親と子の本棚

村の家、村の祭り

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

十六羅漢

『やとのいえ』より

八尾慶次の絵本『やとのいえ』の表紙には、かやぶきの家が描かれている。
表紙をめくると、とびらには、お地蔵さんが、数えると16体描かれている。どれも、おだやかなお顔で、どれも、体の前で手を合わせている。16体ということは、地蔵ではない。十六羅漢だ。十六羅漢は、「永くこの世にあり正法を護持し衆生を導くという一六人の羅漢」。これは、『大辞林』第四版の説明で、つづけて、賓度羅跋羅惰闍(ひんどらばらだしゃ)をはじめ、羅漢の名前16も書かれているが、それは省略。この羅漢さんたちは、表紙の家の前にいたものだ。
とびらを開けると、大きな横長の見開きに田園の風景が広がる。

あるところに、なだらかな おかと たにが つづく、やと という ちけいを ひらいてできた 村が ありました。
田んぼのせわや はたけしごとは、らくでは ありませんでしたが、村の人が、このおだやかな日々が つづくようにと、ぼくたちを 石の中から ほりだして、みちばたに おいてくれました。

そうして いえが たち、新しい かぞくが やってきました。
ぼくたちは ここに たたずみ、ゆたかな やとの くらしを 見つめます。

石のなかから彫り出され、村のくらしを見つめる「ぼくたち」は十六羅漢で、やと(谷戸)とは浅い谷のことである。最初のこの見開きには、1968年(明治元年)12月ごろと記されている。
つぎの見開きは1892年(明治25年)1~2月ごろ、つぎは1926年(大正15年)3~4月ごろとつづく。どの見開きも、左ページに十六羅漢が描かれ、右ページには、その時期の村の家とまわりのようすが描かれる。縁側で編んだ目かごを大八車にのせて大きな町まで運ぶ人たち、炭を窯から取り出して売りに行く人たち、丘の畑に植えるサツマイモの苗を育てる人たち……。季節は、めぐっていく。

祭りの子ども

1955年(昭和30年)8月ごろの見開きは、夏祭りだ。20人近い男の人たちが大きな神輿をかついで、家の前の道をとおる。子どもたちが神輿を追いかけていく。――「わっしょい わっしょい わっしょい わっしょい。たかなる 気もちと かけごえが、やとの けしきに こだまします。」羅漢さんたちの頭の上には、鳥やカブトムシが飛んでいる。
ゼリーナ・ヘンツアロイス・カリジェ『ウルスリのすず』は、スイスの冬の祭りの絵本。主人公は、小さな男の子のウルスリで、描かれるのは、村の鈴行列の祭りだ。――「鈴をならして、冬をおいだし、はれやかな歌声をひびかせて、またくる春を、よろこび、むかえます。」
あすは鈴行列の祭りだから、ウルスリは、鈴を借りに行く。大きな鈴がもちたくてならんだのに、みんなに引っばられ、つきとばされて、ギアンおじさんからもらったのは、一番小さい鈴だった。
「ほーれ、ほれ、ちびっこ鈴のウルスリやい。あしたは、行列のびりっこけ。ひとりで、ぽつんとついといで!」――まわりの子たちにはやしたてられて、ウルスリは、しょんぼりしてしまう。行列の先頭で大きな鈴をふり立てて、村の家々をまわりたかったのに……。そのお返しの木の実や肉やおかしを鈴いっぱいに入れてもらいたかったのに……。
ウルスリが思いついたのは、夏の山小屋のクギにずっと前からかかっていた大きな鈴のことだった。ウルスリは、深い森もせまい橋もこえて、雪のなかを進む。たどりついた小屋の戸には、かぎがかかっていたから、低い窓から、もぐり込む。小屋には、たしかに大きな鈴があったけれど、つかれはてたウルスリは、小屋にあったパンを食べ、わらのベッドで、ねむってしまう。

春をむかえる

八百板洋子・垂石眞子『あっくんとデコやしき』も、春をむかえる絵本だ。絵本の舞台は福島の三春の町、春になると、梅と桃と桜がいっしょに咲き出す。
三春は、古くから、デコという張り子の人形でも知られている。あつおのとうさんは、デコやしきと呼ばれる仕事場で、人形をつくっている。春は、花を見に来る人たちでデコやしきもにぎわう。
「あっくん、ちょっこら とうちゃんに ゆうごはん とどけてきてくれねか」――かあさんに重い弁当のつつみを渡されたあつおは、デコやしきに泊まり込みで仕事をしている、とうさんのところへ出かける。土手を歩いているとき、顔にかかった桜の枝を折って、ふりまわしながら行く。
デコやしきに着いたとき、あたりは、もううすぐらくなっていた。てんぐの形のちょうちんの明かりがゆれて、木のかげが大きくなったり、かすんだりしている。「とうちゃん、べんとう もってきたよ」――入口で呼んでも、返事がない。やがて、棚にならんでいるデコの目がぼんやりと光り出す。

今月ご紹介した本

『やとのいえ』
八尾慶次
偕成社、2020年
1969年(昭和44年)11月ごろの見開きでは、羅漢さんそばにチェーンソーが置かれている。秋の色づいた木々が切りたおされ、谷戸を見守ってきた神社も取りこわされた。開発がはじまったのだ。1973年(昭和48年)12月ごろ、羅漢さんの後ろにあるのは、黄色いブルドーザーだ。丘をけずった土で小川や谷が埋められていく。
絵本には「あるところ」と書かれているが、巻末の解説によれば、モデルは多摩丘陵で、現在の多摩ニュータウン地域だという。

『ウルスリのすず』
ゼリーナ・ヘンツ 文、アロイス・カリジェ 絵、大塚勇三 訳
岩波書店、2018年
山小屋の大きな鈴の音は、すみきって、よくひびく。「へえー? ちびっこ鈴のウルスリだって?」「あしたは、みんな、目をまるくするぞ!」――ウルスリは、思わず笑い出す。
ところが、おとうさんとおかあさんは、ウルスリの帰らない夜を眠らずにすごしたのだ。

『あっくんとデコやしき』
八百板洋子 文、垂石眞子 絵
福音館書店、2020年
デコやしきに、たどり着いたあつおの目の前に着物の女の人があらわれて、こわい顔でいう。――「おまえ、さくらの えだを おったね」虎も、そして、龍も出てきて、いうのだ。――「ゆるしてもらいたければ そのべんとうを よこせ――――!」

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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