親と子の本棚

名探偵のハンカチ

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

からっぽの靴箱

『めいたんていサムくん』より

サムくんは、青葉小学校の2年生になった。
朝、いつもより30分早く、タケシくんやミサトちゃんと登校した。飼育委員になったから、水槽の水かえをしなければならない。
「あれー、おれの うわぐつが ないぞ」――タケシくんがいう。「くつばこ、まちがえたんじゃないの」――ミサトちゃんがそういって、みんなで靴箱を見まわすと、山沢トモキくんと松村ショウゴくんの靴箱もからっぽだ。靴箱の下に名前が書いてあるからわかる。
「ねえ、ねえ、だれかが うわぐつを かくしたんじゃないの」とミサトちゃんがいい、タケシくんが「だれが、いじわるするんだよ。おれ、二年に なって、まだ、いっぺんも けんかしてないぞ」といいかえす。タケシくんは、ちょっと乱暴で、ときどき、けんかをする。
サムくんは、上靴がなくなった3人に共通点があるはずだと考えはじめる。サムくんは、ポケットから、いそいで、空色のハンカチをとり出して、大きく息をすいながら、においをかぐ。赤ん坊のとき、いつもくわえていたタオルをハンカチにしてもらったのだ。

この ハンカチの においを かぐと、あたまが さえて、すいり力が ますのです。これまで、いろんな じけんを かいけつできたのも、この ハンカチの おかげなのです。

サムくんは、きのうの放課後のことを順々にふりかえる。
那須正幹『めいたんていサムくん』の第1話にあたる「きえた おにんぎょう」のはじまりだ。サムくんは、タケシくんのなくなった上靴のありかを突き止め、さらに、新しい事件にぶつかる。

パンケーキを食べていると

サムくんのほんとうの名前は、井上オサムという。小さいときから、いろいろな事件を解決してきたから、みんなが「めいたんていサムくん」と呼ぶ。
サムくんから思い出すのは、パンケーキが大好きな、もうひとりの少年探偵のことである。マージョリー・W・シャーマット『ぼくは めいたんてい』シリーズの主人公、ネートだ。たとえば、シリーズ3作め『なくなった かいものメモ』は、こんなふうにはじまる。

 ぼくは めいたんていの ネートです。
 いつもは いそがしいのですが、けさは めずらしく ひまだったので、きゅうかを とる ことに しました。
 うらにわの 木の下に すわって、すずしい そよかぜに ふかれながら、ぼくは パンケーキを たべて いました。

ところが、そこへ、仲良しのクロードがやってくる。

「スーパーへ いく とちゅう、だいじな かいものメモを なくしちゃったんだ。さがして くれる?」
「ぼくは いま、きゅうかちゅうなんだよ。」と、ぼくは いいました。
「きゅうかは いつまでなの?」
「まあ、ひるごはんごろまでさ。」
「ぼくは ひるごはんまえに、どう しても その かいものメモが いるんだ。」と、クロードは いいました。

ネートは、休暇を切りあげて、事件にのり出す。なくなったメモは、クロードのパパが書いたという。

「山三つ分」へだてて

サムくんは、事件のたびに、空色のハンカチをとり出す。そして、北風の少女が置きわすれたのは、青いハンカチだった。
「くる日もくる日も北風の吹く寒い山の中に、クマの家がありました。」――これは、安房直子「北風のわすれたハンカチ」の書き出し。やはり、風の日に、人間がやってきて、父さんも母さんも、妹も弟もドーンとやられて、クマは、ひとりぼっちになってしまった。さびしいクマは、家のとびらに、「どなたか音楽をおしえてください。お礼はたくさんします。」という貼り紙をする。
クマの家を青い馬にのった青い人がたずねてくる。北風だった。北風は、トランペットをもっていた。1週間たってやってきた青い女の人は、北風のおかみさんだった。おかみさんは、夫と「山三つ分」あいだをおいて走っているという。おかみさんは、バイオリンをもっていた。つぎにやってきた青い人は、北風の少女だった。おかみさんと少女のあいだも、「山三つ分」だ。少女は、ポケットから青いハンカチを出して、いすの上に広げる。

今月ご紹介した本

『めいたんていサムくん』
那須正幹 作、はたこうしろう 絵
童心社、2020年
後半の第2話は「のらイヌの ひみつ」。作者の「あとがき」には次作の予告があるから、この作品も、シリーズになっていく。

ぼくは めいたんてい
『なくなった かいものメモ』

マージョリー・W・シャーマット/ぶん、マーク・シーモント/え、光吉夏弥/やく
大日本図書、2014年
『ぼくは めいたんてい』のシリーズは全部で17巻あって、光吉夏弥、神宮輝夫、小宮由らの訳が混在している。私は、光吉訳が雰囲気があって特に好きなのだけれど、子ども読者は、どの訳が好みだろう。

偕成社文庫
『北風のわすれたハンカチ』

安房直子
偕成社、2015年
1993年に50歳で亡くなった作者の2冊めの童話集(旺文社、1971年)の文庫化。「北風のわすれたハンカチ」ほか2編が収録されている。巻末に、1990年に行われた神宮輝夫との対談が再録されている。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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