小田先生のさんすうお悩み相談室(3~6年生)

算数に必要な読解力

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? 保護者の皆さまから寄せられるさまざまなお悩みに、小田先生がするどくかつ丁寧にお答えしていきます。
(執筆:小田敏弘先生/数理学習研究所所長)

こんにちは、今年の目標も「文化的な生活」に決めた小田です。かれこれ4年目ですよね、この目標。よくよく考えると、「仕事以外も頑張る」と言いながら、結局家に帰ってもやることがなくて仕事をしている、というのが良くないのだと思いました。ということで、今年は家では仕事をしないように頑張りたいと思います。そのかわり、家では数学の勉強をできればいいかな、と。

さて、今回は「読解力」に関するお悩みです。「算数ができるようになるうえで、“国語力”は必要か」というのは皆さん知りたいところなのでしょう。実際、そういった質問をされることはよくあります。そういうわけで、今回はそのお悩みに答えていきたいと思います。

それでは早速行ってみましょう。

お悩み23:算数に必要な読解力

うちの娘は、算数の文章題が苦手です。どうも、問題文をよく理解しないまま計算を始めてしまって、まちがえているようです。ふだんから本もあまり読んでいないので、読書をもっとさせることも必要だとは思うのですが、遠回り過ぎるような気がして、どれだけ効果があるのか悩んでしまいます。本を読んでいれば、いずれ算数の文章題も解けるようになるのでしょうか。

(小学3年生・保護者)

さんすう力UPのポイント

算数の問題文を正しく読めるようになるには

子どもが問題を解いてまちがえているとき、「問題文がよく読めていない」ということはよくありますね。そういった子たちを見ていると、やはり「算数の問題を解くためには、“国語力”も必要ではないか」と考えるのは自然な発想です。ただ、だからと言って、漠然となんとなく本を読んだり読ませたりしてみても、それで算数の問題が解けるようになるわけではありません。まずは、「問題を読む」ということがどういうことか、そこから分析していきましょう。

問題が読めていない子の多くは、まず文字通り「問題を読めて」いません。たとえば、「5は10の何倍でしょう」という問題があったとします。割合の基本的な問題ですが、苦手な子も多い問題です。この問題の難しさ、というのは、またいくつかポイントがありますが、この問題をまちがえる子の多くは、「5 10 何倍でしょう」と“読んで”いたりします。つまり、「は」や「の」を読んでいない、意識の上に載せていない、ということです。

これは別に「算数が苦手」な子に限った話ではありませんが、そもそも、人間は文章を読むときに一字一句すべて拾っているわけではありません。とくに小説や物語を読むような場合には、ある程度細かい部分を読み飛ばし、拾った単語をつなぎ合わせ、自分の頭の中でストーリーを作っていきます。もちろん、その読み方が悪いというわけではなく、これもとくに小説や物語を読むような場合には、むしろそうやってある程度スピード感があるほうが場面をイメージしやすく、その読み方のほうが適しているでしょう。しかし、算数の問題を読むときには、その読み方ではいけません。「5は10の何倍でしょう」と「5を10にするには何倍すればいいでしょう」ではまったく違う問題です。「5 10 何倍 でしょう」だけを拾って自分の頭の中でつなぎ合わせてみても、正しい答えにたどり着けるかどうかは運次第になってしまいます。

算数の問題を解くために必要な“国語力”としては、まず「一字一句きちんと認識する読み方を身に着ける」というのがひとつの要素になるでしょう。その意味では、いわゆる「読書」は、算数の問題を読むトレーニングにはなりません。むしろ、一字一句正確に認識する練習のほうが必要なのです。いくつか方法はありますが、一番単純なのは、音読をする練習です。実際に子どもに音読させてみると、「てにをは」のような細かい部分については、読み飛ばして自分で補って読んでいることがよくわかります。まずは、そうやって音読をすることで、自分が認識している文章とのギャップを自覚したり、細部まで意識をめぐらせる姿勢を身に着けたり、というのが「問題文を読む」ための第一歩です。

必要な数値情報を整理できるようになるには

問題文を文字通り読むことができても、次は「出てきている数値情報の種類を把握する」というハードルがあります。そもそも「文章題」とは何か、という話なのですが、一般的には「いくつかの数値に対して文章で条件が与えられ、その関係を整理・計算して必要な数値情報を求める問題」を「文章題」と解釈すればいいでしょう。つまり、その「文章題」を解くには、まず「どういった数値について考えているのか」を把握する必要があるのです。たとえば、「公園に何人か子どもがいました。3人増えて10人になりました。最初に何人いましたか」というような問題であれば、「最初に公園にいた人数」「増えた人数」「最終的に公園にいる人数」が“登場人物”です。シンプルな問題であれば、それらを把握するのも難しくないですが、問題が複雑になるとそうはいきません。問題によっては明示されない情報も出てきます。たとえば「5%の食塩水100gと8%の食塩水200gを混ぜると何%になるでしょう」といった問題では、直接問題文に書かれている「混ぜる前の2種類の食塩水の濃度・重さ」以外に、「混ぜる前のそれぞれの食塩水に含まれている食塩の量」や「混ぜたあとの食塩水の量」「混ぜたあとの食塩水に含まれる食塩の量」なども“登場人物”としてカウントする必要があるのです。

「割合」や「速さ」、「濃度」(いずれも本質的には「割合」ではありますが)などの問題が難しい、と感じるのは、とくにこの「文章の中で明示されていない情報がある」という要素が大きいでしょう。これを解決するためには、単純に「算数の勉強」をするしかありません。「割合」の問題であれば、そもそも「割合」とは何なのか、どういう数値関係を考えているのか、ということについての理解を深めていくしかないのです。

複雑な構造の文を理解できるようになるまでには時間がかかる

もうひとつ、算数の問題をうまく「読めない」原因として、単純に「まだ理解する力が育っていない」ということもあります。たとえば「ある数に10を足す計算をしようと思いましたが、まちがえて10をかける計算をしてしまったところ、答えが30になりました。ある数は何でしょう」という問題があったとします。この文の中で、「実際にやったこと」は「ある数×10」ですね。しかし、そこに行くまでに「ある数に10を足そうとした」という条件が入っていると、「実際に何をしたか」の部分で混乱する子どもが少なからず出てきます。これは単純に成長段階の問題で、「仮定の話」や「時系列をさかのぼる話」などは、正しく理解できるようになるためにはある程度年齢を重ねなければいけない、ということでしょう。先ほどの問題でも、「ある数に10をかけると30になりました。この数に10を足すといくらになるでしょう」と書かれたらできる、という子どもはいます。算数の問題としての中身は一緒なので、「算数の力」が足りていないわけではない、というのが歯がゆいところです。こういったケースの場合、解決策は基本的には「子どもの成長を待つ」しかありません。その間に苦手意識をもたないよう、周りの大人が問題を言い換えてあげて、「算数としてはできている」ことを伝えていくしかないでしょう。

「問題文が読めていない」というのは、表面的にはわかりやすい問題なのですが、その原因となる要素は複雑に絡み合い、「これをすれば解決」という簡単な解決法はありません。子どもの様子を観察し、状況に合わせて適切にサポートしていけるのが一番いいのですが、ご家庭の中でそれをやるというのもなかなか難しいでしょう。ただ大事なことは、まず「問題を読む」というのは、結構難しいことである、と周りの大人が認識してあげることです。そうして、その難しいことにチャレンジしている子どもの気持ちに寄り添いながら、「一緒に問題を読んであげる」ことです。そうやって、お子さん自身が成長していく様子を、長い目で温かく見守ってあげてください。


いかがでしょうか。

いよいよ本格的に受験シーズンになってきましたね。中学受験はもうすぐクライマックス、大学受験もセンター試験が行われました。高校受験も、じきに入試が始まっていくでしょう。この時期に毎年思うことは、どの段階であっても「受験生」って本当にすごいな、ということです。自分にも「受験生」だった時期はあるので、手放しに持ち上げるのも何か違う気はするのですが、しかし大人になって「受験生」を客観的に見ていると、そのエネルギーや成長速度には驚かされてばかりです。もちろん、オトナから見るとまだまだ足りない部分はたくさんあるのですが、だからこそ逆に、一生懸命もがき、少しずつ成長していく姿が美しいのだと思います。受験がうまくいくことを陰ながら祈ってはいますが、それよりも何よりも、どういう結果がでたとしても、その先の人生が豊かになっていくだろうということは確信しています。保護者の方々も、どこかのタイミングで「受験生の保護者」になる機会があるとは思いますが、その際はお子さんの成長を温かく見守ってあげてください。

それではまた来月!

文:小田 敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

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