子どもと楽しむ料理の科学

うま味って何? 家でだしをひいてみよう

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

だしをひくところから、かきたま汁を作ってみませんか?

 だしの効いたお吸い物やうどんのつゆを口に含むと、なんだかホッとしませんか。香りや温かさはもちろんのこと、だしに溶け込んだ「うま味」の成分が口に広がり、まろやかで快い味わいがしみわたります。
 お雑煮や汁物、麺類のつゆなど様々な和食に使われるだしですが、最近は濃縮だしや顆粒だしなど便利な製品も多く出ているので、家でだしをひいたことがある人ばかりではないかもしれません。ふだん使いには濃縮や顆粒のだしもありがたいですが、やはりひき立てのおだしの風味は格別なので、時間があるときやちょっと特別なときには、自分でだしをひいてみるのもよいものです。
 今回は、だしの「うま味」の正体や活かし方、おいしいだしのひき方について科学的に解説します。

「うま味」って何だろう

 だしの最大の持ち味は何といっても「うま味」です。うま味ということば自体は知っているという人が多いのではないでしょうか。ではうま味とはいったい何なのでしょうか?
 まず、うま味とは「基本五味のひとつ」です。私たちがふだん味わっている食べ物の味は甘味、塩味、酸味、苦味、そしてうま味の5つの味の組み合わせによるものです。

 なかでも甘味、塩味、うま味の3つは糖質やミネラル、タンパク質など生きていくのに必要な成分の目印として機能しているため「本能的においしい味」といえます。甘いものやしょっぱいものってついつい食べたくなりますよね。うま味も甘味や塩味と同様に人間にとって快い味であり、満足感を与えるものです。うま味を効かせることで、塩分を抑えても薄味に感じにくかったり、満腹感を感じて摂取カロリーを抑えることができたりと、健康への効果も期待されています。

 また、うま味とは「うま味成分が舌の味覚受容体に触れたときに感じられる味」ともいえます。塩味は食塩、甘味は砂糖や蜂蜜の主成分であるショ糖、ブドウ糖、果糖などが舌に触れることで感じられる味ですが、うま味は「グルタミン酸」というアミノ酸や「イノシン酸」「グアニル酸」という核酸の仲間によって生じる味です。これらの成分を昆布やかつお節、干し椎茸などの材料から効率的に溶かし出したものが、いわゆるだしです。

ポイントは温度

 昆布やかつお節などの材料からだしを抽出することを「だしをひく」といいますが、このときに重要なのが温度です。
 昆布やかつお節にはうま味の成分以外にも、苦味や酸味などの雑味やぬめり、嫌なにおいなども含まれています。そのため、なるべくおいしい部分がよく溶け出し、嫌な部分が溶け出しにくいよう温度条件を調節する必要があります。

 昆布のうま味成分を引き出し、嫌な風味を抑えるのに適した条件は60℃で1時間、かつお節は85℃で1分間。この条件で抽出すると雑味が少なくうま味の濃い、洗練されただしになるといわれています。めんどうくさそうに思われるかもしれませんが、炊飯器の保温モードや魔法びんを使えばそこまで難しくはありません。
 そこまで完璧なだしじゃなくてよいから簡単に取りたい、という場合には、昆布だしを水につけて冷蔵庫で一晩置いたり、水から火にかけて沸騰直前まで煮出すという方法もあるのでそれぞれご紹介しましょう。

だしをひくときのポイントは……

材料ごとに、おいしい部分がよく溶け出す温度条件に調節すること!

作り方/レシピ


だしのひき方&かきたま汁

昆布とかつお節の合わせだし
材料(作りやすい分量)
水 …… 1リットル
昆布 …… 10g(水の量の1%が目安)
かつお節 …… 20g(水の量の2%が目安)

1-a.昆布だしをひく(60℃出し)
鍋に水を入れて火にかける。細かい泡がぷつり、ぷつりと浮いてくるくらいになったら(60〜70℃程度)火を止める。炊飯器に移し、昆布を加えて保温モードで1時間おいておく。(または魔法びんに入れてしっかりとふたを閉めて1時間)
昆布を取り出し、鍋に戻して再び火にかける。

1-b.昆布だしをひく(水出し)
昆布を水に入れて、冷蔵庫で一晩置く(12時間程度がベスト。長すぎると臭みが出ます。)
昆布を取り出し、鍋に入れて火にかける。

1-c.昆布だしをひく(水から煮出す)

鍋に水と昆布を入れて20〜30分おいてふやかす。
弱めの中火で加熱し、10分ほどかけて沸騰させる。細かい泡が次々に浮いてくるくらいになったら(80℃程度)昆布を取り出す。

2.かつお節だしをひく

昆布だしが沸騰したら火を止めて水をお玉2杯分加え、かつお節を入れて1分置く。ザルに清潔なふきんまたは厚手のクッキングペーパーなどを重ねたものでこしてできあがり。
このとき、雑味が出ないようかつお節は絞らず、自然に落ちるのを待つ。ボウルの上に菜箸をのせて、その上にざるを置くとよい。


かきたま汁

材料(2〜3人分)
卵 …… 1個
三つ葉 …… 1/4束
だし汁 …… 400ml
しょうゆ(あれば薄口) …… 小さじ1
食塩 …… 小さじ1/4
片栗粉 …… 小さじ1

三つ葉の代わりにわかめ20g(乾燥の場合は2g)でもOK。わかめは、水戻しして食べやすい大きさに切り、三つ葉の茎と同じタイミングで加えます。

1.下ごしらえ

三つ葉は3cm幅に切って茎と葉を分けておく。
卵はよく溶きほぐす。もしあれば、注ぎ口のついた器に入れておくとよい。
片栗粉に倍量の水を加え、水溶き片栗粉にする。

2.つゆを作る

だしを鍋に入れて温め、しょうゆと塩を加えて味をつける。
沸騰したら水溶き片栗粉を回し入れ、おたまで優しく混ぜながらひと煮立ちさせ、とろみをつける。

3.卵を注ぐ

ふつふつとやさしく沸騰するくらいに火加減を調整し、卵を少しずつそそぎ入れる。
注ぎ口のついた容器に箸を添え、箸に伝わせるように細く回し入れると、卵が細かくふわふわになる。

4.三つ葉を加える

三つ葉の茎を加えてひと煮立ちさせ、葉を加えたらすぐに火を止める。

プラス知識! 組み合わせでうま味を引き出す

 だしをひく際、昆布やかつお節などの材料を1種類ではなく2種類以上組み合わせて使うことが多いのですが、これは科学的にも理にかなっています。
 昆布に含まれるうま味成分「グルタミン酸」は、かつお節の「イノシン酸」や干し椎茸の「グアニル酸」と組み合わせて使うとうま味が最大7〜8倍にまで増幅されるという性質があります。そのため、昆布やかつお節を単体で使うよりも、組み合わせて使ったほうが、より強いうま味を感じることができるのです。

 この性質が科学的に明らかにされたのは最近のことですが、昔の人は経験的に、組み合わせて使った方がおいしいということを知っていたのでしょう。
 イノシン酸は、魚や肉にも多く含まれているので、水炊きやしゃぶしゃぶなどの鍋にするときは昆布だしだけで十分ですし、トマトやブロッコリー、アスパラガスなどの野菜もグルタミン酸が豊富なので、これらの野菜にかつお節を合わせるとうま味倍増でおいしくいただけますよ。

1/23(木)更新の次回では、「おでん」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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