親と子の本棚

おおみそかの大雪

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

どんどんふる雪

『おおゆき』より

――さいや さいや……
――さいや さいや……
あさから、おみこしの リズムで ゆきが ふっています。
ちかくの やまも、かわも、どうろさえ みえません。
あさに ゆきかきをしたのに、すぐに あたらしい ゆきが つもりました。

最上一平・加藤休ミの絵本『おおゆき』のはじまりだ。おみこしのリズムで雪がふってくる。おみこしをかつぐ掛け声は、「わっしょい わっしょい」とか「せいや せいや」とか「そいや そいや」だったりするけれど、絵本のなかの地域では「さいや さいや」なのだろうか。何しろ、雪がどんどんふって、積もっていくのだ。ゆうきとだいきのおとうさんは、「それにしても、ふるなあ。そらに あなでも あいたようだ」と空を見上げる。
つぎの日は、おおみそか。朝早く起きたおじいさんがストーブのスイッチを入れると、玄関の戸をたたく音と「すみません。すみません」という若い女の人の声がする。――「すみません、トイレを かしてもらえませんか。」「たすかりました。きのうの よるから、くるまが まったく うごかなくなったんです。」
おじいさんが女の人といっしょに外へ出てみると、雪が1メートルほども積もっていて、国道には、車が長い列をつくって止まっている。お正月にふるさとに帰る車だ。峠のあたりで、大型のタンクローリーが動けなくなって、道をふさいだらしい。

クマくんのひどい熱

きょうはおおみそか、一年のさいごの日です。
森の原っぱでは、みんながモミの木をかざって大いそがし。
あたらしい年を、いっしょにモミの木のまわりでむかえるのです。

こちらは、セルゲイ・コズロフ原作、オリガ・ファジェーエヴァ絵、田中友子文の絵本『ロシアのお話 雪の花』の書き出しだ。この絵本のなかにも、雪が積もっている。
かざりつけが終わったのに、ろうそくをもってくるはずのクマくんがやってこない。ウサギがクマくんの家へ行ってみると、クマくんは、ベッドでねていて、しかも、ひどい熱だ。「まるでアイロンだ!」とおどろいたウサギは、クマくんと一番の仲よしのハリネズミくんを呼びにいく。キツツキ先生もとんできて、ようすを見てくれる。――「こんなに熱がたかいんじゃ、”雪の花”がないと、たすからんよ。」「”雪の花”は、まだだれも見たことがなくてね。どんな花で、どこにさいているのか、わからんのだよ。」それでも、ハリネズミは、「だいじょうぶ、ぼくがきっと見つけてくるよ!」と森の奥へとかけ出していく。

ホットココアを飲むあいだに

ジム・エイルズワースバーバラ・マクリントックの絵本『トムが てぶくろ おとしたら』のトムは、一面真っ白な雪のなかに出ていって、あっちで遊び、こっちで遊び、さんざん遊ぶ。やっと、うちに帰ると、てぶくろを片っぽ落としてきたことに気づく。「あれれ、どうしよう!」とトムはびっくりするけれど、おばあちゃんは、「だいじょうぶ」という。――「あした さがしにいこうね。きょうはもう、さむい さむい」そして、おばあちゃんは、ホットココアをつくってくれるのだ。
トムがホットココアを飲んでいるとき、リスが雪の上に落ちているてぶくろを見つける。――「ぶる、ぶる、ぶるるっ! あしが こおりみたいに つめたいよ。いいもの みつけた! ここに もぐって あしを あっためよう」トムのてぶくろにもぐりこんだリスは、足があたたまると、そのまま、ねてしまう。そこへやってきたのがウサギだ。

今月ご紹介した本

『おおゆき』
最上一平/作、加藤休ミ/絵
鈴木出版、2019年
ゆうきとだいきは、おじいちゃんを手伝って、国道ぞいに大きな看板を出す。――「トイレ↗ あります」たくさんの人が、トイレを借りにくる。人びとは、公民館にあつまって、おにぎりつくったり、あたたかい芋煮汁をつくったり、「さいや さいや……」とふった雪のおおみそかは、お祭りのような、にぎやかさになる。

『ロシアのお話 雪の花』
セルゲイ・コズロフ*原作、オリガ・ファジェーエヴァ*絵、田中友子*文
偕成社、2018年
ハリネズミは、森でポプラの木やトネリコの木やマツに雪の花のことをたずねる。ポプラは枝にのこっていた最後の葉を、トネリコは小さな根っこをくれる。「きっと役にたつだろうよ。」といって。

『トムが てぶくろ おとしたら』
ジム・エイルズワース 文、バーバラ・マクリントック 絵、福本友美子 訳
犀の工房、2018年
ウサギは、「ぶる、ぶる、ぶるるっ!! いれておくれよ」とリスにたのんで、てぶくろにもぐりこむ。つづいて、キツネも、クマもやってくるのだが……。エウゲーニー・ラチョフえ、うちだ りさこやくの絵本『てぶくろ』(福音館書店、1965年)で知られるウクライナの昔話とはまた別の結末をむかえる。
裏表紙には、おばあちゃんがトムにつくってくれたホットココアのつくり方も記されている。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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