ブックトーク

『フランチェスコとフランチェスカ』

世代を超えて読み継ぎたい、心に届く選りすぐりの子どもの本をご紹介いたします。

波乱含みのカーニバル『フランチェスコとフランチェスカ』

ベッティーナ作・絵/わたなべ しげお訳/福音館書店/※版元品切れ重版未定

 英国で1962年に出版され、初めて邦訳されたのは1976年。それから20年以上も品切れの状態が続き、2013年に復刊されました。私も、6年前の復刊版までこの本を手にする機会はありませんでしたが、絵本から物語本に移行する2,3年生の子どもたちとともに幾度も楽しむうちに、陽気なカーニバルの一夜を素朴に語ったこのお話が好きになったのです。

 「ひとめで恋に落ちるなんて、フランチェスカはほんとうにとてもかわいかったんだろうなあ、と思いました」――この本を読んで小学校2年生の女の子はこんなふうに感想をもらしました。ほんとうに!と私は答えながら、およそ50年前に英国で出版されたこの本が、現代の日本の子どもたちにこうして受け容れられていることをうれしく思いました。主人公のフランチェスコの家は、靴も買えないほどに貧しく、彼はいつも裸足です。そんな主人公に今の子どもが共感できるだろうか、などとは大人の杞憂〈きゆう)に過ぎないのだと痛感します。子どもたちのわき上がる喜びがしっかり語られているなら、普遍性をもっていつの時代の子どもたちの心にも響くのだと再認したのでした。

 先に紹介した女の子の言葉通り、このお話は、カーニバルで活気づくミラノの街を舞台にした恋物語でもあるでしょう。淡い水彩絵の具と墨一色を使い分けて描かれる絵は、落ち着いた力強さを漂わせ、現実離れしたカラフルなお祭りの格調を伝えています。にぎやかなカーニバルの様子に心躍る表紙をめくると、サンドウィッチマンよろしく身体の前後に広告板を掲げたピエロ。その広告板には題名と作者、翻訳者名が記されています。こんな始まり方も、語られる幼い二人のロマンスも、またどこかさびしげな主人公の少年も、美しいイタリア映画を彷彿(ほうふつ)とさせます。『フランチェスコとフランチェスカ』という題名だってそうです。カーニバル――私がその喧騒(けんそう)とデコラティヴな町や人々に初めて目を奪われたのは、もちろん映画の中でした。その強烈な異国の香りは、波瀾(はらん)に富んだストーリーをいっそう劇的に盛り上げるのです。

 貧しい一途な少年フランチェスコが、靴屋のショウウィンドウの前で少女と出会い、恋い焦がれます。カーニバルで再会できたのもつかの間、別の少年と着ていた衣装を取り替えていたためにあらぬ疑いをかけられ、自由を奪われるフランチェスコ。彼は、今まで知らなかった大きなお屋敷の中をのぞいて見ることになりました。それぞれが仮装して街に繰り出すカーニバルならではのハプニングを通して、周囲の大人たちの個性も書き分けられています。最後のページに描かれたフランチェスコの赤い靴。それは、今回のカーニバルが『フランチェスコとフランチェスカ』にとっていかに特別で魔法のような幸せの一夜であったかの表徴なのでしょう。

 細く頼りない手足をしたフランチェスコが、「おれ」という一人称を使うのは新鮮でした。また、ヒロインのフランチェスカが、かわいいだけでないきちんと自己主張できる芯の強さをもった少女であるのも素敵です。

プロフィール

吉田 真澄 (よしだ ますみ)

長年、東京の国語教室で講師として勤務。現在はフリー。読書指導を行いながら、読む本の質と国語力の関係を追究。児童書評を連載するなどの執筆活動に加え、子どもと本に関する講演会なども行う。著書に『子どもファンタジー作家になる! ファンタジーはこうつくる』(合同出版)など。

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