子どもと楽しむ料理の科学

片栗粉と小麦粉の使い分け 唐揚げの衣に使うのはどっち?

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

もう迷わない!片栗粉と小麦粉の使い分け 仕上がりの食感に注目

汁物や煮込み料理のとろみ付けや、揚げ物の衣に使われる粉。料理の種類や求める仕上がりによって、片栗粉が使われたり小麦粉が使われたりしますが、このふたつにはどのような違いがあるのでしょうか。
それぞれの成分や性質の違いがわかると、好みに合わせて使い分けることができますし、用途によって代用できる場合とそうでない場合とを判断できるようになるはずです。
今回は片栗粉と小麦粉の特徴と使い分けについて、唐揚げの衣を例に挙げて解説します。

片栗粉と小麦粉の違い

片栗粉は、主にじゃがいもからデンプンを取り出して粉にしたもの。したがって主成分はデンプンです。デンプンは、水と一緒に加熱すると膨らんで、とろみのある糊状に変化します。これをデンプンの「糊化(こか)」と言います。

片栗粉の衣をつけた鶏肉を油で揚げると、デンプンが水分とともに加熱されて糊化し、水分を含んだゆるい網目が鶏肉を覆います。さらに加熱が進むと網目の隙間に入り込んでいた水分が蒸発し、サクサクとした食感の衣になります。

一方、小麦粉は小麦を挽いて粉にしたもので、デンプンのほかにタンパク質を8〜12%含んでいます。小麦粉のタンパク質は主にグリアジンとグルテニンという2種類で構成されていて、これらに水を加えてこねると粘り気と弾力のある「グルテン」という網目構造が作られます。小麦粉を使ってパンや麺の生地を作ると、生地が切れることなく膨らんだり伸びたりするのは、このグルテンのおかげです。

唐揚げの衣に小麦粉を使う場合、まず、グルテンの網目が鶏肉の表面をしっかりと覆います。これを油で揚げると、片栗粉のようにデンプンのゆるい網目ができ、水分が蒸発するのと同時に、グルテンの頑丈な網目が熱によって固められます。そのため、表面がしっかりと衣で覆われ、薄い部分はしっとりやわらかく、厚い部分はガリッとした衣になります。なお、グルテンが多すぎると、衣がもっちりとして水分が蒸発しにくく、カラッと揚がらないので、グルテンの量が比較的少ない薄力粉を使いましょう。

このように、片栗粉と小麦粉では含まれる成分が違うため、出来上がりの食感にも違いが生じます。サクサクとした衣が好みの人は片栗粉の衣をつけ、しっとりやわらかい衣が好みの人は小麦粉の衣を薄めに、ガリッとした衣が好みの人は小麦粉の衣を厚めにつけるのが良いでしょう。

片栗粉だけだと衣が絡みにくく、時間が経つとべたっとして食感が悪くなりやすいので、片栗粉のサクサク衣が好きな人は、小麦粉の衣をまぶした上に片栗粉を重ねて使うのがおすすめです。

唐揚げの衣に使う粉は……
好みによって、使い分けるとよい。片栗粉を使うとサクサクとした食感、小麦粉を使うとガリッとした食感になります。

作り方/レシピ



鶏肉の唐揚げ

■材料(2人前)
鶏もも肉 1枚(300g程度)
<漬けダレ>
おろし生姜 小さじ1
醤油 大さじ1
酒 大さじ1
砂糖 小さじ1
薄力粉 大さじ4 または 薄力粉 大さじ2、片栗粉 大さじ2
油 適量
レモン お好みで

1.鶏肉の下ごしらえ

鶏肉を4cm角に切り、ボウルに入れる。調味料を加え、全体に絡むように手で混ぜ合わせる。

 

2-a.衣をつける(しっとり&ガリッと唐揚げ)

薄力粉大さじ4を振り入れ、粉っぽさがなくなるまで手で混ぜ合わせ、全体に衣をつける。

 

2-b.衣をつける(サクサク唐揚げ)

薄力粉大さじ2を振り入れ、粉っぽさがなくなるまで手で混ぜ合わせ、全体に衣をつける。バットに片栗粉大さじ2を広げ、薄力粉の衣をまとった鶏肉に片栗粉をまぶす。

3.揚げる

深めのフライパンまたは揚げ鍋に、油を深さ2〜3cm程度まで注ぎ、160〜170度に熱する。鶏肉を入れ、ときどき上下を返しながら2分ほど揚げる。

火を強めて180度前後まで熱し、衣がこんがり色づいたら取り出して網の上で油をきる。お皿に盛り、お好みでレモンを添えてできあがり。

片栗粉の衣の欠点と解決方法

片栗粉の衣は、サクサクとした食感が魅力なのですが、少々欠点があります

まず、時間が経つとべったりとして食感が悪くなりやすいということ。一度糊化した後で水分が蒸発したデンプンは、水分を吸収してもとの糊化した状態に戻りやすいという性質があります。そのため揚げた後しばらく放置しておくと、鶏肉の肉汁を吸ってふやけてしまい、糊状のべたっとした衣になってしまうのです。

次に、水溶き片栗粉をイメージしていただくと分かりやすいと思いますが、生の片栗粉は水に溶けないので、肉に衣が絡みにくく、揚げた後もはがれやすいという性質です。一方、小麦粉のグルテンは水となじみやすく、加熱前から粘り気があるため、肉によく衣が絡み、揚げた後もはがれにくいのです。

このような片栗粉の欠点を補いつつ、サクサクとした食感を楽しむには、小麦粉と片栗粉のダブル使いがおすすめです。まず、鶏肉と調味料を合わせたところに小麦粉を加えて衣をつけてから、その上に片栗粉をまぶして揚げます。こうすると、小麦粉の衣の外側に片栗粉がしっかりとつくのではがれにくくなります。また、片栗粉の衣と鶏肉の間に、グルテンを含む小麦粉の層ができるため、片栗粉の衣がふやけにくく、時間が経ってもサクサクとした食感を楽しむことができます。

9/24(木)更新の次回では、「もちもち!手作りうどん」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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