小田先生のさんすうお悩み相談室(3~6年生)

計算のスピードをあげるには

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどくかつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

こんにちは、カプセルトイが好きな小田です。いつでも気軽に回せるように、普段から財布の中に100円玉をストックしているのですが、最近は電子マネーで回せるものも出てきたんですよね。便利になってうれしい反面、電子マネーだと引き際を見失ってしまうというかなんというか。100円玉ならストックが尽きたらおしまい、とできますが、電子マネーだとできないですからね。まあ、欲しいものが出なかったら、両替して回したりもしていたので、あんまり関係ないという説もありますが。

さて、今回は「計算」についてのお悩みです。多くの算数の問題では、その過程で計算が必要となりますね。そのため、“計算力”に不安があると、算数そのものに対してもやはり不安を感じてしまいます。今回はそういったお悩みのなかで、まずは「計算のスピード」のお話をしていきたいと思います。

それでは早速行ってみましょう。

お悩み19:計算のスピードをあげるには

計算は丁寧だけれど、時間ギリギリになってしまうタイプです。そろばんは習っていないので、暗算をしないで筆算を多用しています。本人もスピードアップしたいと感じているようですが、具体的にどう取り組めばよいかわからないようです。自宅で取り組めることはありますか。

(小学4年生・保護者)

さんすう力UPのポイント

丁寧な計算ができるすばらしさを認めてあげたい

「お悩み」そのものに答える前に、まずお伝えしていきたいのは、「丁寧に計算できる」という部分はそれはそれでとてもすばらしいことだ、ということです。「テスト」というと、現状ではどうしても時間制限のあるものが多いので、計算がゆっくりだとなかなか良い点数が取れないかもしれません。しかし、丁寧に計算ができる、というのは、「焦るとミスが出やすくなる」という自覚があり、さらにその自覚に基づいて自分をきちんとコントロールできている、ということです。それが点数に反映されなくても、というよりむしろ、点数に反映されにくいからこそ、まずはその部分を承認してあげることがとても大事です。

そういう意味では、本人が望んでいなければ「スピードアップ」を周りからせっつくことには意味がないのですが、今回のお悩みでは本人も望んでいるということなので、もう少し先の話もしていきたいと思います。

計算のスピードを上げるには方法そのものを変える

計算のスピードを上げるために必要なことは、「暗算」をすることです。お悩みをくださった方もうすうすお気づきだとは思うのですが、筆算を多用している段階では、計算のスピードが劇的に上がることはありません。筆算は、決まった手順で機械的に計算をする手段です。確かに、どんな複雑な計算でもある程度機械的にできてしまう、というのは筆算の魅力のひとつであり、習得する意義のひとつでしょう。しかし、それは裏を返せば「ある程度決まった時間がかかってしまう」ということでもあるのです。途中でやっているのは1桁同士の計算であることが多いので、それらにかかる時間を短縮するトレーニングを積めば、多少はスピードをあげることができるかもしれません。しかし、それにも限界があります。その限界を超えようとすると、ひとつひとつの作業が雑になったり、もっと単純に書き方が雑になったりと、むしろ正確さが下がってしまうでしょう。計算の速度を上げるには、筆算のまま急ぐのではなく、方法そのものを変えるしかないのです。

それでは、筆算ではなく暗算をできるようにするには、どうすればいいのでしょうか。まずひとつ誤解を解いておくと、「そろばん」は別に暗算をするために必須ではない、ということです。むしろ、そろばんをやったからと言って、それだけで暗算が速くなるということはありません。そろばんも、基本的には決まった手順で操作をしているだけだからです。頭の中でやる分、「紙に書く時間」分は筆算をしていくより速いかもしれませんが、言ってしまえばそれだけです。もちろん、これはそろばんを学ぶ意義を否定しているわけではありません。そろばんは“数”を視覚的にイメージしやすく、そのイメージが間接的に計算速度を上げる下地になることはあるでしょう。しかし、あくまでも「そろばん」と「暗算」は別のものなのです。

また、その意味では、「頭の中で筆算をする」というのも「暗算」ではありません。これも誤解されやすいことですが、頭の中で計算をするにしても、筆算と同じ手順で計算をするだけでは計算速度はそこまで変わりません。紙に書かなくていい分の時間は減りますが、その分、単純に計算ミスが出るリスクは上がります。繰り返しになりますが、「暗算」とはそもそも「筆算」と違ったやり方で計算することなのです。

上の位から順番に足していく

それでは、具体的に「暗算」とはどのようなものなのでしょうか。たとえば、「34+25」という計算をするとします。筆算をすると、まずは一の位の4と5を足して9、次に十の位の3と2を足して5、としますね。これで答えは「59」と求まります。しかし、暗算をするときにはこの順番を逆にします。つまり、まず30と20で50、4と5で9、と考えて「59」とするのです。

一見すると、そう変わらないかもしれません。しかし、桁数が増えれば増えるほど、「上の位から足していく」方が負担は少なくなるでしょう。それは、「筆算」には根本的な不自然さがあるからです。筆算は、先ほど述べた通り、まず一の位、次に十の位、……と下から順に計算していきますね。しかし、よくよく考えてみてください。私たちが「数」を認識するのは、「上の位」からではありませんか。「25」という数はあくまで「にじゅうご」であって「ごにじゅう」ではないはずです。つまり、筆算は一度、数の認識を逆転させ、それを機械的に操作した後、その結果を改めて認識している、ということです。その過程では、計算の対象になっている数へのイメージがいったんバラバラになってしまいます。そのイメージが使えないから、脳の中にたくさんの情報を別々にストックする必要が出てきてしまい、難しくなってしまうのです。上の位から計算していけば、その「数のイメージ」を保ったまま操作することができ、その分、「頭の中で筆算をする」よりも楽に計算ができます。楽に計算できるということは、スピードも上がり、正確さも上がるということです。

ただ、上の位から計算する際には、繰り上がりに注意しなければなりません。筆算でなぜ下の位から計算するのかというと、下の位の計算が確定しないと、繰り上がってくるかどうかが決まらず、上の位の数字が決まらないからです。上の位から計算するときには、そこで少し工夫が必要でしょう。たとえば、「37+28」の計算をするとします。まずは「30と20で50」と考えればよいのですが、ここで、それより下の数にも少し意識を向けるのです。ここで「7と8だと10を超えるな」という判断ができれば、「繰り上がってくるので50ではなく60」と確定します。あとは「7と8で15だけど、繰り上がりは済ませたので一の位は5」として、「65」と求まります。この判断をスムーズにできるようになるためには、大きさに対する感覚が必要になるでしょう。足したときに繰り上がってくるかどうか、の判断に時間をかけると、保っている「数のイメージ」が崩れてしまい、逆に難しくなってしまいます。その判断のためのトレーニングは、ある程度必要です。

暗算にはさまざまな方法がある

このように、「筆算とは全く別の方法で計算していく」というのが、「暗算」の本質です。「上から計算していく」以外にも、いろいろな方法はあるでしょう。先ほどの「37+28」という計算であれば、「+28」を「30を足してから2を引く」と捉えられれば、「37に30を足して67、そこから2を引いて65」という求め方もできます。一言で言ってしまえば「計算の工夫」ということにはなってしまうのですが、一番大事なことは、「決まった手順」から解放され、自分のもっている「数や計算に対するイメージ」を自由に活用し、目の前の計算と全身で向き合うことです。そのためには、数や計算に対するイメージそのものを豊かにしていく必要があるでしょう。計算の工夫をする、と言っても、決まったパターンの問題に対して決まったように工夫できるだけでは、まだまだ足りません。「計算の工夫」と銘打たれた単元でなくても、普段から一つひとつの計算に対して、「どういう工夫ができるか」「決まった手順以外にどういう計算ができるか」をいろいろと考えてみることが、「暗算」力を鍛える秘訣です。その際には、楽になる計算だけでなく、別の方法でやってみたら逆に複雑になってこんがらがった、という経験も大事です。そうして「数と遊ぶ」経験を積むことが、計算のスピードを上げるための地道ではあるものの一番効果のある方法なのです。ついでに言えば、そうやって数と遊んでいくなかで、数や計算の奥深さ、おもしろさも感じてもらえると、とてもうれしいです。


いかがでしょうか。

今回は、1・2年生向けの記事も、3~6年生向けの記事も、「計算」をテーマにしてみました。いずれにしても、「計算力」というのは、単純なトレーニングによって簡単に鍛えられるものではありません。根本的には、数や計算に対するイメージの豊かさが、その下地に必要なのです。そんなこんなで、手前味噌で恐縮ですが、『東大脳さんすうドリル 計算編』、4月にもお伝えしたようにリニューアルいたしましたので、ぜひよろしくお願いします。1・2年生向けの記事でも書いたのですが、パズルを解くために計算をする、という形にすると、「計算」そのものへの労力を減らす必要が出てくるため、計算を工夫することへの意識が向きやすくなります。低学年から、となっていますが、中~高学年でも効果がありますので、興味があればぜひ取り組んでみてください。

それではまた来月!

保護者の皆さまから算数のお悩みを募集します!

お子さまの算数の学習に関して、悩んでいることやお困りのことはありませんか。もしございましたら投稿フォームからお送りください。どのような内容でも大歓迎です!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

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