小田先生のさんすう力UP教室
数のセンスを身につけよう
2019.9.26
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さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? まあ、そんなに難しく考えないで、まずはお子さまと一緒に問題に取り組んでみましょうよ。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)
こんにちは、カプセルトイが好きな小田です。最近の流行りのひとつで、カプセルレスっていうのがあるんですよ。要するに、カプセルも何かしらパーツの一部になっているやつです。キャラクターものが多く、顔のパーツがカプセルで、体のパーツがその中に入っていて、組み立てると完成する感じなのですが、必然的に顔が大きくなって、結構可愛かったりするんですよね。なかなかいいアイディアだと思うのですが、物によっては1種のキャラクターで表情も同じだったりして、そうすると開けてみるまで何が当たったかわからないのです。コンプリートするまで回そう、と思っていると、いちいち開けて中を確認しなければいけないので、大変です。
さて、今回は計算の問題です。少し難しい問題ではありますが、まずは正解することよりも、試行錯誤すること、そのなかでいろいろと考えてみることそのものを楽しんでみてください。
それでは早速行ってみましょう。
Stage55:数のセンスを身につけよう
例題
AとB、それぞれのグループから、1枚ずつカードを取り除き、残った数の和が同じになるようにしたいと思います。それぞれどのカードを取り除けばいいですか。
例題の答え
Aから5、Bから1を取り除く(残りの和が13ずつになる)
まずは、問題の意味を確認しましょう。「和」は「合計」や「足し合わせた答え」と説明すればいいでしょう。
問題の意味がわからなさそうな場合は、具体的に例を挙げて説明してあげましょう。たとえば、「Aグループから4のカードを取り除くと、残りの合計はいくらになる? Bグループから1のカードを取り除くといくらになる?」と聞いてみます。それぞれ実際に計算してもらったあと、「それが同じになるようにすればいいよ」と伝えます。
問題の意味がわかったら、あとは好きに考えてもらいましょう。書いたり消したりが負担になっているようなら、実際に「カード」を用意してあげるのも良いでしょう(トランプなどでもいいですし、単に数字を書いた紙でも十分です)。
答えを出したら、それぞれ「残りの数の和」を計算してもらいます。それがAとBで一致すればOK、一致していなければ「同じにするんだよ」と伝えてあげてください(計算を間違えているようなら、その旨を伝えてあげてください)。
解いてみよう
AとB、それぞれのグループから、1枚ずつカードを取り除き、残った数の和が同じになるようにしたいと思います。それぞれどのカードを取り除けばいいですか。
解答
(1)A:9 B:3(残りの和12) (2)A:9 B:16(残りの和20)
(3)A:12 B:21(残りの和35) (4)A:4 B:7(残りの和14)
(5)A:9 B:14(残りの和21) (6)A:16 B:13(残りの和29)
(7)A:19 B:13(残りの和46)
さんすう力UPのポイント
2019年6月号「計算力を鍛えよう」でもお伝えした通り、計算力をつけていくためには、その土台となる「数や計算に対するイメージ」が豊かであることが大事です。よく、「算数のセンス」を身につける、という話が出てきますが、この「センス」の正体は、基本的にはその「イメージの豊かさ」のことを指しています。
“普通”に算数の学習を進めていくと、その過程で計算のルールや手順を教えてもらえるでしょう。しかし、それはあくまで最低限の方法論であって、それをマスターすれば数や計算を自由に扱えるというわけではないのです。もちろん、少なくとも一応計算はできる、という状態にすることは大事です。そのための学校教育でしょう。ただ、余裕があるのであれば、それで満足するのではなく、さらに深く、さらに広く、数や計算に対するイメージを豊かにしていってほしいところです。
2019年6月号では、問題を解いていくなかで数や計算のいろいろな側面に触れてほしい、という話をしました。解くなかで様々な計算をし、その経験からいろいろなことに気づいてほしい、という話です。今回の問題もそれは同じですが、さらに加えて、その気づきを問題を解くための工夫に活かしてほしい、という意図もあります。今回の問題を地道に解いていくのであれば、それぞれのパターンについて、実際に計算してみるのがいいでしょう。カードの取り除き方は、3枚ずつの問題では9通り、4枚ずつの問題でも全部で16通りではあるので、しらみつぶしに調べていっても、別に無理というほどのことではありません。
ただ、工夫をしようと思えば、いろいろな工夫はできるはずです。たとえば調べ方を工夫するのであれば、左右を別々に調べていくことで、3枚の問題では6回、4枚の問題では8回の計算で答えは見つかります(例題なら、Aグループは4を取り除くと残り14、5を取り除くと残り13、9を取り除くと残り9、Bグループは1だと13、6だと8、7だと7というふうに調べていきます。そうすると、Aで5、Bで1を取り除いたときにそれぞれ13になっている、とわかります)。
もう少しほかに、「数」の面から工夫をするのであれば、たとえば大きさに注目してみるのもいいでしょう。例題では、取り除く前の状態で、Aグループの和が18、Bグループの和は14なので、取り除く数はAグループのほうがBグループよりも大きくならなければいけません。差に注目できれば「4大きい」というところまで具体的にわかるので、Aで5、Bで1という組み合わせも見えてきます。レベルが上がって、2桁の数なども出てきたときは、まず「一の位」だけに注目するアイディアもあります。一の位が一致しなければ、数として同じになることはありませんから。(7)のように、すべて10を超える場合は、一度全部10ずつ引いてあげてから考えることもできますね。3枚ずつ残すのであれば、10ずつ引いた残りだけで計算したあと、それぞれに30ずつ足すだけなので、この30は無視しても結果は変わりません。
ほかにもいろいろな“工夫”はできると思いますが、そうやって、数や計算についてたくさん考えてほしい、というのが今回の狙いです。この問題も含めて、計算を絡めたパズルをやってもらうことは多いですが、そのメリットのひとつは「決まった通りに計算をしなくていい」というところにあります。大事なことは「パズルの答え」を見つけることであって、「計算をする」ということではありません。「パズルを解く」ことにエネルギーを回すためには、「計算する」ことに使うエネルギーを少なくした方がやりやすいはずです。自由な方法で計算していい代わりに、というよりもむしろ、自由にやっていいからこそ、一番楽な計算を探しながら解いてほしいな、と思います。
いかがでしょうか。
今回は、1・2年生向けの記事も、3~6年生向けの記事も、「計算」をテーマにしてみました。いずれにしても、「計算力」というのは、単純なトレーニングによって簡単に鍛えられるものではありません。根本的には、数や計算に対するイメージの豊かさが、その下地に必要なのです。そんなこんなで、手前味噌で恐縮ですが、『東大脳さんすうドリル 計算編』、4月にもお伝えしたようにリニューアルいたしましたので、ぜひよろしくお願いします。本文でもお伝えしたように、パズルを解くために計算をする、という形にすると、「計算」そのものへの労力を減らす必要が出てくるため、計算を工夫することへの意識が向きやすくなります。興味があればぜひ取り組んでみてください。
それではまた来月!
文:小田 敏弘(おだ・としひろ)
数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。 公式サイト:http://kurotake.net/ 主な著書
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