親と子の本棚

図書館幻想

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

雨の日の図書館

『図書館のふしぎな時間』より

福本友美子・たしろちさとの絵本『図書館のふしぎな時間』の見返しには、国立国会図書館国際子ども図書館の全景と、かさをさした親子づれが(これは小さく)モノクロで描かれている。
冬休み、ゆりかは、調べものに行くおかあさんに付き合って、上野の国際子ども図書館に出かける。朝から小雨のふる寒い日だったから、外で遊べないし、家にいてもつまらない。
国際子ども図書館の入口があるのは、ずいぶん古い建物だ。ゆりかは、その1階の「子どものへや」で、しばらくすごすことになる。おかあさんは、ほかの部屋で仕事をするという。
ゆりかは、円形につくられた本棚から1冊抜き出して読みはじめる。アリスという女の子がふしぎな世界にまぎれこんでしまう物語だ。小さな瓶のなかみを飲みほしたアリスがいったのをまねして、ゆりかが「なんだか、おかしな気分!」というと、うしろからパサッという音が聞こえる。ふりかえってみると、本と本のすきまに、小さな小さな人がいる。――「わたしは、『すこしはものしり』という妖精です。(中略)印刷術が発明され、本というものができてからこのかた、わたしはずっと本のページをすみかとしております」

「わたしは、むかしイギリスで出された本のなかにすんでおります。
『すこしはものしりの妖精』という本ですよ。
そのお話には、お金もちのぼっちゃんが出てきましてね。
これがまあ、なにもものをしらないというか、毎日たべている肉でもパンでも、しぜんにテーブルに出てくると思っているおばかさん。そこでわたしが、ぼっちゃんにいろいろおしえてさしあげた、というわけなんです」

ゆりかが「その本は、どこにあるの?」とたずねると、妖精はいう。――「書庫にしまってありますよ。ふつうは図書館の人しかはいれませんが、わたしといっしょならだいじょうぶ。」「いきたい!」といって、ゆりかは、妖精についていくことになる。

せんねん町まんねん小学校図書室

「きょうは、だれとあそぶ?」
国語じてんが、ぐるっと本だなを見まわして、英語じてんにいいました。
「アイアム、先週は、きょうりゅうにのって、エンジョイしたし。きょうは、アイアム、こんちゅうなんかもグッドかも。」
「おまえ、そのしゃべりかた、なんとかならんのか。」

そういわれた英語じてんは、「バット、しかし。このしゃべりかたしてないと、アイアム、英語じてんだと、わかってもらえないだろ。」「そういうおまえこそ、国語じてんのくせに、へんな関西べん、つかってるじゃない。」といい返す。国語じてんは、「ええやん。せっかく、方言じてんに教えてもらったのに、つかわなソンソン。」とこたえるのだけれど。
村上しいこ『図書室の日曜日』のはじまりだ。そこに、『ようかい大百科』から、のっぺらぼうが出てくる。だが、のっぺらぼうなのに、目も口もある。だれかに落書きされたらしい。しくしく泣きだして、「あたくし、くやしくてくやしくて。」というのっぺらぼうは、やがて、国語じてんと英語じてんに、落書きの犯人さがしをたのむ。――「ほら、図書室なら、名たんていをさがすには、こまらないでしょ。それに、おふたりほど顔の広いかたは、いらっしゃらないし。」
国語じてんと英語じてんは「よみもの」のコーナーに行ってみるが、シャーロック・ホームズはヨーロッパ・グルメツアーに行って留守だし、名探偵たちは、だれも、つごうがつかない。結局、助さん挌さんをつれた水戸黄門と織田信長が力になってくれることになって、みんなで、『ようかい大百科』のなかに入る。さて、犯人はだれなのか。

やさしい若い花

『図書館のふしぎな時間』のゆりかは、妖精に、書庫をはじめ、国際子ども図書館のあちこちを案内されることになる。
巻末の絵本の作者による「物語の宝庫――過去から未来へ」にも記されているとおり、国際子ども図書館には、旧帝国図書館の建物を保存再利用したレンガ棟と2015年に新築されたアーチ棟の2棟がある。帝国図書館には、東京にいた時期の宮沢賢治もおとずれ、「図書館幻想」という文章をのこしている(生前未発表、1922年ごろ執筆か)。「そこの天井は途方もなく高かった。」と書かれている。
いろいろな画家によって宮沢賢治の童話を絵本にする試みがつづいている。陣崎草子『おきなぐさ』は、最新の1冊だ。「うずのしゅげを知っていますか。うずのしゅげは 植物学ではおきなぐさと呼ばれますが おきなぐさという名は 何だかあのやさしい若い花をあらわさないようにおもいます。」――これが書き出し。「うずのしゅげ」は方言なのだが、蟻も山男も、このやさしい花が好きなのだ。

今月ご紹介した本

『図書館のふしぎな時間』
福本友美子 作、たしろちさと 画
玉川大学出版部、2019年
「すこしはものしり」は、“Fairy Know a Bit”(1868年)という本に登場する妖精だ。

『図書室の日曜日』
作 村上しいこ、絵 田中六大
講談社、2011年
『日曜日シリーズ』の1冊。続編に『図書室の日曜日 遠足はことわざの国』(2016年)がある。

『おきなぐさ』
宮沢賢治・作、陣崎草子・絵
三起商行、2019年
『ミキハウスの宮沢賢治の絵本』の1冊。作者生前未発表の童話で、1923年に執筆されたか。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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