親と子の本棚

ステイホーム

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

「ウチで楽しもう」

『ウォッシュバーンさんがいえからでない13のりゆう』より

新型コロナウイルスの感染拡大がおさまらない。緊急事態宣言下のことしのゴールデンウィークは、東京都などが「STAY HOME週間」だとして、外出を自粛して、「ウチで楽しもう」と呼びかけた。
中川ひろたか・高畠那生の絵本『ウォッシュバーンさんがいえからでない13のりゆう』のとびらには、ある家の赤いドアが描かれている。ドアは閉まっている。――「ウォッシュバーンさんは おうちから いっぽも そとに でません。なぜかって? ウォッシュバーンさんは いうのです。」
そこで、家のドアを開けるように、絵本のとびらを開けると、「だって そとに でたら ドアに はさまれるかも しれないじゃない。」緑色のポロシャツに青いズボン、黒いスニーカーのウォッシュバーンさんが、赤いドアを開けて家を出ようとしたら、開けたドアに後ろからはさまれてしまった絵が描かれている。ウォッシュバーンさんは、あごをぶつけて、いたそうだ。
ウォッシュバーンさんがはさまれている、そのドアを開けるように、絵本のページをめくると、「だって そとに でたら げんかんさきの いしに つまずくかも しれないじゃない。」家を出ようとしたウォッシュバーンさんが、一歩外に出た、すぐそこの石につまずきそうになる、スニーカーの足もとが描かれる。
また、ページをめくると、「だって そとに でたら かきのみが おちてくるかも しれないじゃない。」大きな柿の実が二つ、ウォッシュバーンさんの頭上に落ちてくる絵。
ウォッシュバーンさんは、自分が家から出ない理由をつぎつぎと述べ立てる。その理由は、だんだん、ありえないものになっていくのだけれど……。

絵描きのさそい

森環の絵本『本屋のミミ、おでかけする!』のミミも、なかなか外に出ない。
とある町の商店街のコーヒーショップの裏に小さな看板がある。――「階段を おりると、町に ひとつだけの 本屋さんがあります。ちょっと おりてみましょうか。」
なぜ、地下に本屋さんがあるのか。めずらしい本や古い本がいたまないように、日のあたらない地下に店をかまえたという。主人のおじいさんも、孫むすめのミミも、頭にライトをつけて働いている。ミミは、本が大好きだ。ミミは、本屋のあるアパートの上の部屋で、おじいさんと暮らしているから、建物から出ない。――「本って ステキだわ。本を 読めば、外に いかなくても 世界中の いろいろな国に いけるし、いろいろな人に 会えるもの」
ミミは、ひとりの絵描きと親しくなっていく。地下書店にかざってある、いくつかの絵の作者だ。――「ふしぎな絵だわ。かわいいけど、すこし こわいけど、でも やっぱり きれいだわ」絵描きは、おじいさんの友だちで、おじいさんが、その絵を気に入っているのだ。彼は、ときどき、ミミに声をかける。――「ねえ ミミ、きょうは いい天気だよ。たまには 外に 出て、ふたりで スケッチしない?」でも、ミミは、聞こえないふりをする。

家にいたまま、町に出る

村上慧『家をせおって歩く かんぜん版』のとびらにあるのは、むこうで大きく右にまがる道路の写真だ。白線の外の歩行者のスペースを歩いているのは、小さな一軒の家である。
何だろうと思って、とびらを開けると、今度は、公園のなかを家が歩いている。――「このおもちゃのような家は私の家です。私は自分の家を発泡スチロールで作り、そこに住むということをしています。」これが「はじめに」の見開きで、「家の紹介」「持ち物の紹介」とつづく。軽くて加工しやすく、断熱効果もある発泡スチロールの家は、間口80センチメートル、奥行き120センチ、高さは150センチだ。著者は、家のなかに入って、家をかついで移動する。つぎの「土地を探す」や「間取り図を描く」の見出しのページには、こうある。

家に住むために一番大切なことは眠ることです。でもこの家で眠るためには、家を置く土地を借りる必要があります。公園や道路に勝手に家を置くことはできません。

土地を借りたら、私の家にはお風呂もトイレもないので探しに出かけます。手ぶらで知らない町を歩くのはわくわくします。もうちゃんと帰る家もあるのです。土地を借りられた家はもう「せおって歩くもの」ではなくて「帰る場所」になるのです。
トイレやお風呂を見つけたら、私はそれを間取り図として描いています。町全体を大きな家として考えるのです。

本には、著者が2014年4月から1年ほどのあいだに家を置いた土地180か所の写真ものっている。住宅の軒先や駐車場などなどである。東京から埼玉、茨城、福島、宮城、岩手……と各県を歩いたようだ。ステイホームのままの長い旅である。

今月ご紹介した本

『ウォッシュバーンさんがいえからでない13のりゆう』
作・中川ひろたか、絵・高畠那生
文溪堂、2020年
ウォッシュバーンさんが家から出ない、おしまいの13番めの理由は何だろう。

『本屋のミミ、おでかけする!』
森 環
あかね書房、2020年
絵本の後半には、ミミがとうとう外に出ることになった理由が書かれている。ミミは、頭のライトをはずして出かける。絵本の画面が少しずつ明るくなっていく。

『家をせおって歩く かんぜん版』
村上慧 作
福音館書店、2019年
著者が大阪に家を置いていたとき、家をせおって歩くことに関心をもった、小学2年生の男の子が両親といっしょにたずねてきたという。――「なんと彼はせおって歩ける自分用の家を作っていました。ちゃんと自分が眠れるサイズで作られていて、よくできていました。彼はまだこの家で寝たことがなかったので、自分が作った家の中で一晩寝てみることをすすめました。」

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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