小田先生のさんすうお悩み相談室(3~6年生)

字をていねいに書く、ということ

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどくかつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

こんにちは、最近運動が不足している小田です。実はいくつか「位置情報ゲーム」で遊んでいるのですが、そこまで頑張っているわけでもないので、さほど運動量には貢献していない気もします。近くに珍しいモンスターが出ていても、そこまで行くのが面倒くさい、と思ってしまうとスルーしてしまったり。通りがかりに謎の人だかりができていたりすると、ゲームを立ち上げてイベントが発生していないか確認したりはするんですけどね。

さて、今回は「字」に関するお悩みです。子どもの書く字は、お世辞にも「ていねい」とは言えないことが多いです。そして、そんな「ていねいではない字」を書いていて、それが原因でミスがあったりするのを見ると、「字をていねいに書けばいいのになぁ」と思ってしまうこともあるでしょう。今回はそんなお悩みに答えていきたいと思います。

それでは早速行ってみましょう。

お悩み20:字をていねいに書く、ということ

ていねいな字で書かないので、計算は合っていたのに、答えの欄に書き写すときにまちがえてしまいます。どうしたらていねいに字を書くようになるでしょうか。

(小学4年生・保護者)

さんすう力UPのポイント

小学生でていねいな字が書ける子どもは少数派

冒頭でも書きましたが、字をていねいに書ける子、というのは、確かになかなかいませんよね。そして、その「汚い字」のせいでまちがえてしまう、というのも、本当によく見かけます。そういった場面を見てしまうと、「せめて字さえていねいに書けば、もう少しまちがいは減るのに」と思ってしまうのは確かです。そして、「別に、“美しい字”は書けなくていいから、せめて“ていねいな字”を書いてほしい」と思ってしまう気持ちもよくわかります。

ただ、そういった「傍で見ている人の気持ち」はよくわかるのですが、それでは実際にそういった子たちにどういう指導をしていくか、と考えると、残念なことに、まわりのオトナにできることはほとんどありません。むしろ、外から「字をていねいに書かせよう」とすることは、基本的にはマイナスにしかならないのです。

そもそも、なぜ子どもたちは字をていねいに書かないのでしょうか。その大きな理由のひとつは、「書かない」のではなく、「書けない」からです。

先ほど、なにも美しい字を書けといっているわけではない、ていねいな字を書いてほしいだけ、という気持ちもわかる、という話をしました。しかし、そう思う背景には、美しい字を書くには技術や才能が必要だけど、ていねいな字を書くのは気持ちの問題だけだから、やろうと思えばできるはず、という前提があるのではないでしょうか。しかし、ここで考えてほしいのは、本当にその前提は正しいのか、ということです。

一生懸命問題を解いているときに、ていねいな字を書くのは難しい

字をていねいに書こうとすれば、そうしようと思わないときと比べて、当然、多くのエネルギーが必要となります。そのエネルギーは、本当に「気持ち」だけで確保できるのでしょうか。よくよく考えてみてください。問題を解いているときは、なんとか答えを出そうと、「考える」部分にエネルギーをかなり使っているはずです。ふだんの学習のなかでも、わからないことを「理解する」には、大きなエネルギーが必要ですね。子どもが勉強中に使えるエネルギーは、有限です。そのなかで、「字をていねいに書く」ために労力を割けなくても、それは仕方のないことだと思いませんか。そういった状態で「字をていねいに書きなさい」と言ったところで、よくてそのままスルー、下手をすると「字をていねいに書く」ことにエネルギーを使ってしまった結果、問題を解けなくなったりわからなくなったりする、ということもあり得ます。

さらに言えば、とくに小学生のうちは、頭の回転速度に手の動く速さがついてこない、というのもあります。これは、特別に頭の回転が速い子だけではありません。何かを考えながらメモを取ること自体が難しい、というのは、すでに大人になった私たちでも、理解できる感覚ではないでしょうか。まだ「書く」経験そのものが少ない、小学生ならなおさらです。変に「ていねいに書こう」とすれば、思考にブレーキをかけることになってしまうでしょう。

字が雑な子、というのは、ある意味ではそれだけ一生懸命問題を解こうとしたりしている子、と捉えることもできます。子どもの雑な字を見たときには、ぜひ「子どもなりに頑張っているんだな」と温かい目で見守ってあげてください。字が汚いせいでまちがっていても、それも含めて、その子の現在の「実力」です。そういった場面を見かけたら、「もったいないね」と笑って済ませてあげるのがいいでしょう。

子ども自身が「字をていねいに書こう」と思うために必要なこと

私が今までいろいろな子を見てきた経験から言えば、小学生の頃に字が雑であっても、年齢を重ねていくごとにていねいに書くようになっていく子はたくさんいます。それは、別に何か特別な指導の結果、というわけではありません。ひとつの考えられる要因としては、成長するにつれて、体力や集中力もついてきて(さらに言えば、「書く」ことにも多少慣れてきて)、そういったことにエネルギーを回す余裕が出てくる、ということもあるでしょう。しかし、そういった方向に成長していくには、もうひとつ重要な条件があると感じています。それは、「勉強を“自分事”」にできること、です。

実際のところ、字をていねいに書くかどうか、だけを考えれば、ていねいに書くに越したことはないわけです。他の条件が全く同じなら、ていねいな字を書いたほうがまちがいは減りますし、学習の効率自体も上がってきます。先述した通り、それをするにはさらにエネルギーが必要、というだけです。余裕のないうちはそもそも優先順位の問題で「できない」という話をしましたが、ある程度そちらにエネルギーを割く余裕が出てきたとしても、次は「本当にそちらにエネルギーを割く価値があるかどうか」を納得する必要がでてきます。端的に言ってしまえば、面倒くさいけどそうした方がいいから頑張ろう、と本人が思えるかどうか、です。だからこそ、そう思えるようになるために、前提として「もっと勉強ができるようになりたい」という気持ちが重要になるのです。「もっとできるようになりたい」と本心から思うことができれば、それに関連するコストを受け入れられるようになるでしょう。

もちろん、「もっとできるようになりたい」と思うようになるきっかけは、その子その子によっていろいろです。中学受験や高校受験といった「受験勉強」は、ひとつ典型的な機会でしょう。ふだんのテストでももっと点を取りたい、というのは、意外とそこまで“本気”になれないのが普通ですが、その気持ちで頑張れる子もいないわけではありません。そのほかにも、将来なりたいものが見つかったり、ライバルができたり、といったようなこともあります。一人ひとりの子どもにとって何が大事か、というのは、その子その子の「価値観」の問題なので、多様であり、そこに優劣はありません。しかし、いずれにしても「字をていねいに書く」というのはあくまで学習のための手段の一つである以上、その手段を使って達成したい「目標・目的」がないことには、「字をていねいに書く」気にはならないでしょう。その意味で、ていねいな字を書くようになるためには、まず勉強を“自分事”にする必要があるのです。

勉強というのは、本質的には「自分を成長させていくこと」です。成長したいと思い、成長する喜びを感じるようになることが、「勉強を楽しむ」ということです。その「勉強の楽しさ」を知ることができれば、そのうち自然とていねいに字を書くようにもなっていきます。逆に、勉強すること、成長していくことの楽しさを知る前に、「字をていねいに書く面倒くささ」を感じてしまうと、「勉強って面倒くさい」となってしまいます。それはやはり、もったいないことだと思います。

「字が雑」というのは、目に見えてわかりやすい「欠点」なので、気になってしまう気持ちもわかります。ただそれは、あくまで表面的なことである、というのは忘れてほしくないことです。成長を待つ、というのは時間がかかることで、実際に何年もかかることではありますが、気長に、温かく見守ってあげてください。


いかがでしょうか。

最近、急に寒くなりましたね。ついこの間まで、まだまだ暑い日も多かったと思っていたのですが、しかしよくよく考えるともう10月も終わりに近づいてきているのでした。秋も半分終わり、もう冬の準備をしていかないといけません。今年は夏の始まりも曖昧だったので、(2019年9月号の記事でお伝えした通り)衣替えに失敗して冬用のジーパンを夏の間もずっと履いていたわけですが、結局そのまま夏が終わってしまう感じになってしまいました。しかし履き潰してしまうと新しく買わないといけないわけで、よかったのか悪かったのかはよくわかりませんね。季節が急に変化すると、体調管理もなかなか難しいところはありますが、皆様もどうぞご自愛ください。

それではまた来月!

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文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

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