子どもと楽しむ料理の科学

卵白が泡立つのはなぜ?メレンゲができる仕組み

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

卵白を泡立てるだけの簡単レシピ

卵白には、かき混ぜるとよく泡立つという性質があります。これを利用して作られるのがメレンゲで、ムースやマシュマロなどのお菓子に空気を含ませたり、スフレやシフォンケーキなどの生地を膨らませたりするのに用いられます。
卵白をかき混ぜると、含まれているタンパク質がほどけて泡の表面を覆います。これによって泡立ちやすく、しかも泡が壊れにくくなるため、もこもことよく膨らむのです。卵白以外に加える材料やタイミング、温度などの条件が、泡立ちやすさや仕上がりに影響するので、これらのポイントを押さえておくとお菓子作りが上達しますし、レシピや用途によって少しずつ作り方が違う理由も納得できるはず。
今回の記事ではメレンゲができる仕組みについて解説し、卵白と砂糖だけで簡単にできるメレンゲクッキーのレシピを紹介します。

 

卵白が泡立つ仕組み

卵白をかき混ぜるとよく泡立つのには、泡を作り出す「起泡性」と、泡を維持する「泡沫安定性」というふたつの性質が関わっています。

ボウルに水を入れて空気を含むようにかき混ぜてもほとんど泡立たず、空気は押し出されてしまいます。これは、水と空気の境目を小さくしようとする「表面張力」という力がはたらくためです。泡によって水と空気の境目が増えないよう、空気を押し出して水同士がくっつきあおうとするのです。

一方、卵白に含まれるタンパク質には水と空気の間に挟まって仲立ちをし、表面張力を下げるはたらきがあります。そのため、かき混ぜて空気を混ぜ込んでも押し出されず、水と空気の境目がたくさんある状態、つまり泡立った状態にすることができます。これが卵白の起泡性です。

また、卵白に含まれるタンパク質には、 かき混ぜることによって形が変化し、泡をコーティングして壊れにくくするはたらきがあるものもあります。タンパク質は、アミノ酸という小さな粒が数珠のように長く連なり、折りたたまれてできています。空気と水の境目ではタンパク質にストレスがかかるため、卵白を泡立てると、泡の表面でタンパク質の折りたたみがほどけます。これらが互いに結びつき、網目のようになって泡を補強するのです。これが卵白の泡沫安定性です。

 

卵白の温度が高いほど、表面張力が下がり起泡性が増しますが、泡が壊れやすく安定性はやや劣ります。逆に、卵白の温度が低いほど泡立ちにくくなりますが、泡が壊れにくく、細かい泡がぎゅっと詰まったコシのある仕上がりになります。電動泡立て器がなく手動で泡立てる場合には、室温に戻した卵を使うと泡立てやすくなりますし、コシのある安定した泡を作りたい場合にはボウルや卵をよく冷やしておくと良いでしょう。

砂糖と熱で泡を補強する

泡立てた卵白に砂糖を加えて作られるのがメレンゲです。砂糖が溶け込むと、粘り気が増して泡がさらに壊れにくくなり、泡同士がくっついて大きくなってしまわないのでよりきめ細かい泡を作ることができます。ここにゼラチンを加えたり、生クリームやチョコレートを加えたりして泡を固めると、マシュマロやムースができます。

また、熱によって泡を固めることもできます。泡立てた卵白を加熱すると、泡立ての際にほどけたものとは別の種類のタンパク質がほどけ、膜を強化するため、よりしっかりとして壊れにくい泡になります。メレンゲを低温のオーブンでゆっくりと焼くと、泡が補強されるのと同時に水分が蒸発するので、カリカリサクサクとした食感のメレンゲクッキーができあがります。

卵白が泡立つのは……

卵白に含まれるタンパク質に、泡を作り出す「起泡性」と、泡を維持する「泡沫安定性」という2つの性質があるから!

作り方/レシピ

メレンゲクッキー

■材料(オーブンの天板1枚分)卵白 1個分 グラニュー糖 40g程度(卵白と同じ重量をはかりとっておく)

作り方

1.卵白を泡立てる

卵白をボウルに入れ、泡立て器でかき混ぜる(ボウルは、油や水分が残っていないものを使う)。

軽めの食感に仕上げる場合や、手動の泡立て器を使う場合は、角が立つまで泡立てる。 

カリカリと硬めの食感に仕上げる場合や、細かく成型したい場合は、軽くほぐす程度で良い。

2.グラニュー糖を加える 

グラニュー糖を3回に分けて加え、よく混ぜる。 

しっかりと角が立ち、泡立て器で混ぜた跡がくっきりと残るくらいまでよく泡立てる。

3.絞り出す 

絞り袋に口金を取り付け、メレンゲを詰めたら、クッキングシートを敷いた天板に絞り出す。 

4.焼く 

星型の口金で真ん中から外側に向かって2周絞り出すとバラの形に。丸く絞ったり、ハート形にしたり、好みの形に絞る。

100℃に予熱したオーブンで1時間焼いたら、オーブンの熱が冷めるまでそのまま入れておく。しっかりと冷めたら出来上がり。

・手順2で耳かき1杯分程度の食紅を加えると、色付きのメレンゲクッキーができます。

写真は、食紅なし・星口金(5切)、赤色の食紅・星口金(5切)、緑色の食紅・リーフ口金を使用したもの。

・湿気るとべたつきやすいので、すぐに食べない場合は、食品用の乾燥剤(シリカゲルなど)を入れた容器や袋に入れて保存します。(食品用の乾燥剤は製菓用品店や100円均一などで購入できます)

砂糖を加えるタイミング

メレンゲの泡立てやすさや仕上がりは、砂糖を加えるタイミングによって変わります。砂糖には、タンパク質の折りたたみがほどけたりタンパク質同士が結びついて網目になったりする変化を邪魔する作用があります。よく泡立てた後で加える砂糖は、泡を補強して壊れにくくしてくれますが、泡立てる前に加えてしまうと泡が立ちにくくなってしまうのです。

したがって、よりふわふわのメレンゲを作るには、まず卵白だけで、角が立つまでよく泡立ててから砂糖を加えましょう。空気をよく含んで軽い仕上がりになるので、メレンゲクッキーにするとシュワシュワと軽い食感に焼きあがります。

逆によく泡立てる前に砂糖を加えると、泡立ちにくく、しっかりと泡立てるのに力と時間が必要になりますが、よりキメが細かくしっとりとしたメレンゲになります。砂糖がたっぷりと溶けた卵白は粘り気があり、気泡の膜が薄くなりにくいので、含まれる空気の量が減ってやや重く、硬めの泡に仕上がります。絞り金などで成形する際に形が崩れにくく、焼くと、よりサクサク歯ごたえのある仕上がりになります。

卵白を強く泡立てていくと、最もふわふわな状態を通り越し、ボソボソとキメが粗い状態に変化してしまうことがあります。これは泡立てすぎが原因なのですが、砂糖を加えると泡立てすぎてもボソボソにならないので、電動泡立て器を使う場合は早めに砂糖を加えると失敗しにくくなります。

 

2/25(木)更新の次回では、「酢飯で押し寿司、ちらし寿司」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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