親と子の本棚
なんじゃらもんじゃら
2020.10.22
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子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。
友だちは怒っている
『なんじゃらもんじゃら ともだち』は、西沢杏子の新しい詩集だ。
巻頭の「れんげの花さく帰り道」は、「けんかしてしまった/けんかしてしまった」(第1連)と書き出される。――「あいつ いまごろ/どこらを帰っているだろうか/あいつの帰っているところにも/れんげの花が さいているだろうか」(第2連)
けんか別れした友だちは、やっぱり怒っているのか。つぎは、2番めの詩「なんじゃらもんじゃらトモダチ」の第1連と第2連。
カ ぶんぶん
ハチ ぶーんぶん
トモダチ ぷんぷんおこってるトモダチは
なんじゃらもんじゃら
詩集の表題にもあることばだけれど、「なんじゃらもんじゃら」とは何か。どこかの方言で「なんだかんだ」(あれやこれや、あれこれ、いろいろ)のことだろうか。しかし、「なんじゃらもんじゃら」と口に出していってみると、口のなかが急におもしろい感じになって、意味のことなど、わすれてしまう。
詩集の第1部は「ともだち」で、第2部は「なんじゃらもんじゃら歌」。第2部の最初が「わたしのなかの ぴょんぴょん虫」、つぎは「ドリアン・バナナ・マンゴスチン」だ。どの詩も、口の中がおもしろくなる。
仲がよいのはどうしてか
加瀬健太郎『ぐうたらとけちとぷー』、これも、となえたくなるタイトルだ。そして、これも、友だちの話。
3人が登場する。まず、めんどうくさのすけ。
めんどう くさのすけは、なまえの とおりの めんどくさがりや。なにを するにも 「めんどくさ~い めんどくさ~い。」と いって、なにも しないで ぐうたらざんまい。
くさのすけが5歳のとき、起きるのがめんどくさくて、三日三晩眠りつづけた。4日めになると、「もう ねるのが めんどくさ~い。」といって起きてきたという。
ふたりめは、せこいやジャクソン。何をするにも、せこくて、「もったいな~い、もったいな~い。」もったいなくて、生まれてこのかた、自分のおもちゃで遊んだことがないという。
3人めは、へこいたろう。近ごろは、おかあさんのプーこが何か聞くと、「プー、プップー」と、おしりのかたちを変えて、へで返事ができるようになった。
くさのすけとジャクソンとこいたろうの3人は、さるやま小学校の1年こざる組で、仲がよいのだ。いったい、どうしてだろう。ある日、3人は、公園へ遊びに行く。
3人の話
3人が登場する『ぐうたらとけちとぷー』は、まるで昔話か落語のようだ。昔話なら、グリム童話の「三人兄弟」(貧乏な父親と3人の息子の話)、「ものぐさ三人兄弟」(王様は3人の王子の誰を跡つぎにするか)、落語なら、「片棒」(けちで一代で財産をきずいた吝兵衛(けちべえ)が3人のせがれの誰にそれをゆずるか)などを思い出す。昔話も落語も、文字で書かれたものではなく、語り聞かせるもので、語るその声は、すぐに消えてしまう。3人のことを繰り返して語ることよって、聞き手に念を押していくのだろう。
松岡享子編・訳『子どもに語る イギリスの昔話』には、「三人ばか」がのっている。
昔むかし、あるところに、百姓の夫婦が住んでいました。二人には、娘が一人あって、その娘は、近々ある身分のよい男と結婚することになっていました。男は、毎晩娘に会いにやってきて、百姓のうちで晩ごはんを食べていきました。
ところが、男は、娘とその両親があまりにも愚かなのにあきれて、こういう。――「わたしは、これから、また旅に出ます。そして、あんたがた三人より、まだひどいばかを三人見つけたら、もどってきて、娘さんと結婚することにしましょう」はたして、男は、村に帰ってくるのだろうか。
今月ご紹介した本
『西沢杏子詩集 なんじゃらもんじゃら ともだち』
装挿絵 北村麻衣子
てらいんく、2020年
口ずさめば楽しい詩ばかり30編あまりが収められている。
巻末の初出一覧を見ると、最初、学研の学習雑誌に発表されたものが多いことがわかる。
雑誌の読者の子どもたちにむけて書かれたのだろう。
『ぐうたらとけちとぷー』
加瀬健太郎 作、横山寛多 絵
偕成社、2020年
公園のブランコで、3人は、ただすわっている。くさのすけは「あし うごかすの めんどくさ~い。」と、こがないし、ジャクソンは「はらが へったら もったいないわ。」と、すわったままだし、こいたろうは、こげば、へが出そうなのだ。3人のブランコは、ちっとも動かない。
『子どもに語るイギリスの昔話』
松岡享子編・訳
こぐま社、2010年
16編の昔話が収録されている。どれも、ジョセフ・ジェイコブズの2冊の『イギリス昔話集』(1890年、1894年)からとったものだ。
プロフィール
宮川 健郎 (みやかわ・たけお)
1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。