小田先生のさんすうお悩み相談室(3~6年生)

指を使って計算すること

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどくかつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

こんにちは、最近グルメ漫画を読み始めた小田です。おいしそうなものをおいしそうに食べる作品を見ていると、自分もおいしいものを食べたくなりますよね。グルメ漫画は大別すると「作る」ものと「食べに行く」ものがあるように思うのですが、とくに後者はハードルが低そうに感じる分、影響力も大きいです。時間ができたら実際に食べに行きたいな、と思っているところです。

さて、今回は「計算」に関するお悩みです。端的に言えば「計算に指を使っていいのか」というお悩みで、結論から言うと「問題ない」という話なのですが、そのあたりを少し掘り下げていきたいと思います。

それでは早速行ってみましょう。

お悩み22:指を使って計算すること

子どもが指を使って計算します。1桁の足し算・引き算は暗算でもでき、九九も全部覚えていますが、算数の問題を考えるとき指も使うのです。このままでよいでしょうか。

(小学3年生・保護者)

さんすう力UPのポイント

指を使って計算している子に対して取るべき態度

指を使って計算する子を見ると、“幼く”見えてしまう、というのがあるのでしょうか。指を使って計算することを、よくないことだと思っていらっしゃる方も多いようですね。計算に指を使ってもいいのか、という話は、とてもよく聞くお悩みのひとつです。ただ、冒頭でもお伝えしたとおり、こちらのお悩みに対するお答えは「問題ない」の一言に尽きるでしょう。むしろ、問題なのは周りの大人が過剰に反応することです。とくに「指なんか使っちゃダメ!」と否定してしまうことは、子どもを算数嫌いにさせてしまいかねない、危険な行為です。いきなり結論になってしまいますが、子どもが指を使って計算しているときは、「頑張って計算しているんだなあ」と思って温かく見守ってあげることが、一番大切なのです。

「自分にできる方法」に様々な概念は結びついていく

先月のお悩みに対して、算数・数学を学習するというのは、「数学の庭」を育てることだ、というお話をしました。今回のお悩みも、それに通ずる部分があるでしょう。計算をしていく上で大事なこと、というと、素早く計算することや正確に計算することを思い浮かべるかもしれません。もちろんそれらはそれらで大事ですが、長期的な視点で見た場合、何よりも大事にしないといけないのは、子どもが「自分にできる方法」で計算をすることです。

個々人が持っている「数学の庭」には、外から干渉することができません。自分の数学の庭を育てていくことができるのは、自分だけなのです。そして、その「自分で育てていく」過程で、手がかりになるのが、すでに自分の庭に置いてあるもの、つまり、「今、自分ができること」なのです。

これは何も数学に限った話ではありません。何か新しいものに出会ったとき、それまでの自分の知識や経験などと結びつけて理解していく、というのは普通のことではないでしょうか。そして、そうやってうまく結びつけられたとき、いわゆる「腑に落ちた」状態になりますよね。数学でもそれは同じで、その「結びつける先」が広く、豊かにある方がいいのです。「数を指で数える」ということも、その大切な“結び目”のひとつです。安心して数を数えられる子どもは、そこにさらに様々な概念を結びつけ、より豊かな数学の庭を育てることができるでしょう。逆に、外からそれを否定された子どもはどうでしょうか。自信が持てない、不安定な場所には、新しいものを結びつけることができません。最悪、それを捨ててしまったら、例えその跡に「立派な方法」を置いたとしても、定着せずに消えていってしまうことになるでしょう。そうすると、数学の庭を育てていくことが、さらに難しくなってしまいます。だからこそ、子どもが指を使って計算していても、それを否定するのではなく、温かく見守ることが大事なのです。

適切な計算方法を選べることも重要な“算数のセンス”のひとつ

今回のお悩みをいただいたとき、ひとつおもしろいと思ったのが、「指“も”使う」と書かれているところです。保護者の方もよく見ていらっしゃるな、と感心したのですが、これは実はすごく大事なことです。ちょうど、今月は低学年向けの記事でも「計算」についてのお話をしたのですが、そちらでも書いた通り、数や計算には、いろいろな側面があります。場面によって計算手段が違う、というのは、裏を返せばその「いろいろな側面」がなんとなく見えている、ということでもあるでしょう。その場その場の計算に合わせて、適切な計算方法が選べるようになる、というのは、重要な“算数のセンス”のひとつです。「指で数える」というのは、そのうちのひとつの計算方法でもあるでしょう。実際、私自身、大人になった今でも、数えたほうが早い場面では「数える」ことで計算をします。指を使うことは少なくなりましたが、それは単に指を使うのが面倒になっただけであり、また、それ以上に「指で数える」経験を積んだことで「間違えずに数えられる」自信がつき、「もう指に頼らなくてもいい」と納得できたから、というのがあるでしょう。そういえば昔、「引き算のときには時計を見ながら計算する」という子どもも見たことがあります。指で数えると、繰り下がりが難しいわけですが、時計を見ながら(11、12を飛ばして)さかのぼって数えると、安全に繰り下がりができるのです。一見するとつたない計算のように見えますが、実は「1の位が時計のようにぐるぐる回っている(周期になっている)」というのは、数の大事な特徴のひとつです。その子は、知ってか知らずか、「数えていく」というイメージからさらに発展させて、数の別の特徴にたどりつくことができた、と言えるでしょう。

指で数えることも含めていろいろな形で計算をしている状態は、数学の庭で言えば、庭のあちこちに、少しずつタネがまかれている状態と言えます。個々の技術はまだまだ未熟であっても、そのまま学習を進めていけば、それらがうまくつながり、豊かな庭になっていくことでしょう。その意味でも、今回のお悩みのような場合は、ぜひ安心して温かくお子さんを見守っていただければ、それが一番いいのです。


いかがでしょうか。

毎年年末になると思うのですが、1年というのはあっという間に過ぎてしまいますね。ただ、思い返してみれば、今年も去年とはまた違う1年にはできた気がしますし、それはそれでいろいろと成長があったのかな、とも思います。今年できなかったこともまだまだたくさんありますが、来年はそのうちの一部でもできればいいな、と思っています。

それではまた来年!

保護者の皆さまから算数のお悩みを募集します!

お子さまの算数の学習に関して、悩んでいることやお困りのことはありませんか。もしございましたら投稿フォームからお送りください。どのような内容でも大歓迎です!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

主な著書

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