親と子の本棚

漢字はむずかしい

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

漢字の読みかた

『いちはちじゅうのもぉくもく』より

「かめきち! かめきち!」――だんなが、でっちのかめきちを呼んでいる。桂文我・長野ヒデ子の絵本『いちはちじゅうのもぉくもく』のはじまりだ。

「となり町の平林さんへ、手紙をとどけに行きなさい。平林さんは、かめきちが、お気に入りじゃ。手紙をとどけると、おこづかいがもらえるかもしれないぞ」
「おこづかい! 行きます、行きます!」
「ええっと? この手紙は、どこへとどけますか?」
「今、おしえたぞ」
「おしえてもらったことを、今、わすれました」

かめきちは、いつもにこにこ、とてもよい子だけれど、いわれたことを、すぐにわすれてしまう。それでも、だんなに「しっかり、おぼえなさい! となり町まで、『ひらばやし、ひらばやし』と言いながら、あるいていったら、わすれないだろう」としかられて、「ひらばやし、ひらばやし」ととなえながら出かける。ところが、行き会った、さきちさんに「かめきちさん、おつかいに行くのか?」と声をかけられたとたん、もう、わすれてしまった。
しかたがないから、かめきちは、手紙の表のあて名をだれかに読んでもらおうと考える。かめきちは、まだ漢字が読めないのだ。男の人は、「これは、かんたんな字だ」といって、読んでくれる。――「上が『たいら』で、下が『はやし』だから、『たいらばやし』だな」。かめきちは、「たいらばやし、たいらばやし」ととなえはじめるが、「たいらばやし? そんな名前じゃなかったぞ」
つぎに出会った、おぼうさんは、「どれ、見せなさい。上が『ひら』で、下が『りん』。これは、『ひらりん』じゃな」。

漢字の成り立ち

川崎洋・久住卓也『かん字のうた』は、詩の1行1行を1画面として描いた『詩の絵本』の1冊だ。最初の見開きの右ページは、「林がありました」。左ページは、「木がふえて/森になりました」。
川崎洋は、ことばや文字に関心の深い詩人だ。つぎは、「ことば」という詩の第一連。――「山という字を描いてみせ/川という字を描いてみせ/山という字は山そのものから/川という字は川そのものから/生まれたのですよ/と説明すると/横文字の国の人々は感動する」
「山」や「川」は象形文字だが、『かん字のうた』も、「象形」をふくむ「六書(りくしょ)」と呼ばれる、漢字の成り立ちの六つの分類にもかかわっている。
「林がありました/木がふえて/森になりました」――「木」は、「山」や「川」と同じで、六書のうちの「象形」、物の形をかたどってできた漢字だ。「林」、「森」は、六書の「会意」。「木」を二つ、そして三つ組み合わせ、同時に、その意味も合わせてできた漢字だ。まさに、「木」がふえて、「林」になり、「森」になった。
『かん字のうた』のつぎの見開きの右ページは、「人が」。左ページは、「木によりかかって/休んでいます」。「休」も、「人」と「木」を組み合わせた「会意」だ。

プカプカの手紙、サメ次郎の手紙

さて、『いちはちじゅうのもぉくもく』のかめきちは、平林さんに手紙をとどけることができただろうか。
岩佐めぐみ『ぼくは 気の小さい サメ次郎といいます』の主人公のサメ(名前は、さいとうサメ次郎)は、ゆうびん配達員のアザラシが落としていった手紙をひろう。手紙は、「おいらはコンブ林にすむプカプカといいます。」と書きはじめられている。プカプカは「一匹ラッコ」だけれど、「でもたまにはおきゃくさんがきてもいいかなとおもってるんだ。あそびにきたらとまってもいいぞ。コンブベッドのねごこちはさいこうだぜ。貝もごちそうしてやるぞ。」とも書かれていた。
サメ次郎は、カバンを背負った「旅の者」のウミガメが宿をさがしているというので、プカプカの手紙を見せてあげる。そして、自分も、プカプカに手紙を書く。

プカプカさん、ともだちになってくれませんか。
こんどあそびにいってもいいですか。とまってもいいですか。
おへんじまってます。

サメ次郎には、友だちがいない。こわい顔をしているから、みんなにげてしまうけれど、ほんとうは、気が小さいサメなのだ。
サメ次郎の手紙はとどいただろうか。プカプカから返事は来ただろうか。

今月ご紹介した本

桂文我のでっち絵本
『いちはちじゅうのもぉくもく』

ぶん 桂文我、え 長野ヒデ子
BL出版、2019年
古典落語「平林」を絵本にしたもの。タイトルは、かめきちが読みかたをたずねた、その答えの一つだ。
『おしりつねり』(2017年)、『お正月』(2018年)につづく、『桂文我のでっち絵本』シリーズの3冊め。でっちは、商店などに奉公する少年。絵本の帯には、「いっしょうけんめいはたらく子ども」とある。

詩の絵本 教科書にでてくる詩人たち1
『かん字のうた』

川崎 洋・詩、久住卓也・絵
岩崎書店、2017年
詩「かん字のうた」の出典は、『川崎 洋詩集 どうぶつ ぶつぶつ』(岩崎書店、1995年)。
『詩の絵本』シリーズは、このほか、阪田寛夫・田中六大『わかれのことば』、金子みすゞ・松成真理子『竹とんぼ』、小泉周二・市居みか『朝の歌』、谷川俊太郎・山口マオ『だいち』の4冊。監修と解説は宮川健郎。

『ぼくは 気の小さい サメ次郎といいます』
作/岩佐めぐみ、絵/高畠 純
偕成社、2019年
『クジラ海のお話』シリーズの新刊で5冊め。このシリーズでは、いつも、手紙が友だちをつなぐ。物語は、前作『おいらはコンブ林にすむ プカプカといいます』(2009年)ともつながっている。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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