自転車は、タイヤの小さい、変わった1台だった。妹は、「これなに? すごいへんてこ!」という。でも……。

 ほしかったのは、ふつうの自転車。それとちがって少しがっかりだけど、うれしかった。
 町でいちばんの、へんてこ自転車。でもわたしたちにとっては、とくべつな自転車なの。

チリリンチリリンと鳴るベル

 いつか ある日の 自転車のって やってきたのは だれだろう
 ゆかいな ゆかいな ゆうびんや 野こえ 山こえ かなたから……

ジャネット&アラン・アルバーグの絵本『ゆかいな ゆうびんやさん』のはじまりだ。
郵便屋さんは、自転車にのってやってくる。まず、3びきのクマに手紙をとどける。――「もりのなか まるたごや 3びきのくま ご一家さま」絵本では、「くま」の「く」が鏡文字になっている。

 そこで くまさん一家は 手紙を読んだ。(あかちゃんぐまは 読めないが) ゆうびんやさんは お茶のんだ。
 それから いったい どうなるか。
 つぎを めくれば すぐわかる。

絵本のページをめくると……。チリリンチリリンと自転車のベルを鳴らして、郵便屋さんがたずねるのは、おそろしい魔女の家だ。郵便屋さんの配達はつづく。

きいきいときしむペダル

あまんきみこ・黒井健の絵本『天の町やなぎ通り』の郵便局長さんは、「てんのまちやなぎどおり四ちょうめ十一ばん しらはまなみこさま」というあて名の手紙をもって、自転車をこぐ。
手紙を書いたのは、しらはままさお。2か月ほど前に、白と黒の花輪がかざってあった家の子どもだ。まさおのおとうちゃんが、おかあちゃんは天の町に引っこしたと教えたのだ。手紙をあずかった局長さんがためいきをつき、「あああ、天の町、か。」とつぶやくと、すきとおった風がどうとふく。

 そのとき、局長さんは、はっと息をのみました。
 目のまえに、すきとおった琥珀いろの道が、すうっとうかびでてきたのです。
 遠く遠く、星の空までななめにつづいた、ほそい道が――。
 その両側には、やなぎのなみきがならんでいるのがわかりました。

局長さんは、力をこめて、ペダルをふむ。ペダルは、ときどき、きいきいときしんだ音を立てる。局長さんは、「きのう、あぶらをさしておけばよかった。おくさんが、ちょうど注意していたのに……」と後悔しながら走る。

今月ご紹介した本

『うちって やっぱり なんかへん?』
トーリル・コーヴェ・作、青木順子・訳
偕成社、2017年
アニメーション監督・イラストレーターである作者の子ども時代を描いた絵本だ。登場する自転車は、イギリスで1962年から販売されたモールトン自転車。高性能、ユニークで、人気をあつめた。作者は、「あのへんてこりんな自転車は、私にとってのターニングポイントかもしれません。変わったものでもかまわない、他人がどう思うかなど気にしなくていい、と思えるようになったのです」と語る。

『ゆかいな ゆうびんやさん おとぎかいどう 自転車にのって』
ジャネット&アラン・アルバーグ作、佐野洋子訳
文化出版局、1987年
本文の途中に六つの封筒が綴じこまれている仕掛け絵本だ。六つの封筒それぞれに、手紙が入っている。さあ、どんな手紙だろう。

『天の町やなぎ通り』
あまんきみこ・作、黒井健・絵
あかね書房、2007年
物語は、小さな町の小さな郵便局ではじまる。「これで六通になるなあ。」「こんなでたらめな住所をかくなんて、まったくこまったものだ。うん。こりゃあ、子どもの字だな。」――局長さんは、大いにこまっている。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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