親と子の本棚

待ちうけているもの

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

とうちゃんとかあちゃんの変身

『ちこくのりゆう』より

森くま堂・北村裕花の絵本『ちこくのりゆう』の表紙には、ランドセルを背負って、ひどくいそいで走っている男の子が大きく描かれている。そして、塀の上や道のはしから、男の子をにらむように見ているネコが3びき。
表紙をあけると、とびらには、その男の子の顔がアップで描かれ、少し見上げるような目で、「せんせい、きいてえな。」といっている。男の子の左側にあるのは、黒板だろうか。
とびらをあけると、男の子が語り出す。

 あさ おきたら、とうちゃんと かあちゃんが カブトムシに かわっとったんや。
 ふたりとも くいいじが はってるし、なんや へんなもんでも たべて、こないなことに なったんやろうか。
 カブトムシの とうちゃんは、とがった ツノ、もぞもぞ うごかして、「はらへったー」とさわいだ。
 かあちゃんは ぶんぶん とびまわって、「マサシ、なんか たべるもん、もってきてんかー」

こまった「ぼく」(名前はマサシ)は、クワガタを飼っていたときのゼリーの残りを試しにあげてみると、食べはじめた。
時計を見ると、もう、学校がはじまる時間だ。「ぼく」は、「とうちゃん、かあちゃん、たくさん たべや」といって、家をとび出す。ところが、ミャオと声がして、「ぼく」を呼びとめるものがいる。――「マサシ、なにを そないに いそいどんのや?」塀の上から、ノラのタイショーが見下ろしている。

なぞなぞと回文

タイショーは、このあたりで一番大きいトラネコだ。「ぼく」が「がっこうに ちこくしそうなんや」、ちこくすると、「しかられる。1ねん3くみの センセ、こわいがな」というと、タイショーが「かわりに、ワシが いってやろか?」といい出す。タイショーは、「えんりょせんでも、ええがな。」と、緑色の目を糸みたいに細くする。そのとたんに、ぞくっと寒気がして、「ぼく」とタイショーが入れ替わってしまう。
トラネコになった「ぼく」が「がっこうに いかんでも、ようなった。」と思ったのもつかのま、今度は、金色の毛の大きなネコ(名前はキング)があらわれて、けんかを仕掛けてくる。「ぼく」は、「キ、キングさん。な、なぞなぞで しょうぶしましょう。」ともちかけるのだが……。
なぞなぞではなく、回文の勝負を提案するのは、佐々木マキ『おれはレオ』の女の子だ。
第一話「バナナくだサイ」では、秋のある日、女の子が池のほとりでバナナを食べていると、大きなサイが走ってくる。女の子は、あわてて近くの木によじのぼるが、サイは、その木に体当たりして、ゆさぶっては、「バナナ、おれにくれい」「はらぺこなんだ、バナナくれい」と繰り返す。

木の上から、女の子が大きな声で、こういった。「サイ食べたいさ!」
 サイのうごきが、びたっととまった。
「なんだ、そりゃ」サイが女の子をじろっと見あげた。
「これは回文」と女の子がこたえた。「まえからよんでも、うしろからよんでも、同じになることばよ」
「ああ回文か」サイがいった。「それなら、おれも知ってるぞ。サイだっておてつだいさ。こういうやつだろ」

女の子は、「うまい、うまい」といって、「回文で勝負しない? 勝ったほうが、このバナナを食べられる。さきに三回まちがえたほうが負けよ。」と、もう1本バナナを取り出す。

3年1組のみんな

さて、ネコたちが待ちうけていて、行く手をはばまれた『ちこくのりゆう』の「ぼく」は、無事に学校にたどり着けたのだろうか。「ぼく」の1年3組は、どんなクラスなのだろう。
枡野浩一『みんなふつうで、みんなへん。』には、3年1組のみんなが登場する。最初の話「赤いのと迷いながらも買ってきたオレンジ色のボールの話」の主人公は、中田宏和くんだ。きのう、担任の速井温子(はるこ)先生が「あしたはボールをわすれずにね」といったから、宏和くんは、近所のスポーツ用品店に行って、前からほしかったオレンジ色のボールを買った。しかし、きょう、理科の時間になって、宏和くんは、ようやく気がつく。もってこなければならなかったのは、ボールではなくて、実験に必要なボウルだったのだ。前の席の丹羽治くんも、となりの席の室井多緒さんも、プラスチックや金属の丸い器を机の上に置いている。
つぎは室井多緒さんの話、そのつぎは林田葉くんの話、短い物語が全部で15編おさめられている。

今月ご紹介した本

『ちこくのりゆう』
森くま堂 作、北村裕花 絵
童心社、2021年
トラネコになった「ぼく」の出まかせのなぞなぞは、「キングの まんなかに ある ものは、なあんだ?」
一般公募の第9回絵本テキスト大賞の受賞作だ。

『おれはレオ』
佐々木マキ
理論社、2006年
「ママのまな板のタイ生のまま」―「タイ泣いた」―「石屋くやしい」―「石だたみ正しい」……女の子とサイの勝負はつづく。
同じ作者の『なぞなぞライオン』(理論社、1997年)にも、サイが出てきて、女の子としりとりをする。

『みんなふつうで、みんなへん。』
枡野浩一 文、内田かずひろ 絵
あかね書房、2021年
2番めは、「あのときの子ネコのことを思いだし「わあ!」とさけんでしまった話」。15編のタイトルは、みんな長い。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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