子どもと楽しむ料理の科学

サツマイモが甘くなる加熱のコツ

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

秋の味覚 サツマイモ

秋も深まり寒さが厳しくなってくると、サツマイモがおいしい季節がやってきます。サツマイモの収穫は8〜9月頃から始まりますが、収穫後2カ月ほど寝かせることで甘味が増すため、焼き芋やふかし芋にしておやつに食べるなら晩秋から冬にかけてがおすすめです。

また、サツマイモの甘味は加熱中にも増加します。加熱方法によって甘味の増し方に差があるので、用途に合わせて使い分けるとよいでしょう。

今回は、サツマイモの加熱と甘味について、科学的に解説します。

サツマイモが甘くなる仕組み

加熱によってサツマイモが甘くなるのには、サツマイモの主成分であるデンプンと、サツマイモに含まれる「アミラーゼ」という酵素が関係しています。

デンプンは、ブドウ糖という小さな粒が鎖のように長く連なってできています。アミラーゼにはこれを細かく切って、ブドウ糖が二個つながった「麦芽糖」や三個以上つながった「オリゴ糖」という糖を作り出す作用があります。麦芽糖は水飴の主成分でもあり、砂糖の1/3程度の甘味があるため、アミラーゼをよくはたらかせることで蜜を染み込ませたような甘いサツマイモにすることができるというわけです。

アミラーゼを活用してサツマイモを甘くするのには二つのポイントがあります。一つはデンプンが「糊化(こか)」した状態でアミラーゼをはたらかせること。もう一つは、アミラーゼが壊れずにはたらく温度を長く保つことです。

デンプンは水と加熱すると、やわらかい糊状になります。これを糊化と言います。加熱していないデンプンは鎖同士がぎゅっと詰まっていて酵素が入り込むことができないのですが、加熱することで鎖と鎖の間に隙間ができて水が入り込み、アミラーゼがはたらきやすい状態になります。

サツマイモのデンプンが糊化を始めるのが65〜75℃あたりから。一方、アミラーゼは80℃を越えると壊れてはたらかなくなってしまいます。したがって65〜80℃の温度帯がなるべく長くなるように加熱すると、アミラーゼが最大限にはたらき、甘味の強い仕上がりにすることができるのです。

じっくり加熱で甘くなる

サツマイモといえば石焼ですが、これはまさに65〜80℃を長く保つ加熱方法。石焼き芋がおいしいのにはちゃんと理由があったのです。また、低温のオーブンで1〜2時間かけて焼いても、かなり甘く仕上げることができます。

丸ごと加熱するのもポイントです。大きい塊で加熱すると、中までゆっくりと熱が伝わるので、その分アミラーゼがよくはたらきます。

逆に、小さく切ったり電子レンジで加熱したりすると、素早く火を通すことができる反面、甘くなる温度帯をすぐに過ぎてしまうので甘くなりません。煮物や炊き込みご飯などの料理には便利ですが、おやつに甘く食べたい場合は丸ごとじっくり時間をかけて調理しましょう。

オーブンがない場合は蒸し器やフライパンを使って弱火でじっくり蒸すのもおすすめです。オーブンほど甘くはなりませんが、程よく水分が残り、しっとりとした仕上がりになります。オーブンよりも温度の上がり方が早いので、なるべく太くて大きい芋を選ぶとよいでしょう。

サツマイモが甘くなる加熱のコツは……

アミラーゼが最大限にはたらくように、65〜80°Cを保って⻑く加熱すること

作り方/レシピ


オーブンであま〜い焼き芋
 

■材料

サツマイモ

 

作り方

1.下準備

オーブンの天板にオーブンシートかアルミホイルを敷いて、その上によく洗ったサツマイモを皮ごとのせる。

 

2.焼く

140に予熱したオーブンに入れて1〜2時間加熱する。串を刺してスッと通るようになったら出来上がり。

 

フライパンであま〜い蒸かし芋

材料

サツマイモ(300g以上の太めのものがおすすめ)

1.下準備

アルミホイルを長さ20cmに切り、幅5cmに畳む。これをくるくると巻いて太さ1cm、長さ5cm程度の棒を作る。サツマイモ1個につき2本用意し、フライパンに並べる。

 

2.蒸す

アルミホイルの棒の上に、よく洗ったサツマイモを乗せ、サツマイモがつかないギリギリまで水を注ぎ入れる。蓋をして中火で加熱し、沸騰したら弱火にして30〜60分蒸し焼きにする。串を刺してスッと通るようになったら出来上がり。

 

甘く仕上がったサツマイモはそのまま食べてももちろんおいしいのですが、温かいうちにバターをのせてシナモンをふりかけると、スイートポテト風のデザートに。多めに焼いておいて、当日は焼きたてをそのまま食べ、翌日は電子レンジで温め直してアレンジして食べるのもおすすめです。 

また、冷凍もできるので、余った分は輪切りにしてチャック付きポリ袋などに入れて冷凍庫に入れておくと便利です。電子レンジ解凍してホクホク温かい状態で食べるのもよいですし、冷蔵庫で半解凍すればアイスのようなひんやりスイーツとして食べることもできます。

 

こんなところにもアミラーゼ

アミラーゼとは、デンプンを分解して糖に変える酵素の総称ですが、サツマイモに含まれるβ-アミラーゼとは別に、α-アミラーゼと呼ばれるものもあります。β-アミラーゼは主に植物や微生物中に見られる酵素ですが、α-アミラーゼは動物にも存在し、私たちの唾液にも含まれています。

ご飯を口に入れてよく噛んでいると、だんだんと甘味を感じられるようになってきます。これは、お米のデンプンが唾液中のα-アミラーゼによって分解されて麦芽糖やオリゴ糖になるためです。口の中で食べ物を噛み砕きながら唾液と混ぜ合わせることで、食べ物に含まれるデンプンを分解し、吸収しやすい形へと変えているのです。

 片栗粉などでとろみをつけたあんかけやスープを食べているうちに、とろみがなくなってサラサラになってしまうことがありますが、これもアミラーゼによる現象です。箸やスプーンについた唾液が料理に混ざり、唾液中のアミラーゼによって、とろみのもととなるデンプンが分解されてしまうのです。

11/26(木)更新の次回では、「放っておくだけで簡単!失敗しないローストビーフの科学」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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