子どもと楽しむ料理の科学

放っておくだけで簡単!失敗しないローストビーフの科学

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

炊飯器で作るローストビーフ

クリスマスや年末年始のごちそうにローストビーフはいかがでしょうか。作り置きでもおいしく食べられるので、当日の昼間や前日の時間があるときに作っておけば、品数や人数の多いおもてなしにも便利です。
さて、ローストビーフというと、火の通し加減が難しいというイメージを持っている人も少なくないのではないでしょうか。ローストビーフは、外側は焼けた肉の灰褐色、内側はほどよいピンク色、それでいて生ではない状態が理想です。しかし、火を通しすぎないようにと加熱を抑えた結果、中心が生のままになってしまったり、逆にしっかり火を通そうとしすぎてピンク色の部分がなくなってしまったり……。特別な日の料理ほど失敗したくないものですよね。
肉料理を失敗なくおいしく仕上げるには、加熱時に肉の中で何が起きているのかを知ることが近道です。今回は肉のタンパク質に着目し、失敗しないローストビーフの作り方について紹介します。

 

肉の中で何が起こっている?

肉を加熱すると、肉に含まれている様々なタンパク質が変化して色や食感に影響が出ます。

肉の赤色やピンク色は、主に「ミオグロビン」という色素タンパク質によるもので、血液から酸素を受け取って筋肉の隅々まで行き渡らせるはたらきをしています。このタンパク質は熱によって壊れやすく、70~80℃で赤色から灰褐色、すなわち焼いた肉のような色に変わってしまいます。したがって、ローストビーフの内側をピンク色に仕上げるには、肉の内部がこの温度を越えないように加熱する必要があるのです。

内側がピンク色になるよう加熱すると、食感の面でも良いことがあります。これには、筋肉の繊維を構成するタンパク質が関係しています。

私たちが普段食べている肉は主に動物の筋肉の部分です。筋肉は筋繊維という細長い細胞がたくさん集まり、薄い膜で束ねられてできています。筋繊維を構成するタンパク質は熱によって固まるため、45〜60℃の間に徐々に食感が変化します。生の肉はやわらかくグニャグニャしていますが、このタンパク質が固まることによって、歯でさっくりと嚙み切れる「火が通った」状態になるのです。また、生肉の状態では、水分がタンパク質と結びついているので噛んでも肉汁が出ませんが、タンパク質に火が通ることで水分が自由に動けるようになり、噛んだ時に肉汁がじわっとにじみ出るジューシーな状態に変わります。

さらに加熱が進み65℃を超えると、筋繊維を包んでいるコラーゲンの膜がぎゅっと縮んで硬くなり、水分が絞り出されます。肉を加熱しすぎると硬くなったりパサパサしたりするのはこのためです。この変化は温度が高くなるほど大きくなるので、肉をしっとりやわらかく仕上げるには、内部の温度が70℃以下になるように加熱するとよいでしょう。

失敗しないローストビーフの裏技

以上を踏まえると、肉の中が60〜70℃程度になるよう加熱するのがおいしいローストビーフの秘訣なのですが、そう言われてもその通りに加熱するのはなかなか難しいですよね。

そこで便利なのが炊飯器です。炊飯器の保温機能はちょうど60〜70℃程度を維持するようになっているので、中にお湯を張って、表面に焼き色をつけた牛肉を湯煎すると、肉を加熱しすぎることなく中まできちんと火を通すことができます。正確には「ロースト」していないのでなんちゃってローストビーフですが、簡単かつ確実に、おいしく仕上がるのでオススメです。

失敗しない簡単ローストビーフの作り方とは……

炊飯器の保温機能を使って、60〜70℃程度を維持しながら火を通す!

作り方/レシピ


失敗なし!炊飯器で作るローストビーフ

■材料(2〜3人分)

牛もも肉(ブロック) 300g程度
塩 小さじ1/2(3g、牛肉の1%程度)
おろしにんにく 小さじ1/2
粗挽き黒胡椒 少々
サラダ油 小さじ1

 

<ソース>
たまねぎ 1/4個
醤油 大さじ1
みりん 大さじ1
サラダ油 小さじ1/2

 

付け合わせの野菜(ベビーリーフ、ミニトマト、パプリカの薄切りなど) 適量
ワサビ お好みで

 

作り方

1.下ごしらえ

牛もも肉に塩、おろしにんにく、粗挽き黒胡椒をすり込む。
そのまま室温で1時間なじませる。

※牛肉のかたまりが分厚くなると、火が通るのにかかる時間が長くなるので、厚さ4〜5cm程度のものを使うのがオススメです。たくさん作る場合は、5cmよりも厚くならないよう適宜肉を切り分けて使ってください。

 

2.炊飯器の準備をする

5合炊きの炊飯器の場合、内釜の3合のところまで熱湯を入れ、さらに4合のところまで常温の水を足す。(他の大きさの炊飯器の場合は、熱湯と水を3:1の割合で合わせて、肉がつかる程度の深さまで注ぐ)
保温ボタンを押し、蓋をしておく。

 

3.肉を焼く

フライパンにサラダ油をひいて強火で熱し、肉の表面にさっと焼き色をつける。
全ての面に焼き色がつくように向きを変えながら、各面2〜3秒程度焼けばOK

 

4.袋に入れる

粗熱がとれたらチャック付きのポリ袋に入れ、袋が肉にぴったりくっつくように、しっかりと空気をぬく。
(空気をだいたい抜いたら、最後の仕上げは水を張ったボウルを使うと簡単です。チャックを1/4程度開けた状態で、袋の口が水につからないよう注意しながら、肉が入っている部分を水にひたすと、水圧で空気が抜けます。)

 

5.保温

袋の口をしっかりと閉じたら、肉がしっかりお湯につかるように炊飯器に入れる。保温モードで30分加熱したら取り出し、さらに30分以上寝かせて、余熱で火を通す。

 

6.ソースをつくる

3で使ったフライパンの汚れをキッチンペーパーでさっと拭き取り、サラダ油を加えて熱する。すりおろした玉ねぎを加えて炒める。
水分が飛んで、音がジュウジュウからシュウシュウに変わってきたら、肉から出た肉汁とみりんを加えて煮詰める。最後に醤油を加えて火を止める。

 

7.仕上げ

薄切りにして、付け合わせの野菜と一緒にお皿に盛り付ける。6のソースと、お好みでワサビを添えてできあがり。

 

肉の赤色と酸素

ローストビーフを切るとき、一瞬「思ったよりもピンク色が薄いかも?」と不安に思うことがあるかもしれませんが、切って少し経つとちゃんとピンク色に発色します。これは、肉の色素であるミオグロビンが酸素と結びつくことで赤くなるためです。
ミオグロビンはグロビンというタンパク質に鉄がくっついたもので、この鉄の部分に酸素が結びつくことで、酸素を運んだり貯蔵したりしています。空気に触れていない肉の内側ではミオグロビンが酸素と結びついていないので、暗い色をしていますが、切って少し経つと、空気中の酸素と結びついて鮮やかな赤色に発色するのです。
生の肉でも同じです。かたまりの肉を切ると最初は断面が暗い紫色をしていますが、しばらくすると空気に触れて酸素と結びつき、赤色に発色します。パック入りの肉を使うとき、肉と肉が重なった部分が暗い色をしていることがありますが、これも同様の現象で、決して肉が傷んでいるからではないので安心してください。また、真空パック入りの肉も、開封前は空気に触れていないので暗い色をしていることがありますが、開封して空気に触れることで赤くなります。

12/24(木)更新の次回では、「ダマにならないホワイトソースの科学」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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