小田先生のさんすう力UP教室

やってみる力を育てよう

さんすう力を高めるにはどうしたらいいの? まあ、そんなに難しく考えないで、まずはお子さまと一緒に問題に取り組んでみましょうよ。

 こんにちは、もうすぐ誕生日を迎える小田です。年をとるのは実に1年ぶりなので、ちゃんと年をとれるかどうか不安です。……というネタで毎回新年度を迎えているわけですが、さかのぼると本連載の前身である、2014年度の「おやこですんなりさんすう力UP計画」のころから同じことを言い続けていますね。そろそろ新しいネタを考えたほうがいいかもしれません。
 さて、初めての方ははじめまして、以前からご覧になっている方はいつもありがとうございます。本連載は今年度も変わらず、わたしがふだん子どもたちに解いてもらっている問題を紹介していきます。そして、それらの問題をなぜ子どもたちに解いてほしいのか、解いている最中にどういうふうに接していけばいいか、解いてもらうときに何を大事にしているか、なども解説していきます。保護者の皆さまがお子さまと一緒に問題を解く際に、何かしらお役に立てれば幸いです。以前からの連載といっても、毎回記事は独立しておりますので、今年度からの読者の方も、ご安心ください。
 それでは早速問題に行ってみましょう。

Stage25:やってみる力を育てよう

 図の□には、3、5、7、8、9 の数字が1回ずつ入ります。縦にならんだ3つの数字の和と、横にならんだ3つの数字の和が、等しくなるように数字を書きこんでください。

指導のヒント

 「指導のヒント」のコーナーは、実際にお子さまがこの問題を解いているときに、どう接したらいいのか、とくに苦戦しているときや上手くいかないときにどうフォローするのがいいのか、などを解説していきます。
 今回の問題では、まず問題の意味が理解できているかどうかを確認してあげてください(下のようにア~オとしたとき、ア+ウ+オがイ+ウ+エと同じになる、ということです)。「和」や「等しい」という言葉も、聞き慣れていないお子さまが多いので、わかっていないようであれば説明してあげてください(それぞれ、「合計」「同じ」という感じでだいじょうぶです)。

 どうやって解き進めればいいかわからず、とまどっているお子さまには、まず「数字を適当に入れてごらん」と声をかけてあげましょう。そして、入れてみた数字について、縦の3つをたせばいくらになる? 横の3つをたせばいくらになる? と聞いてあげてください。一致すればもちろん正解でいいですし、一致しない場合は、「ほかの入れ方も試してみよう」と促してあげます。
 お子さまが答えらしきものを作った場合は、それぞれ3つの数をたした答えを聞いてみます。それらの計算が合っていて、一致すれば、それが正解です。計算がまちがっている場合や、合計が一致しない場合は、その旨を指摘してあげてください。

解答

(裏返したり回転させたりした答えも正解です)

さんすう力UPのポイント

 「さんすう力UPのポイント」のコーナーでは、紹介した問題について、どういう「さんすう力」を主眼としているか、や、解いてもらうときどういうところに気をつけてほしいか、などを解説します。

 算数の学習を進めるうえでいちばん大事な力、というと、それは「考える力」だと思っている人も多いのではないでしょうか。もちろん、それはそれでまちがいではないのですが、「考える」という言葉は少し注意が必要な単語です。たとえば、その「考える力」を育てていくためにはどうすればいいか、具体的にイメージできますか。
 単純に難しい問題を解けば「考える力」がつくか、というと、そういうわけではありません。少し目先を変えた“オトナがおもしろいと思う問題”を解かせればいいか、というと、それも違います。たんに難しいだけの問題を子どもに解かせても、途中であきらめてしまい、かえって苦手意識を植え付けることにしかならないこともよくあります。また、“オトナがおもしろいと思う問題”も、「解き方を知って“なるほど”と思うタイプの問題」であれば、それを“考えて”解くのは子どもには難しく、やはり「算数って難しいな」と思われてしまうことでしょう。
 「考える」という言葉は、ずいぶん漠然としています。その中身を具体化しないことには、結局「オトナが漠然と思っている理想の状態」を子どもに読み取らせる、という、子どもにとっては不可能な課題、大きな負担を与えることになってしまうのです。
 子どもの勉強をみているときにかける言葉も同じです。「考える力」が大事、と思っていると、子どもに「考えなさい」と言ってしまいがちです。しかし、子どもが難しい問題を解いていて行き詰ったとき、「考えなさい」と言われて先に進むことができるでしょうか。問題を解いてまちがえたとき、「もっと考えなさい」と言われて正解にたどり着くことができるでしょうか。「考えなさい」と言われた子どもが思うことは、だいたいの場合、「考えるって何を?(どうすればいいの?)」ということでしょう。やはりここでも、「考える」という言葉の曖昧さが、子どもに負担を与える、という事態を引き起こすのです。

 その意味で、算数の学習を進めるとき、「考える力」よりも力点を置くべきなのは、やはり「やってみる力」です。今回の問題は、その「試行錯誤する力」を身につけてもらうための問題です。解き方がわからなくても、具体的に数字を入れていくことはできます。繰り返しいろいろな数字をあてはめてみることで、いずれ正解にたどり着くこともできます。行き詰ってもまちがっても、もっとほかのパターンも試してごらん、と言えば、少なくとも子どもが「何をやっていいかわからない」と感じることはないでしょう。そうやって、いろいろとやってみて、そのなかで正解したり何かに気づいたりした経験こそ、やがて「考える力」を育むための土台を作っていってくれるのです。

もっと問題

 図の□には、それぞれ決められた数字が1回ずつ入ります。縦にならんだ3 つの数字の和と、横にならんだ3つの数字の和が、等しくなるように数字を書きこんでください。

  • 解答

(それぞれ裏返したり回転させたりした答えも正解です)


 いかがでしょうか。おかげさまで、本連載も3年目に突入です。新しい年度の初めということで、まずはわたしがいちばん大事だと考えている、試行錯誤の話からでした。試行錯誤する、ということは、その過程でたくさん失敗もする、ということです。そばで見ている保護者の方にとっては、もっとこうすれば上手くいくのに、と、歯がゆく感じる瞬間も多いでしょう。しかし、そこで口を出してしまってはいけません。失敗した経験とうまくいった経験と、両方を積んでこそ、新しい課題に出合ったときに「何をやれば上手くいきそうか、失敗しそうか」を自分で判断できるようになるのです。お子さまが成長する糧を得ているんだ、ということで、温かく見守ってあげてください(ただし、途中で心が折れそうになっていたら励ましてあげてください)。
 それではまた来月!

文:小田・敏弘(おだ・としひろ)

数理学習研究所所長。灘中学・高等学校、東京大学教育学部総合教育科学科卒。子どものころから算数・数学が得意で、算数オリンピックなどで活躍。現在は、「多様な算数・数学の学習ニーズの奥に共通している“本質的な数理学習”」を追究し、それを提供すべく、幅広い活動を展開している(小学生から大人までを対象にした算数・数学指導、執筆活動、教材開発、問題作成など)。

公式サイト:http://kurotake.net/

主な著書

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