小田先生のさんすうお悩み相談室(3~6年生)

公式との付き合い方

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどくかつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

こんにちは、最近携帯を買い換えた小田です。買い換えたついでに、以前の携帯ではうまく使えていなかった、よく行くコンビニのアプリを入れてみました。電子マネーは携帯で使うので、そういったアプリは相性いいですよね。スタンプとかバッヂとか、貯めていくのが好きな人間なので、結構楽しんでしまっています。顧客囲い込みの戦略に、まんまと乗っかってしまっていますね。

さて、今回は「公式」に関するお悩みです。算数・数学を学習していくと様々な公式が出てきますが、それらとの向き合い方にはいろいろな言説があり、結局どうするのがいいのか、というのはやはり悩みどころでしょう。今回はそんなお悩みに答えていきたいと思います。

それでは早速行ってみましょう。

お悩み21:公式との付き合い方

公式は覚えるだけでなく、自分で導けるようになるとよいとよく聞きます。ただ、うちの息子の力を考えると、負担が大きいような気がします。どの程度までできるようになることを目ざしたり、どう学習していったりするとよいのでしょうか。

(小学6年生・保護者)

さんすう力UPのポイント

公式を自分で導くのはなかなかハードルが高い

「公式を覚えるだけでは意味がない」「むしろ覚えずに自分で導けるようにすればいい」という話は確かによく聞きますよね。そして、そう言われてしまうと、なんだか正しいように聞こえてしまいます。しかし、実際に学習を進めていくと、「自分で導けるようにする」というのは、なかなかハードルが高いのが現実でしょう。今回のお悩みのように、どうすればいいのか困ってしまう方も多くいらっしゃるのだと思います。そういった方々に、まずお伝えしておきたいのは、公式はたとえ「覚えるだけ」であっても十分に価値がある、ということです。

“数学の庭”を育てるということ

仕事柄、算数・数学を学習するということはどういうことか、常に考えているのですが、その一つの結論として、「算数・数学の学習とは、その人その人の心のなかにある“数学の庭”を育てる・豊かにしていくことだ」と今は考えています。“数学の庭”というのは、その人がどういうイメージで数学の世界を理解しているか、という捉え方の話で、つまり、それぞれの人の“数学観”のメタファーです。人の心のなかにはそれぞれそういった“庭”があり、新しい概念に出会ったときにそれを自分の“庭”の好きな場所に置いてみたり、いろいろと考えていくなかでそれらの概念の置き場所を調整・整理してみたり、さらにまた新しい概念に出会ったら今まで置いていたものと入れ替えてみたり、とその“庭”を自由に発展させていくことができます。そういった“数学の庭”というメタファーを通して考えてみると、教育の世界で言われるいろいろな言説の論点が、少し整理しやすくなると思うのです。

新しい公式を“数学の庭”に置いてみる

今回のお悩みの「公式とどう向き合うか」も、そのひとつです。「数学の庭を育てる」という観点に立てば、新しい公式に出会った最初の段階で、「公式そのもの」を“庭”に置くことも「導き方」を“庭”に置くことも、「何もなかった状態よりも“庭”が豊かになった」という意味で、どちらも同じようにとても意義のあることだとわかります。そして同時に、「覚える」ことも「導けるようになる」ことも、どちらも別にゴールではないことに気づくでしょう。
算数・数学の公式には、それぞれその向こうに豊かな世界が広がっています。「公式そのもの」や「導き方」ももちろんそうですが、そのほかにも、「その公式が使える場面」や「その公式が生まれた背景」「他の公式との関連」など、もっと理解を深めようとすればいくらでも深めていくことができます。その意味では、お悩みにある「どの程度までできるようになることを目ざせばよいか」に対する答えは、「明確なゴールはない」となってしまうでしょう。月並みな表現ではありますが、「学びに終わりはない」という話です。

ただ、終わりがないからこそ、「どこまでできなければいけない」というハードルも本来は存在しません。その代わり、一番大事なのは「自分のペースで学び続ける」ことなのです。

数学の学びに正しい形はない

覚えるだけではなく、自分で導けるようになればいい、というのは、「もっと学べることはたくさんあるよ」という意味においては正しいと言えます。ただ、実際に導けるようになるのが難しい場合、「理解の深め方」はほかにもいろいろとあります。たとえば、単純に「公式を使って問題を解いてみる」というのも、その公式への理解を深めるのに役立ちます。いろいろな問題にその公式を使っていくなかで、どのようなときにその公式が使えて、逆にどのようなときに公式が使えないかがわかってきます。それも、その公式の理解の一面ではあるでしょう。そうやって、無理のない方向性で、自分のペースで学習を進めていくことが、自分の“数学の庭”を豊かにしていく、豊かにし続けていく秘訣です。

この手の話をするときに、私が一番心配するのは、「こうすべき」と決めつけてしまうことで、誰かの“数学の庭”を否定し、傷つけてしまうことにならないか、ということです。端的に言えば、「公式を覚えるだけでは意味がない」と言ってしまえば、公式を「覚えた」ばかりの子の“数学の庭”を否定してしまうことになります。それは、その子の学びにとって大きなマイナスになってしまうでしょう。自分のペースで学習することが一番大事だ、という話をしましたが、その前提として、それぞれの“数学の庭”はどのような形であっても尊重されなければなりません。自分なりに“庭”を豊かにし、それを承認され、そうやって成長していく喜びを感じるからこそ、もっと豊かにしていこうという原動力が生まれます。“数学の庭”に、正しい形はありません。にもかかわらず、外から「正しい形」を押し付けてしまうと、「豊かにしていこう」という気持ちが失われてしまうのです。

教育を語る上で、「(可能であれば)こうしたほうがいい」という話はいろいろとありますが、「こうすべき」「こうしないとダメだ」ということは基本的にはありません。お子さんの“数学の庭”を尊重し、その成長を温かく見守っていただければ、と思います。


いかがでしょうか。

最近、「うつぶせで寝転んで本を読むためのクッション」を買いました。うつ伏せの状態から肩などを少し浮かせた状態で支えるクッションなのですが、顔を置く位置にちょうど穴があいているので、そこから本を読んだりタブレットを見たりできるのです。ぐうたらする気満々なわけですが、この原稿を書いている段階では、まだ開封していません。注文して、届いてはいるんですけどね。楽しみにしているところです。

それではまた来月!

保護者の皆さまから算数のお悩みを募集します!

お子さまの算数の学習に関して、悩んでいることやお困りのことはありませんか。もしございましたら投稿フォームからお送りください。どのような内容でも大歓迎です!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

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