親と子の本棚

異形の王子たち

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

「たいせつに生きるんだよ」

『ヘビと船長』より

ふしみみさをポール・コックスの絵本『ヘビと船長』の表紙には、「フランス・バスクのむかしばなし」と記されている。「「バスク」とは国ではなく、ピレネー山脈をはさんで、フランスとスペインにまたがる地方で、北は大西洋に面しています。」――これは、ふしみみさをの「あとがき」の説明だ。つづいて、こう書かれている。

 バスク人は、スペインともフランスともまったくちがった、独自のめずらしい文化を持ち、ヨーロッパでもっとも古い民族とも言われています。中世から漁師や船乗りとして海にくり出し、遠く南米や日本にまで行った人たちもいます。日本にはじめてキリスト教を伝えた、フランシスコ・ザビエルもバスク人です。

さて、絵本の物語は、「むかし、ひとりの船長がいました。」と語りはじめられる。船長は、腕のいい船乗りで、世界の海を渡りあるいたが、悪いことがかさなって、船をうしなったという。いまは、海辺の村で暮らし、朝早い散歩を楽しみにしていた。船長は、散歩のとき、海辺に住むヘビに毎日声をかける。――「いのちは神さまのおくりものだ。たいせつに生きるんだよ」
ある朝、そのヘビが、突然、船長に話しかける。――「船大工のところへいき、とてもがんじょうな船をつくるように、たのんでください。そして、ふだんの二ばいのお金をはらうといってください」びっくりした船長は、それでも、いわれたとおりにする。つぎの朝、ヘビが、またいう。――「十二人のたくましい船のりをやとい、ふだんの二ばいのお金をはらうといってください」船長は、また、いわれたとおりにする。
やがて、とびきりの船ができあがり、船長と12人の船乗りは出航する。ヘビは、船底の大きな木箱のなかですごし、船長は、毎日ヘビに会いに船底へ下りていく。

怒りとやさしさ

船長の船は、大あらしに会い、その後も大冒険がつづくのだが、物語の終わりで、ヘビは、王子に戻る。王子は、赤目のおばあさんに呪いをかけられ、7年ものあいだ、遠い国に連れていかれていたのだ。
ヘビが王子のすがたになったとたんに思い出すのは、グリム童話の「蛙の王さま」だ。ここでは、矢川澄子・梶山俊夫の絵本『かえるの王さま』で紹介しよう。
王様の3人のお姫様のうち、末のきれいなお姫様が金(きん)のまりで遊んでいると、森の池に、まりが落ちてしまう。お姫様が悲しんでいると、カエルが顔を出す。カエルがまりを取ってきてくれるというのだけれど、カエルは、こうもいう。――「いいかい、おれと なかよしに なって、ごはんも いっしょに たべるし、ベッドも いっしょに ねむる。それさえ やくそく してくれりゃ、すぐにも まりを とってきてやるよ」お姫様は、「もちろん!」と返事をしてしまう。まりは、無事にお姫様の手に戻り、お姫様は、さっさと逃げ出す。
そのあくる日。食事のとき、カエルがやってきて、「すえっこの おひめさま、ドアをあけろ! きのうの やくそく わすれたか!」とせまる。王様が「やくそくしたって? だったら、まもらなくちゃね。」というものだから、お姫様は、しぶしぶ入れてやって、カエルと同じ皿で食べる。でも、カエルといっしょのベッドで寝るのは、どうしても、いやなのだ。

「ええ、もう、がまんできないわ。こうしてやる!」
 おひめさまは、かえるを つまみあげると、ちからまかせに かべに たたきつけた。
 ところが――

そのとき、悪い魔女の呪いがとけて、カエルは、王子のすがたに戻る。お姫様のがまんできないほどの怒りが王子を救ったことになる。『ヘビと船長』の王子を救ったのは、船長のやさしさだったけれど。ヘビは、船長が毎朝話しかけてくれるので、「心のやさしいこの人なら、きっとのろいをとく手つだいをしてくれるだろう」と思ったのだ。

醜さをさらす

『ヘビと船長』や『かえるの王さま』は、ヘビやカエルという異形(いぎょう。ふつうとちがう、怪しいすがた、かたち)の王子たちの物語だ。アニー・M・G・シュミット『カエルになったお姫さま お姫さまたちの12のお話』に収められている「カエルになったお姫さま」では、とても美しいお姫様が異形の者となる。
美しいけれど、ひどいうぬぼれ屋のお姫様は、帽子を278個ももっているのに、きれいな緑色の帽子をほしがって、池のカエルの皮で帽子を作らせようとする。それがカエル王の怒りをかって、お姫様は、首から上がカエルになってしまう。カエルの顔のお姫様は、城を出て、放浪することになる。お姫様の魔法がとけたのは、心をよせる、となりの国の王子の前に自分の醜さをさらす決心をしたからだ。

今月ご紹介した本

フランス・バスクのむかしばなし
『ヘビと船長』

ふしみみさを 文、ポール・コックス 絵
BL出版、2021年
絵は、フランス人のアーティスト、ポール・コックスだ。緑と赤という「バスクの色」が多く使われている。人物やものの輪郭の色が、少しだけ、わざとずらされていて、素朴だが、深い味わいがある。

絵本・グリム童話
『かえるの王さま』

矢川澄子・再話、梶山俊夫・絵
教育画劇、2001年
王子は、お姫様と結婚して、やがて王様になったのだろう。もとはカエルだった王様だから、『かえるの王さま』だ。グリム童話集のはじめに収められている話である。

『カエルになったお姫さま お姫さまたちの12のお話』
アニー・M・G・シュミット 作、西村由美 訳、たちもとみちこ 絵
徳間書店、2014年
オランダの著名な作家、シュミット(1911~95年)のおとぎ話ふうの作品集。
「訳者あとがき」によれば、オランダは、「カエルの国」と呼ばれることがあるという。――「オランダは、国土が低く、その四分の一が海抜ゼロメートル以下にあり、湿地や湖も多いので、カエルがたくさんすんでいるからだそうです。」

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

関連リンク

おすすめ記事

川のように話す、砂に書く川のように話す、砂に書く

親と子の本棚

川のように話す、砂に書く

通り道を通る者通り道を通る者

親と子の本棚

通り道を通る者

写真のなかの子どもたち写真のなかの子どもたち

親と子の本棚

写真のなかの子どもたち


Back to TOP

Back to
TOP