小田先生のさんすう力UP教室

やってみる力を育てよう

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? まあ、そんなに難しく考えないで、まずはお子さまと一緒に問題に取り組んでみましょうよ。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

 こんにちは、もうすぐ誕生日を迎える小田です。歳をとるのは実に一年ぶりなので、うまく歳をとれるかどうか不安です。
さて、初めての方は初めまして、昨年度から引き続きの方はいつもありがとうございます。このコーナーでは、私が普段子どもたちに解いてもらっている問題を紹介しながら、それらを使って子どもたちを指導する際に、どういったところに気をつけているか、などを解説していきます。昨年度まではおもに低学年のお子さんをお持ちの保護者の方を対象としていましたが、今年度からは全学年対象ということで、お子さんの学年に関係なくお役に立てるような内容になるよう頑張りたいと思います。

それでは早速行ってみましょう。

Stage1:やってみる力を育てよう

例題

図のマスに、1~3の数字を入れて、それぞれのたて・よこの列の数字の合計が、書かれている数になるようにしてください(同じ数字は何回使ってもかまいません)。

例題の答え

まずは、お子さんが問題の意味を理解しているかどうか、確認することが大事です。

問題の意味がわかっていない様子なら、ひとまず一番上の段に適当に数字を入れてもらいましょう。そして、その3つの数を足してもらいます。合計が8になっていれば「そんな感じ」、8になっていなければ「それが8になるようにするんだよ」と伝えてあげてください。あとは「全部の列がうまくいくようにする」というふうに伝えればいいでしょう。

問題の意味がわかっているようなら、子どもの好きにやらせてあげましょう。この問題ではもちろん注目したほうがいいポイントなどもありますが、そういったことを伝える必要は一切ありません。もどかしさを感じるかもしれませんが、温かく見守ってあげてください。

答えが出たら、模範解答と照合するのではなく、必ずそれぞれの列を足してあげて、問題の条件の通りになっていることを確認してあげてください。すべて合計があっていたら正解です。もし、合計が指定された数になっていないところがあれば、「ここは~になっているね」と伝えてあげてください。また、1・2・3以外の数を使っている場合も、「~は使えないね」と伝えてあげればいいでしょう。

解いてみよう

図のマスに、決められた数字を入れて、それぞれのたて・よこの列の数字の合計が、書かれている数になるようにしてください(同じ数字は何回使ってもかまいません)。

Level 1

Level 2

Level 3

解答

Level 1

Level 2

Level 3

さんすう力UPのポイント

この連載も、少しずつ形は変えながらではありますが、もうずいぶんと長い間続けさせていただいています。そのなかで、年度の初めには毎年ぜひこの話をしたい、というテーマがあります。それは、タイトルにもなっている通り、「やってみる」ことの重要性です。今年度はそれに加えて、最近の私のキーワードでもある「数学の庭」の話も交えつつ、初回のお話にさせていただきたいと思います。

算数・数学ができるようになりたい、できるようになってほしい、と思っている人は多いでしょう。しかし一方で、そもそも「算数・数学ができるようになる」というのがどういう状態か、と聞かれたとき、イメージできる人はどれくらいいるでしょうか。よくよく考えると、これは結構危ない話です。目指す先もわからずに走り出してしまえば、迷走して、かけた労力ほどの成果が得られずに終わってしまうことになるでしょう。

私自身も、さまざまな場面での教育に携わるなかで、「算数・数学を学ぶ」ということはそもそもどういうことなのか、考えてきました。そのひとつの結論が、「算数・数学を学ぶというのは、その人その人の心の中にある『数学の庭』を育てることではないのか」ということです。

「数学の庭」というのは、端的に言えば個々人のもつ「数学観」のことです。人の心のなかには数学的な概念を置いていくための庭があり、新しい概念と出会ったり理解したりするたび、その概念を自分の庭のなかに置いていく、という感じです。置いた概念同士を結びつけてさらに発展させていくこともあれば、庭を豊かにしていく過程でより高度な概念に置き換えていくこともあるでしょう。そうやって、自分の「数学の庭」を豊かにしていくことこそ、「算数・数学を学ぶ」ということなのです。

その「数学の庭」を育てるにあたって、根本的に大事なことがひとつあります。それは、「数学の庭の形には“正解”がなく、どのような庭にするのかはその人の自由である」ということです。算数・数学と言うと、「答えが一つに定まる」「誰がやっても同じ結果を得られる」という印象が強いかもしれません。もちろん、計算の手続きや論理的な結論の部分では、そういった要素が強いことは事実です。しかし、算数・数学を自分のなかにどう位置付けるか、という部分に関しては、決まった形がないのです。

子どもたちに算数・数学の指導をする際に一番重要だと感じていることは、その子その子の「数学の庭」を大事にすることです。どうも教育をめぐる界隈の様子を見ていると、「~~するべき」「~~しないといけない」というような話が間々見受けられます。そういった話は、いかに正論に見えたとしても、ほとんどの場合はケースバイケースです。そもそも「数学の庭」は外から他人が干渉できるものではありません。「~~しないといけない」と言っても、外側から無理に修正しようとしたところで、その子自身の「数学の庭を育てていきたい意欲」を奪ってしまうだけになります。

長期的な視点で見れば、“正しく”学ぶことよりも、自分で自分の数学の庭を自分なりに育てていけるようになる方が大事です。まずは、お子さんの考えていること、感じていることを大事にしてあげながら、いろいろとやってみている様子を温かく見守ってあげてください。

今回の問題でも、うまい解き方や効率の良い考え方を“教えてあげる”必要はありません。もちろん、どうやってみればいいのかがわからなければ、具体的にあてはめ方を伝えてあげる必要がありますが、あとは見守ってあげるだけでいいのです。適当に数字を入れて、計算してみて、条件に合っているかどうかを確認できれば、時間はかかってもいずれは正解にたどりつける問題です。「算数の楽しさ」という言葉をよく聞きますが、「自分なりにいろいろ考えたりやってみたりして、その結果として何かを得る」というのは、まさにその「算数の楽しさ」のひとつでしょう。下手なやり方でも、少しズレた(ズレているように見える)考え方でも、自分なりに考えて自分なりにやってみた経験の積み重ねこそ、算数・数学を好きになるための、そして、さらに学んでいけるようになっていくための基盤となるのです。


 いかがでしょうか。

一応は年度の切り替わりということですが、このご時勢、なかなか「今年度も気持ちを新たに頑張ろう!」とは言えないのが正直な気持ちです。ただ、それほど長く生きているわけでもありませんが、生きていれば何かしらが起こるということを理解できるくらいには生きてきたので、「平穏無事」な人生というのはなかなか続かないものだというのもわかってきてはいます。そのなかで、自分にできることを自分のできる範囲で頑張ろう、とは思えるようになりました。とくに、この機会に「教育」や「学習」というものもとらえ直していきたいな、とは思っているところで、「必要な人に必要な学習のサポートを」という理念でやってはいるのですが、まだまだ至らない点が多いというのも現在の反省事項です。もちろん、安全や健康には最大限配慮しつつ、いろいろと頑張っていこうと思います。
それではまた来月!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

主な著書

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