子どもと楽しむ料理の科学

時間が経ってもおいしい酢飯の秘密

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

保存性に優れている酢飯の科学

ひな祭りの料理といえばちらし寿司。ちらし寿司や押し寿司のように酢飯を使った料理は、もともと、お祭りやお祝い事のように人がたくさん集まるときに作られることの多い料理でした。酢飯は時間が経っても腐りにくく、冷えても硬くなりにくいため、作り置きでもおいしく食べられるという利点があります。現代では冷やご飯も電子レンジで温めれば、ふっくらやわらかくなりますが、そんな技術がなかった時代には、できたてでなくてもおいしい料理でもてなすために、酢飯が活用されていたのではないでしょうか。
酢飯が硬くなりにくいのには、すし酢に使われているある食材の性質が関わっています。今回は、酢飯のおいしさが長持ちする理由について科学的に解説し、ひな祭りにも使えるちらし寿司のレシピを紹介します。

 

デンプンの糊化と老化

酢飯に使われるすし酢は、お酢に砂糖や塩を加えたもので、お酢によって味をさっぱりさせたり、菌の繁殖を抑えて腐りにくくしたりするだけでなく、砂糖のはたらきによってデンプンの「老化」を防ぎ、時間が経ってもご飯が硬くなりにくくなるという効果もあります。

お米を炊くと、硬かった米粒がふっくらとやわらかく粘り気のある状態に変わります。これは、お米の主成分であるデンプンが「糊化」するためです。

デンプンは、グルコースという小さな粒が大量に繋がった鎖が枝分かれしてできていて、生のデンプンはこの鎖がきれいに並んで隙間なくぎゅっと詰まった状態になっています。この状態では、消化酵素が入り込みにくいので消化が悪く、そのまま食べてもほとんど消化されません。しかし、これに水を加えて加熱すると、隙間が緩んで水が入り込み、やわらかく消化しやすい状態に変わります。これをデンプンの「糊化」といいます。

糊化したデンプンは時間が経つと、隙間から水が出て行って鎖が再び並び直し、ぎゅっと詰まった状態に戻っていきます。これをデンプンの「老化」といい、冷やご飯や古くなったパンが硬くパサパサとしているのはこのためです。

砂糖には水を強く引き付ける性質があるため、砂糖を加えると水が自由に動けなくなり、デンプンから水分が出て行って老化するのを抑える効果があります。バゲットのように砂糖を加えずに作るパンは、時間が経つと硬くなりパサつきやすいのに対して、砂糖がたくさん入った菓子パンは時間が経ってもふっくらしっとりとしているのはこのためです。

好みや用途に合わせて砂糖の量を調整しよう

デンプンの老化を抑え、冷めてもふっくらやわらかいちらし寿司に仕上げたい場合、すし酢に使う砂糖の割合はご飯の重さの3〜4%程度がおすすめです。一般的に、米1合分のご飯の重さは300〜350g程度なので、水少なめで炊いて300gとすると、砂糖は1合あたり9〜12g(大さじ1〜1.3杯)程度が目安です。のり巻きやいなり寿司などもこの分量が良いでしょう。

 一方、海鮮丼など生の魚をのせて食べる場合は、甘さ控えめの方が魚との相性が良いので、砂糖の割合は上記の半分程度で十分です。甘味や塩味には酸味を穏やかにする作用があり、砂糖の量を控えるとその分酸味が強く出すぎてしまうので、塩を少し増やすとバランスが良くなります。この場合、砂糖をたっぷり使った酢飯に比べてご飯が老化し硬くなりやすいので、なるべくできたてを食べるようにしましょう

酢飯が硬くなりにくいのは……

砂糖がお米の主成分であるデンプンに含まれる水分と結びつき、デンプンから水分がなくなる「老化」を防ぎ、「糊化」している状態を保つから!

作り方/レシピ

ちらし寿司

■材料(4人分)
米 2合
昆布 5cm角
干し椎茸 4枚
蓮根 50g
菜の花 8本(なければ絹さやでも可)
海老(殻付き・無頭) 6〜8尾
卵 2個
桜でんぶ 適量
そのほかお好みの具材(穴子、いくらなど)
<調味料>
米酢、水、砂糖、塩、醤油、酒

下ごしらえ
干し椎茸は水200mlに浸して戻しておく。

1.ご飯を炊く

米は昆布を入れてやや少なめの水加減(米2合に対し400ml程度)で炊く。

2.すし酢を作る

電子レンジ加熱可能な容器に、米酢大さじ4、砂糖大さじ2、塩小さじ1/2を入れる。ラップをせずに電子レンジに入れ、様子をみながら1〜2分加熱し、10〜20秒ほど沸騰させる。熱いうちにかき混ぜて砂糖を溶かしきる。

3.酢蓮(酢レンコン)を作る

蓮根は皮を剥いてから、厚さ3mm程度の薄切りにする。半分はトッピング用に輪切りまたは飾り切りにし、残りは混ぜ込み用にいちょう切りにする。切ったらすぐに酢水に浸しておくと変色せず真っ白に仕上がる。

小鍋または小さめのフライパンに米酢大さじ4、水大さじ1、砂糖大さじ2、塩小さじ1/4と蓮根を入れて火にかけ、1分半~2分ほど煮る。火が通って、透き通ってきたら火を止め、バットなどに取り出す。煮汁にひたしたまま粗熱をとる。

4.椎茸の甘辛煮

水で戻した干し椎茸は、軸を切り落し、薄切りにする。3で使った鍋(またはフライパン)に干し椎茸、椎茸の戻し汁100ml、砂糖と醤油各小さじ2を加え、火にかける。汁気がなくなるまで煮る。粗熱が取れたら、半分は混ぜ込み用に細かく刻む。

5.酢飯を作る

炊きたてのご飯を飯台(すし桶)または大きめのボウルに移し、すし酢をまわしかけ、しゃもじで切るように混ぜ合わせる。すし酢がなじんだら混ぜ込み用の酢蓮と椎茸の甘辛煮を入れて混ぜ合わせる。(酢蓮の漬け汁は後で使うので捨てずにとっておく)

6.菜の花をゆでる

鍋に湯をわかし、塩を1%程度入れる。菜の花を入れてさっとゆで、ざるの上で冷ます(余熱で火が通るので早めに取り出す)。冷めたら食べやすい大きさに斜め切りにする。

※絹さやで代用する場合は、ザルの上で冷ますとシワが寄るので冷水にとって冷ますと良い。

7.海老をゆでる

殻をつけたまま背わたを取り、酒大さじ1をまぶしておく。6のゆで湯を再び沸騰させ、海老と酒を入れて1分ほどゆでたら取り出す。冷めたら殻を剥いて厚みを半分に切る。酢蓮の漬け汁に海老を浸して味付けする。

8.錦糸卵を作る

卵はしっかりと溶きほぐし、塩少々を加え、ザルでこしてなめらかにする。フライパンにサラダ油を薄くひいて熱する。卵液を適量流し入れ、底面に卵液が薄く行き渡るようにする。弱火で焼いて裏返し、さっと焼いたら取り出し、キッチンペーパーで挟んで余分な油をとる。これを繰り返して卵液を全て薄焼き卵にする。冷めたら縦半分に切り、千切りにする。

9.盛り付け

酢飯を器に盛り、錦糸卵をほぐしながら載せる。飾り用の酢蓮と椎茸の甘辛煮、菜の花、海老をのせ、桜でんぶを散らして出来上がり。

酢蓮と椎茸の甘辛煮は前日に作っておいてもOKです。また、多めに作って常備菜にしても便利です。

デンプンの老化を抑えるには

砂糖を加える以外にも、デンプンの老化を抑えご飯が硬くなるのを防ぐ方法があります。

デンプンの老化は0〜10℃の低温でよく進むため、冷蔵庫に長く入れておくとすぐに老化して硬くなってしまいます。一方、0℃以下では水分が凍って移動できなくなるので老化が進みません。したがって、炊いて余ったご飯は保存容器に入れるかラップに包んで冷凍しておくと、解凍したときに炊きたてのようにふっくらやわらかく食べることができます。半日程度であれば冷蔵庫で保存してもそこまで老化は進みませんが、1日以上保存するのであれば冷凍庫での保存がおすすめです。

また、私たちが普段ご飯として食べている「うるち米」に比べると、おこわやお赤飯に使われる「もち米」は老化しにくいという特徴があります。これは、含まれているデンプンの構造と割合が異なるためです。お赤飯がちらし寿司と同様に、お祝いの席や仏事など、人が集まる場でふるまわれることが多いのも理にかなっていると言えるでしょう。

 

3/25(木)更新の次回では、「仕上がりに差が出る!? ポテトサラダのポイント」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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